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【第二章】悪役令息と秘密倶楽部
(8)従者エリオット・フォン・ブランネージュ
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次の日。
俺は朝になると食堂のホールへ向かった。
理由はいたって簡単。
エリオットに話があるからだ。
自室で身支度を済ませて向かうと、目当ての人物とすぐに出会えた。
生徒たちが混み合う前の時間帯だったのが幸いした。
「おはようエリオット」
名前を呼ぶと艷やかな黒髪を束ねた赤色のリボンが揺れた。
エリオットは振り返ると俺を見てパッと表情を輝かせる。
「ベリル様、おはようございます」
優雅にお辞儀をして挨拶を交わす彼に対して、単刀直入に言葉を告げる。
「人気がない場所で少し話をしたい。いいか?」
「仰せのままに」
俺とエリオットは食堂を出ると寮の渡り廊下から外に出て、中庭に向かった。
誰もいない場所を選ぶと、そこで俺は口を開く。
「…昨日はすまなかった」
「ベリル様が謝るようなことではございません。私はご褒美をいただきました」
「だが…その…」
頭の中で言いたい言葉を整頓すると、俺は改めて言う。
「俺は…エリオットの愛には答えることができない。俺を慕ってくれるのはわかっているけれど、エリオットの全てを受け入れることはできない…すまない」
俺の言葉を聞き届けると、エリオットはきょとんとしていた。
何度か長い睫毛を瞬かせた後、彼は小首をかしげた。
「取るに足らないそんな事のために、ベリル様の労力を割いてしまったのですか?」
「………は?」
そんな事ってなんだ!?
愛しているという言葉に対して俺は真面目に返答したというのに。
それをそっくりそのままエリオットに伝えると、彼は吹き出して笑いはじめた。
「ぷっ、あっははははははっ!!」
大笑いだ。
なんだこれは?
(現在進行系でめちゃくちゃ笑われている…)
…これは…あれか?
あの時の台詞は言葉の綾であり、そこまで重く捉えなくていいプレイの一環だったのか?
爆笑するエリオットに対して俺が冷や汗を流していると、笑いを収めた彼が「失礼しました」と告げる。
「あまりにもベリル様が健気で切実でして、私は面食らってしまいました…ああ、そんなベリル様もお可愛らしい限りでございます」
「でも、笑う必要はないだろう?」
「すみません。ふふっ」
彼は目尻に涙を貯めるまで笑い、自らの目元を擦りながら答える。
「ベリル様の下僕である私の思いなど、そもそもの前提が一方通行でございます。ベリル様が憂いる必要などございません」
それって…悲しすぎないか?
一生懸命主様に仕えるなら、その主様に愛されたいって思わないのか?
「私はベリル様に仕えています。誰でもない貴方様に。確かに、私のような者に影響されるベリル様も大変お可愛らしくて素敵でございますが、私一人の意思で現在のベリル様を変えようとは思っていません」
エリオットはキッパリと言い切った。
(今は、ね…)
この世界のエリオットの答えとして受け取ってもいいのだろうか?
