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9・青空を見上げて食べると、美味しさ三割増しです。
しおりを挟む降りた所は海岸通りの繁華街です。
まだエドアルド商会に向かうのは幾分早いですし、小腹も減ったので屋台街へと向かいました。
青い空に映える、色とりどりの様々な商品が並べられた屋台が軒を連ね、行き交う人々で混雑を極める中、客寄せの賑やかな売り声、お客の値切る声、冷やかしの声が響きます。
あたりに漂う食欲をそそる様々な香りに惹かれ、領内の繁栄に身も心も浮き立ちます。
そんな想いを巡らせていると、リリアは屋台の海老の鬼がら焼きに目が釘付けになっていました。
長方形の石造りの炉に炭が熾こしてあり、その上に金網が置かれています。
どうしてそこまで無愛想な顔ができるのか聞きたい位の、いかつい顔した親爺さんが、おが屑の入った木箱から無雑作に、大海老を鷲掴みにして取り出すと、傍らにある水桶に突っ込み、おが屑を洗い流して、まな板の上で大きな包丁で縦二つ割りにして、金網の上に乗せます。
オリーブ油を回しかけ、薄切りにしたニンニクと藻塩を振りかけ、その上にハーブをたっぷりと乗せました。
(おー!)
あまりの手際の良さに、無愛想な顔が神々しく見えて来るから不思議です。
『パチッ!』弾ける音がして、海老の殻が色付き始めると『クツッ』、と海老の汁が音を奏で、ハーブが、『チリッ』と身を焦がすと、海老、オリーブ油、ニンニク、ハーブ、様々な香りが螺旋を描いて煌めきながら立ち昇ります。
リリアの海老を見詰める眼が怖いぐらい真剣です。
親爺さん、熱々を平気な顔して摘まんで、蓮の葉に載せて差し出すと、顎を突き上げて、炉の前にあるライムの櫛切りを指し示します。
まったくぶれない、見事な無愛想っぷりです。
海老の赤と、葉の緑。鮮やかな色調がとても映えています。
リリアにライムを渡そうとしたら、海老の半分を葉っぱで隠しました。
あぁ、半分だけにかけろという事ですか。
食べ物の事になると主従関係が一切無くなるのは、いつもの事ですので気にはしません。
私もそうしましょう。
青空の下、潮風に吹かれ、お下品ですが立ったまま手掴みで食べる旬の海老。
(うんめ~!)
美味しく無い筈がありません。
歯が触れると『ムニュニュ』と心地良く押し返してきたかと思うと『プッツン』と弾けて、磯の香りと旨味たっぷりの身汁が溢れ出します。
内臓を絡めて食べると、これがまた微かな苦みとコクが加わり旨味倍増です。
最後に残った焼き汁を一息に飲み干すと、様々な味わいが複層的に絡み合い正に絶品。
あっという間に食べ終わり少々物足りません。
もう一つ頼もうかしらと思い、
「リリア、もう一つ……」
あれ? リリアが居ません。
って、隣の串焼き肉の屋台にいやがった。
リリアの食べ物に対する嗅覚は間違いありませんので、さぞや美味しい串焼きだろうと思い歩み寄ろうとした、その時です。
私の全身に緊張が……走ります!
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