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37・恥ずかしがり屋さんなんだから。
しおりを挟む花の香りに包まれています。
給仕長がお連れになったメイドさんたちに囲まれているのです。
『どこでもお好きな所に掛けて下さい』
と、テーブルに誘うと、なぜか皆一様に私に寄り添うようにして席に着いたのでした。いや、まぁ、悪い気はしないのですが。
メイドさんたちに尻込みして、お腹の陰に隠れてしまったマリの頭を、総料理長が優しくなでながら、
『話がそれてしまいましたが、なぜ、マリ様はブランデーソースを取り扱う事をお許し下さらないのでしょうか?』
と、尋ねてきました。
「ねぇ、マリ。なぜブランデーソースはレストランのメニューにしてはいけないの?」
私が尋ねると、マリはおずおずと酒管長を指差しました。
え? どーゆー事?
総料理長と顔を見合わせて、小首を傾げます。指差された酒管長が一番キョトンとしています。
酒管長に事のあらましをお話しすると、
『あぁ、そういう事か。ロキエル、マリに、あの赤ワイン一樽いくら位すると思うか聞いてみねぇ』
私がマリに通訳すると、
『ロキノ、メンダマ、トビダシチャウ、グライ、カ?』
『あぁ、ちげぇねぇ!』
酒管長、腹を抱えて大笑いです。続けて酒管長が尋ねます。
『マリ、ブランデーは?』
『トビダシタ、メンダマ、モドンナイ、グライ、カ?』
『その通り! 請求書見た途端、ロキエルの目玉が飛び出して戻らなくなっちまう』
酒菅長はひとしきり大笑いした後、まなじりを拭って、
『採算が取れないな。マリがどれぐらいの量を使ったのかは知らねぇが、ソースにするってこたぁ、それなりの量を使ったって事だろ?』
『なるほど、マリ様はそこまでお考えになって』
総料理長は感慨深げに腕を組んで大きく頷きますが、マリが原価の事を気にかけていたなんて驚きです。
それにしても、ちょっと気になる事が、
『酒管長はせっかくの極上のお酒を料理に使われ、気を悪くされたりしないのですか?』
『気を悪くする? とんでもねぇ。さっきも言ったが、煮詰めると旨味の本質が分かるし、この料理、ブランデーの香りだけじゃねぇ、鴨と相まって何ともいえない良い香りだ。俺も伊達に酒管長を名乗っちゃいねぇ、香りを嗅げばこの料理がどれほどの物か分かる。俺が取り扱っている酒でこれだけの物を作ってくれるんだ、冥利に尽きるって奴だな』
酒管長カッケー! 好感度がますます上がってしまいます。
「マリ、酒管長がブランデーを使って美味しいお料理を作ってくれて、ありがとうだって」
マリは極まり悪そうに、
『イタミイル!』
と、言って、総料理長のお腹の陰に顔を引っ込めてしまいました。
『ロキエル『イタミイル』って、如何いう意味だ?』
『嫌ですわ、酒管長。『痛み入る』ですよ』
『マリは、また、随分と古臭い言葉を使うんだな。それと、何でマリは隠れているんだ?』
『マリは人見知りが激しくて、見知らぬメイドさん達と顔を合わせるのが恥ずかしいからです』
『人見知りが激しい? 俺だって一度顔を合わせただけだぞ、それなのに、あんなに懐いてくれたじゃねぇか?』
『酒管長がマリ好みの良い男だからですよ』
私が茶化す素振りも見せずに、大真面目な顔をして言うと、
『………な!』
酒管長は絶句して、頬を真っ赤に染めちゃいました。
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