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 5・やっちまうのも悪くありません。

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 部屋に入りました。

 扉を閉めると、そのまま力無く寄りかかります。

 少し火照ったような身体に、冷たい扉の感触が心地良く、ホッと一息つきました。
 まったく、何時まで経っても慣れるという事が無く、あの子達に相対すると力が抜けてしまうような気がします。

「カロリーナ様とカルロ様ですか」

 疑問というより念を押す様な問いかけをしてきたのは、私付きの近侍きんじのリリアー百合ナです。
 
 濃紅色の長い髪を綺麗に結いまとめ、スッと伸びた鼻筋、紅く濡れそぼった唇。
 長いまつ毛が影を落とす、人の心を見透かすような切れ長の鋭い目が印象的な、妖艶な美女です。
 
「本当に危険なお二方ですね。を骨抜きにして、しまわれるのですから」
 
 リリアは含み笑いをしながら、水差しを取り上げ、グラスに水を注いで手渡してくれました。
 私から花束を受け取り花瓶に生けると、水を飲み干すのを見計らって、リリアが言います。

「拝見しました」

 わずかに顔を伏せ、探るような目付きで私を見詰めました。

「どう思う?」
 
 リリアは小首を傾げて返してきます。

「お嬢の事ですから、それをこれから調べるのではないかと思っていましたが?」

 リリアは微笑み、私からグラスを受け取り、水を注いで一気に飲み干しました。
 手の甲でゆっくりと、口許から滴る水を拭い、顔の下半分を隠したまま、スッと眼を細めて言います。

「それとも……排除しますか?」

 何一つ気負うでもなく、『水のお替わりは如何ですか?』とでも尋ねるのと変わらぬ声音でした。
 口許から手を離した、まるで仮面を張り付けたかのような、その表情からは真意が読み取れません。

「出来る?」

 私は腹の奥から、得体の知れない汚物を吐き出すように問いかけます。

「お嬢好みとは言えませんね、派手な事になりそうです」

 私はリリアの手から水差しとグラスを奪い取って、こぼれるのも構わず荒々しく水を注ぎます。
 グラスを傾け、汚物を洗い流すように一気に飲み干し、テーブルに叩きつけるるように置いて声高に言います。

「派手なのは嫌いじゃないわよ!」

 人が変わったように呆気に取られて眼をみはるリリアと目が合うと、こらえきれずに噴き出しました。

「面白そうだけど、まずは色々と知りたい。街にでるわ」

 リリアは肩をすくめ、おどけて着替えを指差して言います。

「ご用意しております」

 いつもながらの用意周到さ、早速ドレスを脱ぎ捨てて町娘に変身です。

(捨てたもんじゃねーぜ!)
 
 普段と違う衣装をまとい姿見の前でクルリと一回転、腰に手を当て胸を張って鼻をひとつ『ふんす!』と、鳴らしました。

 普段は冷静沈着なリリアも、幾分か楽しげに見えるのは間違いではありません。

 私達は街に向かって、

 走り出します!
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