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26・確かに、その通りです。
しおりを挟む『ロキエル様、どうぞ』
席に着くと、すぐさま給仕長が、木製ジョッキにエールビールを注いでくれました。まずは、ひと口、のどを潤します。
『ロキエル様、お口に合いませんか?』
私の表情に浮かんだ、わずかな憂いの感情を読み取ったのか、給仕長が尋ねてきました。えぇ、そうです。エールが温いのです。不味いという訳ではありません。むしろ、ラガーと違い、温いが故に、エールの香りとコクが引き立って美味しいのです。しかし、ピザと取り合わせるには、その、持ち味が抑えられてしまいますが、キンキンに冷やして、のど越し重視の方が良いなと思ってしまったのです。異世界にはエールを冷やすという酒文化はありませんから、残念です。
『あ、いえ、すごく美味しいですよ。ただ、ピザと合わせるなら、冷やした方が美味しいかな~と』
『冷やす? 具体的にどれ位でございますか?』
『具体的に?』
『えぇ、左様でございます。私が想像する事の出来る、具体例をお挙げになって頂けましたら』
給仕長の眼が怖いです。
具体例と言われても、キンキンじゃ通じないでしょうし、ん~? あ! 良い例が浮かびました。
『そうですね、雪解け水ぐらいですね』
『畏まりました。この位でいかがでしょう?』
何を言っているのでしょう給仕長は?
『ロキエル様、エールを冷やしましたので、お確かめを』
へ? 冷やした? エールを? 半信半疑でエールを口にすると、キンキンに冷えています。正に雪解け水の冷たさです。無詠唱、無触媒で冷却魔法ですか、しかも繊細な微調整まで、魔王様に匹敵する、化け物です。改めて、その実力を垣間見てしまいました。
『エールを冷やす? ロキエルさん、それで美味しくなるのですか?』
『いえ、エールの持ち味の、香りとコクは抑えられてしまいますが、熱々のピザには、スッキリと飲みやすく冷やした方が、間違いなく合います。何はともあれ、お試し下さい』
魔王様に答えた時、ちょうどマリがマルゲリータを運んできました。
『マオウサマ、キュウジチョウサマ、ユウシャサマ、メシアガレ!』
あれれ? マリは、ちゃんと異世界の言葉を使っています。でも、今、私の名前を呼ばなかったような? すると、マリは三人の前に皿を並べていって、私の前には置いていかないではありませんか。
「ちょっとマリ、私の分は?」
『ロキニ、クラワス、ピザハ、ネエ!』
うん、マリは異世界の言葉が随分と上達して、助詞も理解して来たようで、勉強しているのですね。偉いです……。
「あ゛ばばば」
少々強めに頬をつねって差し上げました。
「何で私の分は無いのよ!」
「マリは、言いました!」
「言ったわよね、マルゲリータ焼き上がる、って」
「マリは、言っていません!」
また、訳の分からない事を。
「ロキの分を焼いているとは」
な、何だとー!
「はっはあ~、違えねぇ。マリの言う通りだ。ロキエル、食い意地の張った事を言ってないで……あ゛んが!」
あら、私に勇者の分を譲ってくれるのかしら? では、遠慮なく。
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