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57・つまみ食いはいけません。
しおりを挟む翌朝、開発室の扉を開けると……なかなかシュールな光景が。
美女二人が、真っ二つに梨割された大きなタイの頭に手掴みでかじりつき、兎っ娘が皿回しよろしく、ピザドゥを掲げ、狼っ娘がミスリルソードを素振りしていました。
『マリったら、こんなに美味しい鯛の頭を豚の餌にしてしまおうなんて、もったいなさ過ぎ。藻塩とバルサミコ酢を掛けて食べると絶品なのよ』
『何でも「ヒュメ・ド・ポワソン」といって、昨日の黒鯛で魚の出し汁をお作りになった、出汁殻だそうで「おいしくないよー!」と、マリ様が仰るのを無理やりココ様が。この一緒に煮込んだお野菜も、またいい味出してまして』
『マリ様が『ラビ。パフォーマンス、モ、ダイジ』と仰って』
『腸詰用の挽き肉作るっス。マリ様が『ウル。ミンサー、ダメ。オオキサ、オナジ』食感が均一になってしまうのがいけないみたいっス』
なるほど、納得です。
では、まずは、一番気になる事を。
「マリ。ヒュメ・ド・ポワソンで何を作るの?」
「ピザの店用のクラムチャウダー」
なんですとー!?
「みんな、喜んでくれるかなぁ~、ちょっと心配」「だいじょーぶ!」
私、即答で断言します。
異世界ではクリーム系のスープは見かけた事が無いので楽しみです。マリ曰く、タイやヒラメなどの高級な白身魚のアラが大量に出るので、有効活用したいそうです。
「マリ! 良いのあったぞ! 砂抜きもして有るってよ!」
勇者が勢い込んで入室して来ました。
作業台の上に竹で編みこんだカゴを乗せ……おー! 美味そうです。大粒のアサリが山盛りです。
「すげーいーアサリだ!」
マリは上機嫌で、煮たてた魚の出し汁の中にアサリを入れて、アサリの口が開くと取り出します。鍋に何種類か香味野菜を入れて炒めて、白ワインを注ぎ、アルコールを飛ばして煮詰めると、生乳、アサリを煮た魚の出し汁、月桂樹と丁子を入れて煮込みます。
「マリ、そのアサリはどうするの?」
「煮すぎると固くなるから、カラから外して、最後に入れる―!」
「私がやります!」
「え~、ロキは……」「私がやります!」
マリにみな迄言わせず、アサリを奪い取りました。
「さ~あ、お手伝い、お手伝い」
ふふん、これで私にも賄いを食べる権利が派生しました。チマチマとアサリを殻から外すのは何気に楽しいです。美味しい賄いが食べられると思うと、尚更です。おっと、いけません、貝柱もしっかり外さないと。
う~ん、それにしてもプックリとした実に美味しそうなアサリです。
う~ん、う~ん、実に美味しそう。
う~ん、う~ん、う~ん、実に美味しそう……。
「ロキ!」
マリに怒られちゃいました。
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