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16・我が往く道を、阻む者無し。
しおりを挟む地下の酒類貯蔵庫に向かいます。
食材以上に酒の消費量は多いですし、こっそり酒をチョロまかそうという輩は山程いますので、厳重に管理されています。
広々とした酒類貯蔵管理部室の、長い受付カウンター前を素通りして行こうとして、呼び止められました。面倒な事にならなければ……。
『おい、ロキエル』
『あら、酒管長、お久しぶりです』
声を掛けて来たのは魔鬼族の酒管長でした。
背の高い私より頭二つ分位は大きく、二の腕などは私のウエストぐらいあり、その腕っ節の強さは魔界一、二を争います。単純な腕力でしたら、私の上を行きます。何せ、荒くれどもからお酒を守るお仕事ですから、並大抵の強さでは勤まりません。
しかし、しめしめです。
酒管長とは昵懇にさせて頂いていますし、私がちょーっと胸元をはだけさせちゃえば、結構融通を利かせてくれます。
『なにが『久しぶり』だ、また酒を盗みに来たか』
『ん゛ぎゃあ!』
勇者がマリに何か耳打ちをしようとしていたので念の為。余計な事通訳されたら教育上よろしくありません。
『ロキエル、何だ、そのウスノロ野郎は? あぁ、そのチッセーのが例の小娘か。随分、暴れたって話だな』
『嫌ですわ、こんな可愛らしい娘が暴れたなんて』
『ロキエルの事言っているんだよ』
『え、私ですか』
『元はと言えば、ロキエルが総料理長を喰らわしたからだろ。相変わらず乱暴だな』
否定はできませんが、酒管長だけには言われたくありません。腕っ節もさることながら、気の短さたるや右に出る者はいません。
『おい! 今、誰の事をウスノロ野郎って言ったんだ』
勇者復活です!
『いやだな、誰もそんな事、言っていないですよ』
酒菅長、一旦引いて、笑みを浮かべながら、ゆったりと立ち上がります。
『え、そう』
勇者が気勢をそがれた一瞬です。酒管長の豪腕が唸りを上げました。
『う゛ぐぶぉ!』
さすが、酒管長。駆け引きが絶妙です。
『あ゛んだらぁ!』
勇者、さすがです。
あの強烈な一撃を喰らったというのに、吹っ飛ばされ転がりながらも、すぐさま体勢を立て直し、雄叫びを上げると、カウンターを飛び越えて身体ごと突っ込みます。けたたましい衝撃音が響き、勇者と酒管長がもつれ合いながら、机や椅子をなぎ倒し、書類の山が吹きあがり散乱します。
勇者は酒管長相手に一歩も引きません。壮絶な殴り合いが始まりました。
荒事には慣れっこの酒類貯蔵管理部の方々も、その凄まじさに手を出すこともできずに、目を奪われてしまっています。
「すげーはくりょく!」
マリ、私に抱き付き、瞳を輝かせて大興奮。
酒類管理部室が騒然とする中、こうしてはいられません。お色気作戦を変更して強行突破です。
今がチャンスです。
まともに書類提出して待っていたら、何時間かかるか分かりません。下手をしたら何日にもなりかねません。魔王様のお墨付きとはいえ、縦割り行政のお役所仕事は魔界も同じなので、面倒な事この上ありません。
マリを抱え上げ酒貯蔵庫に一直線。
目の前にあるのは城門にも似た、でかい扉。
ぶっとい閂、ごつい鍵、絡みつく鎖。
ひるむ気は無し!
「マリ、突っ込むわよ!」
「おー!」
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