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11・止まれと言っても、止まってくれないのです。
しおりを挟む「あれ~リリア、食べないの?」
衆目を避け、逃げるように駆け込んだ広場の長椅子で、ランツ様を挟んで三人並んで串焼き肉を頂いています。
リリアは身を縮こませて、居心地悪そうにしていますので、追い打ちをかけるように皮肉を込めて言ってやりました。
ランツ様は両手に串を握り締めて、大きく口を開けて豪快にパクつきますが、その所作は洗練されていて少しも粗野な印象がなく、こういったところも皆から慕われている理由の一つでは無いでしょうか。
「どうしたリリア? 旨いぞ」
ランツ様の言葉には何一つ嫌味はありません。
その言葉に、リリアはますます身を縮こませながらも、串焼き肉を口にしました。
そんなリリアの姿を見て、ほんの些細な悪戯も私にとっては大冒険だった頃の事を思い出してしまいました。
私が調理場からこっそり掠め取って来たご馳走を、三人で分け合って食べようとして、ランツ様は大喜びだったのですが、リリアは罪悪感があったのか食べるのを躊躇っていたものの、ランツ様に促された途端、夢中で食べ始めたのでした。
中庭の植え込みに隠れて、三人並んで、座り込んで、むさぼるように食べて、凄く美味しくて、驚いて、顔を見合わせて、お互いの頬に着いた食べカスを指差して、何だか無性に可笑しくて、大笑いして、でも空はこんなに広く無くて、塀に囲まれた小さな四角い空で、何だかちょっぴり切なくて、こうして又三人だけで、何処までも広がる青空の下で、美味しい物を食べている事が嘘みたいで……。
いけません、感傷的になってしまいました。
気を取り直してランツ様に尋ねます。
「ランツ様は何故こちらに?」
私の問い掛けに呆れたように眼を見開き、頬張った肉をゆっくりと音を立てて飲み込むと、返してきます。
「姫、それはこちらの台詞ですよ」
(あ! そりゃそうだ)
「あまり不用心な事はして頂きたくありませんな」
眉根を寄せて顔をしかめるランツ様です。
城館を抜け出すのに気付かれて、ご自身の責任問題にもなりかねないのに、引き留めずに自由にさせて頂いた上に心配して下さって、後をつけて見守っていてくれていたに決まっています。
エドアルドの荷馬車に乗って商会に直行するなら警備もしっかりしていますし、心配するほどの事も無いでしょうが、街中をフラフラしていては不用心だと思われ、声をお掛けになられようとしたのも尤もな事です。
余計な事を言っては藪蛇になりそうですし、話を逸らすのにも丁度良いですから赤鬼の事を訊ねてみます。
「ランツ様お尋ねしたいことがあるのですが」
「はい?」
何の屈託も無い笑顔を向けられて……。
胸が高鳴ります。
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