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 7・なんとなく、分かる気がします。

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「ひいやぁあ」

 変な声を漏らしてしまいました。皆さん食べるのに夢中で、気にも留めていませんので、恥ずかしい思いをせずに
助かりました。

「みんな、ちがう」

 マリが、私のお乳を、つついて小声で言ったのです。私に気配を悟らせず、お乳を突くとは、やはり、マリは只者ではありません。
 まあ、確かに、マリの言う通り、四者四様です。
 ラビちゃんは、ナンを両手で持って、ガシガシしています。ウルちゃんは、木皿に顔を突っ込みそうな勢いで、カレーを食べています。給仕長は、優雅に気品を漂わせ、目を細めて、微笑みを浮かべながら、魔王様は、何やら難しい顔をして、ひと口ひと口、確かめるように。

「ね、そうでしょう。特にラビちゃんは果物や、野菜が好きだし、ウルちゃんは肉が大好物……」

 ん? 何でしょう。突然、マリの頭の上に灯りがともった気がしました。すると、マリは急に駆け出して食材庫へと向かいました。あんなに急いで、転ばないか心配です。すぐにワゴンを押しながら出てきました。ワゴンの上には、ガラスの密閉瓶がズラリと並んでいました。日本でなら百均で買えそうな瓶もあるのですが、特注品で、請求書を見た途端、頭を抱えてしまった逸品です。

 それはさておき、密閉瓶の中身はというと、見るも鮮やかな彩りの、様々な野菜の甘酢漬けピクルスと、艶々の果実の砂糖煮ジャムです。マリはワゴンをラビちゃんの横に着けると、恥ずかしそうに、逃げ出して、私の後ろに隠れてしまいました。

『ロ、ロキエル様。コレはいったい……』

 ラビちゃんの視線が定まりません。瓶ごと、かじりついてしまいそうです。
 異世界こちらではピクルスや、ジャムといえば、単なる保存食品です。ピクルスは、やたらと塩辛く、酸っぱく、色もドス黒く変色したものです。ジャムもしかり、砂糖など使用せず、とことん煮詰めただけのものです。

『ラビちゃん、遠慮せずに、どれでも好きなのを食べてみて下さい』

 と、言ったのですが、ラビちゃんは、ただ困った顔をするだけです。

「ほら、マリ。ラビちゃんに取り分けてあげなさい」

 モジモジしているマリの背中を、そっと押します。マリは意を決したかのように、ワゴンの前に行き、お皿に何種類ものピクルスを、彩りよく盛り付け、ジャムを三種類ほどココットに入れて、ラビちゃんの前に並べて、恥ずかしそうにしながらも、笑顔を浮かべて、言います。

『ラビ、クライ、ヤガレ!』

 マリは、いったい、何処で異世界こちらの言葉を覚えて来るのでしょうか? 後でしっかり、お仕置きするとして、

「マリ、私にもピクルスとジャム頂だいよ」

「わかったー! どれにする?」

 しめしめ、以前から目を付けていた、大粒の野苺が形のまま残っていて、艶々しているジャムが食べられます。

「ピクルスは、おまかせ。ジャムは野苺を」

「マリさん。私にも同じ物を」

 すかさず、魔王様が言いました。すると、

「マリサン。ワタシニモオナジモノヲ」

 給仕長もカタコトながら、日本語で言いました。ラビちゃんに提供されたピクルスを、物欲しそうに見ていた魔王様が仰った言葉ですから、どんな意味か容易に想像できたのでしょう。

『カシコマッテ、ソウロウ』

 マリに言葉を教えている、スカタン野郎を、探し出さなくてはいけません。
 マリは手際よく、ピクルスを盛り付けると、それぞれの所に運んで……私の盛り付けだけ、やけに、ぞんざいな気がします。

『ロキエル様……』

 ウルちゃんが、恐る恐る、上目遣いで私に言ってきました。ウルちゃんもピクルスが欲しいのでしょうか、と、思いきや、空っぽの木皿を、私に向けて言います。

『おかわり。欲しいっス』

 マリが、お肉を、てんこ盛りにして、ウルちゃんに提供すると、尻尾をブンブン振り出しました。とても分かり易い娘です。分かり易いといえば、ラビちゃんも、ポリカリ小気味よい音を立てて、耳をピョコピョコさせて、夢中でピクルスにかじり付いています。

『ロキエルさん……』

 今度は何ですか? え! 大変です。ピクルスを口にした魔王様が、苦し気な表情をしています。

『魔王様!』

 給仕長が椅子を蹴立てて、立ち上がり、叫びました。

 どうしました! 魔王様!? 
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