逢魔が刻の料理店／『双剣の陰陽師』『聖なる祓魔師』『厄災の魔導師』『ただの？調理師』ごきげんなスタッフが、皆様のご来店をお待ちしております！

５４・幾つになっても女性に齢を尋ねてはいけません。

　
　３人娘が血相変えて、席を蹴って立ち上がります。

「逃げてばかりの卑怯者が、決着つけてやるぞ！」「今度こそ私のロザリオの餌食にしてあげますわ！」「マリが殺やる！」

　アンは椅子に腰掛け腕組みをしたまま、順次３人を睨みつけます。

「貴女達が黒キ支配者様と遺恨があるのは存じ上げています。諍いさかいになることを危惧してもおりました。しかし私の古い恩人でもあるのです。どうか曲げて、ご配慮頂けましたら。どうしても容赦できないと仰るのであれば……」

　アンが視線を逸らさず、腕を解いて油断なくゆっくりと立ち上がりました。
　髪の毛が逆立って銀色に煌めきます。

「私にも覚悟がある……」

　背すじが震えあがるような底ごもった声でした。

　３人娘もなんら臆するところはありません。

「ほう、我ら３人を相手にすると仰るのか」「面白いですわ。一度本気で闘やってみたいと思っていましたの」「マリも闘やるー！」

　真っ向から闘気を立ち昇らせます。

　一瞬即発、危機一髪。

　アンが重々しく口を開きます。

「……赤牛は持って帰る」

「先生、何を仰る。遺恨などありません」「先生、そんな昔の事、どーでも良いですわ」「せんせー、だいすきー！」「万事、日向に任せれば大丈夫だ」「その通りですわ。美味しくしてくれますわ」「おいしいの、だいすきー！」

　貴女達には誇りプライドと言う物が無いのですか！

「と、言う事で。日向お願い」

　何が『と、言う事で』なのか良く分かりません。
　いーです、いーです、私の扱いなど、所詮こんな物です。

「どんな物が、お好みなの？」

「ん～～血？」

　アンタそれ答えになって無いでしょう！
　まさか、牛の生き血を出す訳にもいきません。

「アンの古い恩人なのでしょう？」

「良くお付き合いさせて頂いたのが、私の曾祖母だから、あまり詳しい事は分からないのよ」

「え！　そんなにお年を召した方なの？」

　アンは一瞬表情を曇らせると、笑みを浮かべましたが、目が一つも笑っていません。

「黒キ支配者様にお年を尋ねて、生きていた方はいないと言う噂ですが」

　気を付けます！

「兎に角おまかせしますから、後で精肉した物を持ってこさせますので、よろしくお願いします」


　丸投げして、逃げやがった！