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 拾・閑話の刻 うなぎ屋さんにて

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「まさかとは思いますがハルは蒲焼より、白焼きの方が良いと言い出しませんわよね?」
「さすがにな、でも白焼きは頂きたいぞ」
「それは私もですわ。ワサビ醤油で頂くとたまりませんわ」
「マリ、まむしー!」
「『まむし』って何だ?」
「うな丼のご飯の中に更に蒲焼を入れたもの『間蒸し』ですわ」
「あー、成る程! って何で貴様らはそんなこと知っている」
「リコ、きもやき、どーする?」
「飲まずにいられなくなりますから止めておきますわ」
「マリはたべたい!」
「うむ、肝焼きは欠かせんな、とーぜん塩で」
「たれ!」
「イタッ!」
「肝焼きにも塩があるとは知りませんでしたわ」
「私は丼で頂くが、マリはお重と丼ははどちらにするのだ」
「どんぶりー!」
「リコは?」
「私、うな重を頼む人は信用しませんわ」
「きもすいー!」
「うな丼頼むと付いてきますわ」
「マリ、う巻きはどうする?」
「う~ん、いらない!」
「純粋に鰻だけを食べたいのですか?」
「そー!」
「ところで何故蒲焼には奈良漬けが付いてくるのだ?」
「こうさんかぶっしつ、めらのいちん」
「マリ、もう一度言ってくれ」
「抗酸化物質メラノイチンですわ。鰻に多く含まれるビタミンやミネラルの吸収を促進しますの」
「急にアカデミックになったな」
「昔の人はそんな事知らない筈なのに不思議ですわ。日本人の食に対する執念には畏敬の念を覚えますわ」
「いや、リコやマリの方が不思議だし、執念深いと思うぞ」
「松竹梅は如何しますの?」
「何が違うのか良く分からんぞ」
「鰻の品質に上下はありませんわ。ただ鰻の量の問題だけですわ」
「マリ、マツ、マリ、マツ!」
「私も松だ」
「私は梅ですわ」
「鰻が少なくていいのか?」
「私、どちらかという鰻は余り好きでは無いですから」
「え! そうなのか」
「ふしぎー!」
「タレの染みたご飯にたっぷりと粉山椒を掛けて食べるのが最高ですの」


「りょうりは、むずかしい」

 
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