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41・パーティーはこれからだ!
しおりを挟む試食会場は沈黙に包まれました。
『魔王様!』
沈黙を破ったのは総料理長です。
何を言うのか皆が固唾を飲んで見守ります。
総料理長は仰々しいばかりに飾られた階級章の中でも、一番大きな勲章を愛おしそうにひと撫ですると、おもむろ
に引き千切りました。そっとテーブルの上に置くと、私の方にゆっくりと滑らせるようにして寄こしました。
『ロキエル様。これをマリ様に』
私は手元に置かれた勲章に、目を見張ります。
『素晴らしい料理でした。美味い、不味いの評価をするような料理ではありません。私にはこの料理に使われた食材、調味料、香辛料、そして調理法がまったく分かりません。まったくです。私は、その勲章はこの世界で一番の料理人の証だと思っています。ならばマリ様にこそふさわしい。敗北を認めるのが私の料理人としての誇りであり、新しい料理の創造こそが私の願いなのです。どうか、どうかマリ様にご師事させて頂きたい』
総料理長カッケー。
何という潔さ!
試食に参加した幹部連中も感極まって頷いていますし、後ろに居並ぶメイドさん達も、みんな瞳を潤ませています。二人や三人、即、お持ち帰りできそうです。
『くあははぁ、ざまあねぇな! かぁはは、ひぃいはは』
もちろん勇者です、一切空気を読もうともしない、あざけりの笑い声が、静まり返った試食会場に響きます。
間違いありません、面白くなりそうです、と思っていたのも束の間の事。私の正面の、総料理長の隣に座る、料理長の姿が消えました。
料理長は華麗にテーブルに飛び上がるなり前蹴り一閃。見事に勇者の顎を的確にとらえ、勇者は椅子ごと転がって壁にぶち当たります。
『おう、カン違い野郎! 何もおめえに頭下げてるわけじゃねえぞ!』
料理長は苛立たしそうに胸に手を当て、勲章を引き千切ると、勇者の下座に並ぶ私の前に跪いて、そっと勲章を置きました。
『ロキエル様、私も総料理長と、想いは同じでございます』
料理長カッケー。
『どうぞ、これをマリ様に……う゛っふお』
でも油断してはいけませんね。勇者の打たれ強さは天下一品ですよ。
『ん゛だらぁ!』
すかさず跳ね飛んだまま空中で、片手に持った椅子を振り回し料理長の横っ面を直撃です。料理長、テーブルの上の食器をまき散らしながら吹っ飛びます。勇者も反動でテーブルの上を食器をまき散らしながら横滑りしていきますが、待ち受けていたのは、顔面をとらえる、椅子が粉々に砕け散る強烈な一撃です。私の反対側の端に座る幹部です。
『潔く負けを認めている相手に向かって、てめぇは何て礼儀知らずなんだ』
、まったくもっての正論です!
『礼儀知らずとはお前の事だ! 椅子の破片が目に入ったぞ』
同士討ちですか。益々面白くなってきました。
『スカタン野郎が! いつまでも調子に乗り腐りやがって』
勇者と料理長がテーブルの上で殴り合っている所に、総料理長参戦! おぉ! 勇者が二人まとめて、吹っ飛ばしました。
強いぞ勇者!
『おい、ロキエル、何やっている。早く止めないか!』
私のはす向かいに座る、モブ幹部が筋違いな文句を言ってきました。それだけならまだしも、私に向けてナイフを投げつけてきました。もちろん余裕でかわし……私の両脇から手が伸び、飛んで来るナイフを掴み取ります! すげ~! 誰かと思いきや、料理を出し終わり、私の後ろに控えていたラビちゃんとウルちゃんです。
『なんスか! ロキエル様は何も悪くないっス』
声を上げたのは、ウルちゃんです。
『そうよ! くらいやがれ!』、
そう言って、ラビちゃんが、もの凄い勢いで投げつけたのは、分厚いガラス製の水差しです。見事にモブ幹部の顔面直撃、危険すぎます。
『ラビ! やり過ぎよ!』
『ウルも不敬よ!』
お~、メイドさん達にも、派閥があるのでしょうか、まさかの緊急参戦です。
『面白れぇ、かかってきやがれっス!』
『ふんす!』
ウルちゃんも負けずに言い返します。ラビちゃんは鼻息荒げて、中指を突き立てました。
え~! ウルちゃん『かかってきやがれ』とか、言っておきながら、我先にテーブルをひとっ跳びして、突っ込んでいきました。
『給仕長、お止めにならなくてよろしいのですか!?』
『ふふっ、ロキエル様。仲の良い姉妹喧嘩ですから、お気になさらずに』
給仕長、何だか楽しそうです。
あ! いけません、卑怯にもモブ幹部が二人掛かりで、ラビちゃんを襲わんと、テーブルを飛び越えようとしています。助けに入ろうとした刹那、私の目の端を黒い影が通り過ぎました。給仕長です。しかも、ふわっとテーブルの上に優雅に降り立った時には、モブ幹部は二人とも壁にめり込んでいるではありませんか。私が視認できないとは、何という早業なのでしょうか。
『私の娘に、手をかけようとは、何たる不届き者!』
給仕長カッケー!
大盛り上がりの中、マリは、といえば、いつの間にか魔王様の膝の上です。
ピッカピッカの笑顔です。
なによりです。
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