彼は言葉を続ける。
「そもそも、誰かを愛するにはその者と愛し合わねばならないという思考がこの世界にはございますが、私は愛し合わなくても構いません」
エリオットは俺の右手をそっと取ると、その手の甲に口付けを落とす。
「私はベリル様を愛しています。たとえ私の愛に貴方様が答えられずとも、私が貴方様を思い続ける事ができるのであればそれでいい。ベリル様がどこで何をしていようと、私は貴方様を愛し続けているのです。私が貴方様を思うことは奴隷ではなく自由でございます。これは私の至極ですからね」
「…エリオット」
「ただし、そうですね。私の働きが少しでも役に立てたのなら、それだけでいいのです。ご褒美を頂けたのは嬉しいのですが、私も付け上がってしまうのでベリル様もほどほどにしてくださいね?」
ふふっと微笑むとエリオットは俺の手をそっと放した。
「…エリオット、ありがとう」
俺がお礼を言うと彼はぺこりと優雅にお辞儀をした。
エリオット・フォン・ブランネージュ。
俺はエリオットに対して大きな思い違いをしていたのかもしれない。
彼はどこまでも悪役令息ベリルに使える従者であった。
二章、おわり。
(三章の準備により、その先は不定期更新予定)
俺は朝になると食堂のホールへ向かった。
理由はいたって簡単。
エリオットに話があるからだ。
自室で身支度を済ませて向かうと、目当ての人物とすぐに出会えた。
生徒たちが混み合う前の時間帯だったのが幸いした。
「おはようエリオット」
名前を呼ぶと艷やかな黒髪を束ねた赤色のリボンが揺れた。
エリオットは振り返ると俺を見てパッと表情を輝かせる。
「ベリル様、おはようございます」
優雅にお辞儀をして挨拶を交わす彼に対して、単刀直入に言葉を告げる。
「人気がない場所で少し話をしたい。いいか?」
「仰せのままに」
俺とエリオットは食堂を出ると寮の渡り廊下から外に出て、中庭に向かった。
誰もいない場所を選ぶと、そこで俺は口を開く。
「…昨日はすまなかった」
「ベリル様が謝るようなことではございません。私はご褒美をいただきました」
「だが…その…」
頭の中で言いたい言葉を整頓すると、俺は改めて言う。
「俺は…エリオットの愛には答えることができない。俺を慕ってくれるのはわかっているけれど、エリオットの全てを受け入れることはできない…すまない」
俺の言葉を聞き届けると、エリオットはきょとんとしていた。
何度か長い睫毛を瞬かせた後、彼は小首をかしげた。
「取るに足らないそんな事のために、ベリル様の労力を割いてしまったのですか?」
「………は?」
そんな事ってなんだ!?
愛しているという言葉に対して俺は真面目に返答したというのに。
それをそっくりそのままエリオットに伝えると、彼は吹き出して笑いはじめた。
「ぷっ、あっははははははっ!!」
大笑いだ。
なんだこれは?
(現在進行系でめちゃくちゃ笑われている…)
…これは…あれか?
あの時の台詞は言葉の綾であり、そこまで重く捉えなくていいプレイの一環だったのか?
爆笑するエリオットに対して俺が冷や汗を流していると、笑いを収めた彼が「失礼しました」と告げる。
「あまりにもベリル様が健気で切実でして、私は面食らってしまいました…ああ、そんなベリル様もお可愛らしい限りでございます」
「でも、笑う必要はないだろう?」
「すみません。ふふっ」
彼は目尻に涙を貯めるまで笑い、自らの目元を擦りながら答える。
「ベリル様の下僕である私の思いなど、そもそもの前提が一方通行でございます。ベリル様が憂いる必要などございません」
それって…悲しすぎないか?
一生懸命主様に仕えるなら、その主様に愛されたいって思わないのか?
「私はベリル様に仕えています。誰でもない貴方様に。確かに、私のような者に影響されるベリル様も大変お可愛らしくて素敵でございますが、私一人の意思で現在のベリル様を変えようとは思っていません」
エリオットはキッパリと言い切った。
(今は、ね…)
この世界のエリオットの答えとして受け取ってもいいのだろうか?
彼は言葉を続ける。
「そもそも、誰かを愛するにはその者と愛し合わねばならないという思考がこの世界にはございますが、私は愛し合わなくても構いません」
エリオットは俺の右手をそっと取ると、その手の甲に口付けを落とす。
「私はベリル様を愛しています。たとえ私の愛に貴方様が答えられずとも、私が貴方様を思い続ける事ができるのであればそれでいい。ベリル様がどこで何をしていようと、私は貴方様を愛し続けているのです。私が貴方様を思うことは奴隷ではなく自由でございます。これは私の至極ですからね」
「…エリオット」
「ただし、そうですね。私の働きが少しでも役に立てたのなら、それだけでいいのです。ご褒美を頂けたのは嬉しいのですが、私も付け上がってしまうのでベリル様もほどほどにしてくださいね?」
ふふっと微笑むとエリオットは俺の手をそっと放した。
「…エリオット、ありがとう」
俺がお礼を言うと彼はぺこりと優雅にお辞儀をした。
エリオット・フォン・ブランネージュ。
俺はエリオットに対して大きな思い違いをしていたのかもしれない。
彼はどこまでも悪役令息ベリルに使える従者であった。
二章、おわり。
(三章の準備により、その先は不定期更新予定)
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