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53・発酵食品って、お酒に合うんです。
しおりを挟む『基盤は一緒なのに、行く先がバラバラですな』
改めて別々の味わいのコンフィをお食べになった、総料理長が仰いました。
『煮た物を、焼く、更に煮る、揚げる、炒める。手間暇かけて全く別の味わいにするのですから、奥が深い』
『総料理長は何が一番お気に召しました?』
私が尋ねると、総料理長は頭を抱えて、
『う~ん、どれも甲乙つけがたいですが……品格からいったら、ブランデーソースですな』
『料理長は如何です?』
『わたくしは赤ワイン煮ですね。レストランでお出しする商品として、他の料理と組み合わせやすいと思います』
他の調理部の方々も、ブランデーソースと赤ワイン煮を推されます。個人的な好みはさて置いて、レストランの商品としての完成度が判断基準になっているようです。こういったところにも、職業意識の高さを感じます。
『私は何と言っても「フライドチキン」ですね。「ジンリッキー」を頂いたから尚更なのですが、早急に専門店を出したいですね』
『お恐れながら、魔王様に御同意でございます。「フライドチキン」に「ジンリッキー」のマリアージュは、正に無敵』
うん、アンタ達には聞いていない。
『え~、無敵の組み合わせといえば、プレーンコンフィにカスレじゃないですかぁ~。鴨の良さが一番味わえると思いますぅ~。白ワインとも相性いいですぅ~』
うん、真っ当な事を言っているとは思いますが、私のお乳の谷間でまったりしている、ココ様にも聞いていない。
『ラビちゃんは?』
『赤ワイン煮です』
ラビちゃん即答です。
『あら、意外。てっきりラビちゃんはカスレの合うプレーンかと』
『えぇ、カスレも抜群ですけど、ピュレには赤ワイン煮が合うかと』
あぁ、なるほど、納得です。
『ウル……』
『全部っス!』
はい、ウルちゃんの気分爽快な答え、頂きました。
肝心かなめのマリは、と尋ねると、
「う~ん、マリは、ちがうの」
また、訳の分からない事を言い出しましたよ、この娘は。
「何よ、マリ。このコンフィもいまいちなの?」
「ううん、みんな上手に作ってくれて、すげーうめーと思うんだけど……」
「ブランデーソース「すげーうめー!」って言ってたじゃない」
「あれは、おソースがおいしかったの……」
いつになく歯切れの悪い言い方ですね。
「はは~ん、マリ、分かったぞ。コンフィ本来の味わいが良いって事か?」
「うん」
横から偉そうに口を挟んで来たのは、もちろん勇者です。
「コンフィ本来の味わい?」
「あぁ、出来立ても、もちろん旨いんだが、そもそもコンフィって保存食だろ。ラードで煮て、そのまま漬け込んで置くと日持ちするし、毎日丁寧に火入れすれば長期保存が効くんだ。すると、ラードの風味がしっかりと加わり、尚且つ発酵して、少々酸味が出て来て独特の味わいになるんだよ。な、マリ?」
「うん、マリは、そっちがすき!」
うわ~、また面倒な事になるなと、恐る恐る、皆さんの方を振り向くと……。
第三次コンフィ試食会が決定したようです。
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