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34・悪知恵も、まさに天下一品。
しおりを挟む勇者がしつこいです。
せっかくの美味しいスープですから、憂いなく楽しみたいですから、種明かしをしてあげますか。
「肉汁よ」
「肉汁?」
「単純だけど発想がないわよね。魔王城のレストラン高級が売りだから、下級部位の肉は結構大胆に破棄してしまうの、マリはそういった肉をもらって、丁寧に下処理した物を焼いてから、切って、下手に絞ったりしないで自然と垂れて来るものを、以前から集めていたの。色々な料理に使えるから、ストックしていたらしいわ。それだけでは無くて、キノコを焼いた時に汁が出て来るでしょう」
「あぁ、ヒダのところに出て来るな」
「あれを耳かきで丁寧に掬って混ぜたりして、試していたの、その中でも肉汁に合いそうなもの、何種類か入れたんですって」
「なるほどな」
「それに香草も火を加えるとわずかにエグ味が出るから、生葉を何種類か漬け込んだそうよ」
「それでこんな複雑な味がするのか」
「マリは「まあまあ、よくできた」と、言っていたけどね」
「これが「まあまあ」だと!」
『魔王様! 提案がございます』
勇者が突然、席を立ち、挙手しました。ただせさえ悪党面なのに、さらに凄みを増した悪い顔です。何を言い出すのか予想もつきません。
しかし何でしょう、何故か、とても良い予感がします。
『この試食会の趣旨は、マリさんの力量が商品開発室に相応しいか否かを問う事であり、否をとなえるには提供された料理を、最後まで確認する義務が生じます。しかし、この一杯のスープ、この世界の頂点と言っても過言では無い味わいだと私は思います。ですから、私はマリさんの力量を認め、この試食会の参加義務を果たしたいと思います』
魔王様は少し首を傾げました。
『確かに、勇者様の仰る通りですね』
『では、私は、この試食会の規則に縛られず、自由に振る舞えるという事で宜しいでしょうか?』
『皆さん、如何ですか?』
魔王様が参加者全員の顔を見回しますが、誰も異を唱えません。
勇者の顔が凄い事になっています。悪党面全開です。
その悪党面を見る、常に冷静な魔王様の顔が珍しくが苦々しく……違います! あの表情は、悔しい、そう、魔王様は悔しがっているのです!
『魔王様! 私も勇者様に同意させて頂きます。正に、この一杯のスープ。数多ある料理の至宝。私如きが、多くを語るべきものではございません』
発言したのは給仕長です。なるほどそういう事ですか! 遅れてはならじと、私もすかさず挙手しました。
『魔王様! 私も勇者様、給仕長と同意見です』
『ロキエルさんもですか、皆さん特に反対意見も挙がらない様ですので、勇者様と、給仕長、ロキエルさんの意見を認めましょう』
ヨッシャー!
後ろを振り返り、メイドさんに掛ける言葉が、私と、勇者と、給仕長と、見事に同調しました。
『このスープおかわりある? あとお酒持って来て!』
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