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【第五章】サイラス・フォン・ウォレンス

(4)悪役令息の接客

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証明が点灯し、個室の使用時間がはじまる。
緊張感が高まるが、相手にそれを悟られるわけにはいかない。

「シャワーはどうする?」

とりあえずお決まりの台詞を口にする。

「べつにいいですよ。はじめましょう」

サラリとサイラスは言った。
話がトントン拍子で進んでゆく。
俺の心を置いたまま。
結局、夜の営みや手段など、俺は何も知らない。
ベリルとしての知識があるだけであり、俺個人のスキルは今までのものしかない。
どうやったら相手をスマートに誘えるか、とか、そんなことは知らないのである。
鼻歌交じりに自らの上着のブレザーを脱ぐサイラスを目の前に俺はどうしたものかと考える。
早くも後悔している。

「ほら、ベリル様」

上着を脱ぎ、ベッドに腰を下ろしたサイラスが両手を広げながら言う。
ほらって何だよ?
そのほらってどういう意味だ?
俺も上着を脱げということなのか?

「…。」
「脱がないんですか?」
「…。」
「こっちに来てくれないのですか?」
「…。」

相手のペースには乗らない方がいいと俺は判断した。
そもそも、なぜこいつが俺を指名したのか?
何を求めているのか、俺は理解していなかった。

「一応確認するが、お前は俺に何を求めている?」
「人肌が恋しいので付き合ってもらおうと思いまして」

そういう台詞を口にできるところに経験の差を感じる。

「ベリル様が棒立ちになっているってことは、俺がリードしちゃってもいいんですか?」

そもそもリードする感覚がよくわからない…なんて言おうものなら、好き勝手されかねない。
ある程度の主導権は握りたいが、どうしたものか。

(考えろ考えろ考えろ)

この状況に緊張したまま口を開く。

「別に服は着たままでもいいだろ?」

相手を警戒しながら予防線を張る。
だが、こんな場所に来て服脱がないのって矛盾してないか?
俺はわかっている。
わかってはいるのだが…

(怖い)

脱いだら負けのような気がしていた。

「つれないですねぇ」
「お前が俺に声をかけた時点で覚悟していた事だろ?」
「まあそうですけれど」

何か言いたそうにサイラスは目線を俺に投げかけてくる。

「ベリル様は想像していたより何十倍も奥手のようなので、どうしたものかなぁと思いまして」

すでにバレていることなので隠す必要はないと俺は判断する。

「当たり前だろ?お前は駄犬の部下なのだから少なくとも警戒はする」
「駄犬って…ああ、フランツ殿下ですか。俺は殿下ほど真面目じゃないのでなんとも」
「あれが真面目なわけがあるか。お前も変わらない」
「えぇ~…ベリル様のツンツンが激しい…俺はお客なのに…」

俺はため息を吐き、ベッドに座るサイラスに近づく。
歩を進めて正面で足を止める。

「別に俺は脱ぐ必要はない。お前だけで問題ないだろ?さっさとはじめよう」

俺は屈み込むとベッドに座るサイラスのベルトに手をかける。
スルリと解いてズボンを緩めた。
下着越しの男性器に触れる俺の様子をサイラスは眺めていた。
この世界に来て以来、男性器とは何度目かの対面だ。

萎えているそれを取り出すと手袋を身に着けたまま握る。
短い息を吐くサイラスの様子を伺いながら俺は扱きにかかった。
竿を握り前後にスライドして刺激を与える。

だが、滑りが悪い。
何度か繰り返すと半立ちにはなったが、先走りは少なく皮膚を擦るだけだった。
濡れないため、やり辛い。

(そういえば今まで出会ってきた変態生徒やリズやエリオットは濡れすぎていたというか…慣れていたというか…)

改めて目の前の男がノンケだったと思い知る。
擦るだけ擦ったら痛みしかない。
痛みしか無いのはさすがに申し訳なくなってきた。
困った。
先にローションでも持ってくればよかったのかもしれない。

(どうしよう)

パニックになりかけた俺に対して「ベリル様」と声が上から降ってくる。

「もしかしてベリル様って…慣れていない、とか?」

いや、この世界で手コキは経験済みだが思っていたより手堅いのはお前だと言いたくなった。
とはいえ女で遊び慣れているのなら、これぐらいの事には慣れているに違いない。
人を接待するという立場は初めてだった。
確かにその点では慣れていない。

「悪かったな」
「いや、その」

全然濡れないそれに対して、サイラスが気持ちいいと思っていないのは明白だった。
さすがに痛みだけしか与えないのは申し訳ない。
方法はあるにはあるのだが…

(覚悟を決めるしか無いか)

本音を言うとやりたくない。
だが、ここまで難航するならやるしかない。
負けず嫌いなんて気持ちはないが、ここで失望されるのも俺としてはプライドが許さなかった。
事前に馬鹿にされて腹が立っていたというのも少なからずあるのだが。

「ベリル様、もういいです」

サイラスが行動を停止させる前に、俺は手に握っていたそれを口に含んだ。
口内に先走りの苦味が広がって思わず眉間にしわを寄せる。

「ちょっ!?」

動揺したサイラスの声が降ってくると俺は彼を睨みつけた。
フェラなんてやったことはない。
ベリルの記憶の中にもないことだ。
だが、この身で一度経験しているので、その記憶をなぞるように俺は実行した。
とはいえ脳内にその時のフランツが過るのは俺としては複雑な心境だが。
先にちゅっとキスをする。
性器全体を濡らすように竿を舌で舐める。

「待ってください!!いや、ちょっと、ほんとにっ」

停止を無視してそのまま口の中に含んで一気に吸う。
口の中に入りきらなかったところは手で圧迫しながら撫でる。
裏筋を舌先で包み込んで何度も舐め上げると、サイラスが息を詰まらせる。
触っているだけの時にくらべてだいぶマシになった。

一度口を離す。
これだけ濡れていたら問題ない。
親指の腹で亀頭をクリクリと擦りながら刺激を与え、陰茎に唇を当てた。
余裕を奪おうと追撃の手を止めない。
唾液を含んだ舌で裏筋を何度も撫で上げる。

「ベリル様っ、まって!」

先っぽから口に含むと歯をたてないように吸う。
サイラスのそれが臨戦状態になっているのはわかっている。

「で、るっ、でます、からっ!」

切羽詰まった声を上げるサイラスを気に留める事なく続ける。
そのまま出すことを促しながら吸い上げた。
くっと息を飲み込むと、サイラスは精液を吐き出した。
口の中に勢いよく流し込まれる苦い液を俺は飲み干す。
ごくりと飲み込むと口元を手の甲で拭った。

俺は入学式の日に自分のそれを飲まされたこともあり、そのことについては開き直っていた。
自分のだろうが他人のだろうが、関係ない。
俺は意地でもこいつを攻めてやる。
吐精を終えて息を整えているサイラスを見上げながら俺は言う。

「まだまだ元気じゃないか?」

俺の唾液で濡れた彼の竿は次の刺激を求めていた。
手でそれを握りながら唇を寄せる。
そんな俺を見下ろしながらサイラスは頭を左右に振った。

「ぅっ…あの、俺、さっき出したばかりですけど」
「遊び慣れたお前ならまだまだ平気だろ?」
「や、あのっ!?」

俺は話を遮るとサイラスのものにかぶりついた。
そのままカリの部分を口に含んで舌で舐めるのを継続する。

(最初に見下されたぶんだけ搾り取ってやる)

完全に俺はムキになっていた。


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