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3・予感は当たるんです。
しおりを挟む扉を叩く軽やかな音が響きました。
『どうぞ』
おいでになったのは給仕長でした。
優雅に一礼するのを待って、って、マリが跳びついていきやがった。狙いすましたかのように「ぼんよよよ~ん」給仕長のお乳を直撃です。
「ほら、マリ、失礼なことしない!」
マリを引きはがそうとしましたが、給仕長が離しません。
「ほら、勇者、邪魔。あっち行ってて」
そのまま長椅子に誘います。
「マリサマ、キノウ、ゴチソウサマ」
マリを抱きかかえたまま、顔を覗き込むようにして、日本語で言う給仕長の、優しい笑みをたたえた横顔が、美しすぎ……私、負けてないよね!
『オソマツサマデシタ!』
マリも何できちんと異世界の言葉で返すのかしら? ちょっとイラッとして、挨拶もそこそこに問いかけました。
『給仕長、どのような御用向きで?』
『えぇ、あの腐れ外道の饗応の宴の件でして』
『あぁ、あの死にぞこないの件ですか』
『晩餐の内容を確認して、段取りの打ち合わせをしようと、総料理長の所にお伺いしたのですが、こちらだと聞いて。どうやら入れ違いのようですね』
『今さっきまで、いらっしゃったのですが、詳しい内容は私も分からないのですが、昨晩の試食会の料理、形式を基本的にお考えになっているとの事ですが』
『あの、素晴らしいお料理を、あの、腐れ外道にですか?』
給仕長の眼が怖すぎます。
これは、サラリと話題を変えた方が良さそうです。
『ところで、ついでの様で申し訳ないのですが、ラビちゃんとウルちゃんの件、魔王様よりうかがっていらっしゃいますか?』
『いいえ? 何も』
あんの野郎ー! ホントに丸投げだ。給仕長にピザの試食会の後に、執務室での魔王様とのやり取りの、あらましを話しました。
『それで「ピザ」の出店準備室を起ち上げるよう、魔王様より命を受けまして、そのスタッフにあの二人をとの仰せなのです』
『…………』
『あの~給仕長?』
『失礼しました、ロキエル様。ひとつ確認したいのですが、それは、あの二人を商品開発部に異動させるという事でしょうか?』
『はい、そうです』
『その異動辞令は断固として承服しかねます』
うわ~、一度言い出したら、マリの頑固さが豆腐に思えるぐらい、頑固な給仕長が言い切っちゃいました。
『給仕部がお忙しいのは分かりますが……』
私の言葉をさえぎって、給仕長が言います。
『いいえ、そういう事ではありません。マリ様の許で、輝くように立ち働くあの娘たちの姿を見れば「ピザ」出店準備室への異動は、あの娘たちにとって、正に願ったり叶ったり。私も諸手を挙げて賛成しますが、異動という形式には賛同しかねるという事です』
『と、言いますと?』
『あくまでも給仕部より、出向という形式を取らさせて頂きたいのですが』
ピンと来ました!
給仕長の表情にわずかばかり、憂いの陰が見えました。稼働人員的な問題とか、二人を手元に置いておけない寂しさとかでは無くて、二人が商品開発部に異動してしまうと、給仕部とウチとの関係が希薄になってしまうという危惧ですね。そもそも給仕部とは調理部を通しての間接的な関係でしかありません。出向という形式なら給仕長も上司として「ピザ」出店準備室に、堂々と、自由に出入りできますもの。
『もちろんそれで結構です。では、出向辞令は給仕長の方からお願いできますか?』
『では、早速、明日からにでも、こちらに伺わせますので。役職名はどのように?』
『商品開発部、開発室マリ室長付「ピザ」出店準備室ラビ室長、並びにウル副室長、ですね』
『二人とも喜びます……』
と、給仕長は言葉を切ると、チロッと舌なめずりをし、上目遣いで凄みのある色気を醸し出して、
『……ロキエル様、交付書類はロキエル様名義で宜しいでしょうか?』
『え、えぇ、構いませんが?』
『それと、一つ提案があるのですが』
な、何でしょう。いやな予感がします。
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