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27・風邪でも引いたのでしょうか、寒気がします。
しおりを挟む(ふざけやがって!)
失礼な発言に怒りのままに罵声を浴びせようとして、ふと、抵抗を覚えました。
それもそのはず、確かに不敬とも捉えられかねない発言なのですが、私も同じなのですから。
言われてみればその通りで、調理長の作ったお料理とはいえ、晩餐会のお料理は色々な意味で、美味しくありません。
「この家の料理が不味いという訳では無いんだ」
赤鬼の言葉には、私の顔色をうかがって言い訳するような、卑屈な意味合いは微塵もありません。
「温かい飯を気の合う仲間と、旨い酒を酌み交わしながらでないとな」
赤鬼の口元が緩み白い歯が覗かせながら、リリアに向かって空になったグラスを差し出します。
するとリリアは今まで抱え込むようしていた酒瓶を、まるでグラスが差し出されるのを見計らっていたように、手にして傾けました。
その息の合った仕草は、赤鬼が無理強いするのでもなく、リリアが媚びるでもなく、ごく自然に、いったい何がそうさせるのか理解できませんが、ひどく大人びていて、あたかも何年も連れ添った夫婦の様にも見受けられました。
「ああ、リリア嬢、ありがとう」
赤ワインで満たされたグラスを軽く掲げて会釈する赤鬼に、リリアは驚愕の面持ちで、取り落としそうになった酒瓶を慌てて握り直します。
『何を驚いて……?』問いかける間も無く、リリアが上ずった声で言います。
「何故、私の名前を……」
その言葉にリリア以上に驚いてしまいました。
リリアが『拝見しました』と、言った時に、詳しい状況を聞いたわけではありませんが、中庭の植え込みの陰からでも覗き込んで、そそくさと部屋に戻ったのだろうと、勝手に思い込んでいました。
それにしても、直に赤鬼と接する機会など無かった筈です。
赤鬼は何故リリアの名前まで知っているのでしょう? しかも、リリアーナと呼ばずに、親しいごく限られた人にしか呼ばれないリリアという愛称でです。
私の事も『お久しぶり』と言ったぐらいですから、リリアの事も知っていたという事なのでしょうか?
「赤髪の凄い良い女が、そう何人もいる訳が無い」
赤鬼は誰に言うでもなく、納得したように大きく頷くと、大真面目な顔をして言いました。
成る程、晩餐会にも出ずに当家の事を探っていたという事ですか。
やはり油断も隙もあった物ではありません。
名前を呼ばれ、一瞬、狼狽したリリアですが、直ぐに私と同じ考えに至ったのでしょう、私に冷ややかな視線を投げかけて寄こしました。
リリアは、その冷ややかな視線をそのまま赤鬼に向け、凍り付くような声で言います。
「お褒め頂き光栄です」
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