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33・困らせたいだけ?
しおりを挟む『クライヤガレ!』
マリが大皿に盛ったコンフィとフラットブレッドをテーブルの上に置いて言いました。
とは言っても、緑の粒子を纏ったオーラを全開にして、テーブルのど真ん中に陣取って、ナイフとフォークを手にして待ち受けているココ様に先んじて、コンフィに手を伸ばせる筈も……勇者がいました。いきなり手掴みで齧りついています。
「マリ! すげーうめー!」
お料理を褒められれば満面の笑みで返す、マリの表情が、
「勇者さまに食べてもらおうと思ってねーし。いくらなんでも食い過ぎじゃね?」
と、雄弁に物語っています。
マリが気を利かせて、それぞれのお皿に取り分けてあげると、皆さんホッとした表情を浮かべます。そりゃあ、オーラ全開のココ様と、いじけている魔王様に挟まれて、好き勝手なことができるのは勇者ぐらいのものです。
ふと、背後に殺気にも似た、射抜くような鋭い気配を感じました……が、振り向きません。なぜなら、その気配は、はっきりとコンフィに向けて放たれているのです。
ウルちゃんに違いありません。怖すぎます。
私はブランデーソースは既に頂いてますし、極上トルティーヤとプレミアム赤ワイン煮を私だけが食べたという優越感もありますから、羨ましいとは思いませんし、余裕でいられます。
ココ様、魔王様、勇者はフラットブレッドには目もくれず、コンフィに夢中になっています。
調理部の方々の反応はというと、皆一様に驚きの表情ですが、フラットブレッドと交互に、ひと口ひと口を吟味するようにじっくりと味わいながらも、ラビちゃんとウルちゃんを待たす訳にはいかないとばかりに、早々に食べ終わり、直ぐに二人の許へと向かいました。職業意識の高さに敬意を払わずにはいられません。
『美味しかったっスかぁ~?』
ウルちゃんの悲しげな声が聞こえます。ごめんねウルちゃん。
『ロキエル様! このブランデーソースは是非にも、私共で取り扱わせて頂きたい。マリ様にお伝えいただけますでしょうか?』
一人残られた総料理長が仰いました。う~ん、マリに伝えるのは、やぶさかではありませんが、また給仕長と揉められるのは遠慮させて頂きたいところです。すると私の逡巡を見て取ったのか、魔王様が口を開きます。
『ロキエルさん、このブランデーソースを給仕長は取り扱いたがりませんよ』
『それは、どうして?』
『マリアージュが難しすぎますね。今までに頂いたコンフィとは、一線を画したお料理ではありますがね』
納得です。
『確かに給仕長はプレーンとフライドチキンには固執していましたが、赤ワイン煮にはあまり興味を示しませんでしたね。マリは自分が作ったお料理を誰が、どう取り扱おうとも、気にも留めませんから、宜しいのではないですか?』
『おお、それは有り難い』
『プレーン? フライドチキン? 赤ワイン煮?』
ココ様が呟くのは、聞こえなかった振りをします。
念の為マリに問いかけると、即答です。
「だめー!」
私の面目丸つぶれ!?
「マリ、どうしてよ!?」
と、私が勢い込んで訊ねた……その時です。
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