逢魔が刻の料理店／『双剣の陰陽師』『聖なる祓魔師』『厄災の魔導師』『ただの？調理師』ごきげんなスタッフが、皆様のご来店をお待ちしております！

６２・仕事終わりに一杯やるのって幸せです。

　
　赤髪が揺れました。

「日向はマリに甘すぎですわ！」

「リコの分もあるよ」

「甘いのは良い事ですわ」

「リコ、スープをお出しして」「は～い」　

　素直な良い娘です。

　急遽お魚料理を作ります。
　メインのお肉を引き立てる様に、さっぱりと酸味を効かせた地中海料理のエスカベッシュです。
　人参、玉葱、セロリ、緑、赤、黄色のピーマンを極細に切り、たっぷりのライムのしぼり汁に、少量のオリーブオイルと白ワイン、塩胡椒したマリネ液で和えます。
　キスに多めに打ち粉をして高温の油で『カリッ』と揚げたらお皿に盛って、野菜を乗せ、マリネ液を掛け回せば『ジジジッ』と油の爆ぜる音と共に出来上がりです。
　
「きれー！」

　マリの言う通り目にも鮮やかな逸品です。

「よし！　もっと美味しくしてやる」

　薄切りにしたバケットにたっぷりと乗せて、マリに渡そうとすると早速とばかりに喰いついて……って、指、指をかむなー！

「どう、マリ。美味しい？」

「すめー！」

『すめー！』？　あぁ、『酸っぱくて、美味い』ですね。
　マリの笑顔を見れば味見をする必要は無さそうですが、私もおひとつ、おお、確かに『すめー！』です。ライムの爽やかな酸味と香りが『スッ』と駆け抜けたかと思うと、野菜が『シャクッ』と甘みと苦味を運んできて『カリッ、フワッ』とキスの旨味が口の中に広がりました。
　キスは香草を入れたオーリブオイルに漬け込んでありますので、適度に水分が抜け身が引き締まり、旨味と風味が加わり美味しくなっています。

　リコが戻って来たかと思うと、エスカベッシュを食い入るように見つめて、固まっています。
　どうしたのでしょうか？

「ねえ、日向」

「何？」

「私もう就業時間は過ぎていますわよね？」

　はい、はい、リコの眼を見れば分かります。

「咲ちゃんの代役だからね、いいよ一杯位。でも先にお魚お出ししちゃってね」「は～い」

　実際リコも今日1日良くやってくれましたし、何しろ外見の印象はハルの上を行きますから心配していたのですが、意外にも常連さん達はあっさりとリコを受け入れてくれました。

　リコが戻ってきましたが、手に一升瓶をぶら下げていました。
　

　コイツ一杯で済ませるつもりが無いな。