45 / 72
44・危なーい!
しおりを挟む頼もしいです。
ラビちゃんがピザの説明をしているのを、作業台を取り囲んでいる調理部の皆さんが、委細聞き漏らすまいと、真剣な面持ちです。
『取り合わせを知るのも大事な仕事だ』
と、総料理長が仰ってジョッキ片手なのですが、少しも浮ついたところがありません。
それに引き換え、テーブル席の連中ときたら。
能天気ここに極まれりです。
いえ、一人だけ場違いな難しい顔をしています。その顔を見て、慌てて給仕長に耳打ちしました。
『給仕長、酒管部の協賛金の書類、もう財務部に提出しました?』
『えぇ、それが何か?』
『酒管長が怒鳴り込んで来たので『こんなの無効です』と、控えを破り捨てて誤魔化して『是非一度ピザを食べてみて下さい』と、お誘いしたのです』
『あぁ、それでですか……ロキエル様、此処は私にお任せいただけますか?』
ん? 給仕長は何を?
『酒管長、ピザのお味は如何ですか?』
『あ? あぁ、旨いのは勿論なんだが、この「キンキンニヒエタ」エールに素晴らしく合うな』
『さも、ありなん。ピザ店を出店したらエールの取り扱い高が爆発的に増えると思いませんか?』
『あぁ、このピザを食べて確信したよ』
『では、改めて協賛金の件。ご了承頂けますか?』
『あぁ、勿論だ。いつでも書類を持って来てくれ』
えー! 協賛金の二重取りですか!? この女、あくど過ぎます。
『あー、いや、それは結構です』
割って入って来たのは総料理長でした。
『結構とは、どういう意味でぇ?』
酒管長、初っ端からけんか腰です。
『調理部で全額出資するという事ですな』
総料理長、にこやかな顔で言いますが、目が笑っていません。利権に喰いつくスカベンジャーの眼です。各部署で一番取扱高が乱高下する部署だけに、安定した収益が見込めるピザ店は魅力的に映るのでしょう。実際にピザを試食して、その確証を得たのに違いありません。
すかさず料理長を始め、調理部の皆さんが音もなく総料理長の背後に控え、揃って目をすがめます。一様に危険な香りを察知して、気を合わせる呼吸は素晴らしいの一言です。
しかし、そんな事でひるむ様な酒管長ではありません。
『はんっ! 美味しいところは独り占めってか』
酒管長はそう言って、チラリとココ様を見やりますが、無論、ココ様は気にも留めず、ウルスペシャルにかじりついています。
『その通りですが、何かいけませんか?』
冷ややかな口調で総料理長が言うのを、
『ほう、面白ぇ、開き直りやがったか』
もう、どうして美味しいお料理を食べているというのに、喧嘩が始まってしまうのでしょうか?
マリが哀しむといけません……って!?
「何するのマリ! 駄目よ!」
私が止める暇もありませんでした。
訳の分からない事を叫びながら、総料理長のお腹に突っ込んでいったのです。
『タゼイニ、ブゼイ、シュカンチョウサマ、スケダチイタス!』
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる