上 下
27 / 63

27・風邪でも引いたのでしょうか、寒気がします。

しおりを挟む
 
(ふざけやがって!)

 失礼な発言に怒りのままに罵声を浴びせようとして、ふと、抵抗を覚えました。
 それもそのはず、確かに不敬とも捉えられかねない発言なのですが、私も同じなのですから。
 言われてみればその通りで、調理長の作ったお料理とはいえ、晩餐会のお料理は色々な意味で、美味しくありません。

「この家の料理が不味いという訳では無いんだ」

 赤鬼の言葉には、私の顔色をうかがって言い訳するような、卑屈な意味合いは微塵もありません。

「温かい飯を気の合う仲間と、旨い酒を酌み交わしながらでないとな」

 赤鬼の口元が緩み白い歯が覗かせながら、リリアに向かって空になったグラスを差し出します。
 するとリリアは今まで抱え込むようしていた酒瓶を、まるでグラスが差し出されるのを見計らっていたように、手にして傾けました。
 その息の合った仕草は、赤鬼が無理強いするのでもなく、リリアが媚びるでもなく、ごく自然に、いったい何がそうさせるのか理解できませんが、ひどく大人びていて、あたかも何年も連れ添った夫婦の様にも見受けられました。
 
「ああ、リリア嬢、ありがとう」

 赤ワインで満たされたグラスを軽く掲げて会釈する赤鬼に、リリアは驚愕の面持ちで、取り落としそうになった酒瓶を慌てて握り直します。

『何を驚いて……?』問いかける間も無く、リリアが上ずった声で言います。

「何故、私の名前を……」

 その言葉にリリア以上に驚いてしまいました。

 リリアが『拝見しました』と、言った時に、詳しい状況を聞いたわけではありませんが、中庭の植え込みの陰からでも覗き込んで、そそくさと部屋に戻ったのだろうと、勝手に思い込んでいました。
 それにしても、直に赤鬼と接する機会など無かった筈です。
 赤鬼は何故リリアの名前まで知っているのでしょう? しかも、リリアーナと呼ばずに、親しいごく限られた人にしか呼ばれないリリアという愛称でです。 
 私の事も『お久しぶり』と言ったぐらいですから、リリアの事も知っていたという事なのでしょうか?
 
「赤髪の凄い良い女が、そう何人もいる訳が無い」

 赤鬼は誰に言うでもなく、納得したように大きく頷くと、大真面目な顔をして言いました。

 成る程、晩餐会にも出ずにという事ですか。
 やはり油断も隙もあった物ではありません。
 名前を呼ばれ、一瞬、狼狽したリリアですが、直ぐに私と同じ考えに至ったのでしょう、私に冷ややかな視線を投げかけて寄こしました。

 リリアは、その冷ややかな視線をそのまま赤鬼に向け、凍り付くような声で言います。

「お褒め頂き光栄です」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

処理中です...