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【後編】王子様は悪役令息の中に何を見るのか?

第二王子フランツ・フォン・レブラス

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その時だった。
背後から一人の人物が忍び寄ると、男子生徒の首裏を殴った。

「ぐはっ!?」

俺の上に跨っていた男子生徒はあっさりと意識を刈り取られて倒れる。
今までモブ生徒が視界を埋め尽くしていたので接近する人物には気付かなかった。
涙で滲んだ俺の視界に映ったのは、背後から現れた人物。

「まったく…色事も大概にしろと何度も言っただろ?」

呆れたような声音で語りかけてきたのはフランツ・フォン・レブラスだった。

「ふ…ふらんつ?」

フランツは気を失った男子生徒の首根っこを掴むと俺の上から引き剥がしてくれた。
変態の束縛による緊張から開放されて、やっと俺は嗚咽を漏らす事ができた。
顔は涙と白濁でぐしゃぐしゃになっており、変態の下敷きから脱出すると目元を何度もこすって涙と精液を拭った。
腰が抜けたまま、俺は自力で立てそうにない。

彼は俺の顔から鎖骨、胸、腹へと目線をおとして眉間にしわを寄せる。
上着のボタンは外されており、シャツは飛び散った白濁で汚れていた。
フランツは片膝をついてハンカチを差し出し、俺の顔についた液体を拭いてくれる。

「なんで、どうして…?」
「リズを送ってここに帰ってきたらお前の自室のドアが開いていたんだ」

フランツの自室は俺の部屋の隣である。
まさか、今までずっとこの部屋のドアが開いていたとは思わなかった。
男子生徒とのやり取りが全部廊下まで聞こえていたなんて…考えただけでゾッとした。

「どっ、どこから聞いていたんだ!?」
「お前が生徒を部屋に招き入れたあたりからだ」
「…。」

そんなの、最初からじゃないか。

「どうせいつもの戯れだと思っていたから放っておいた。そうしたら、お前が情けない声を出しはじめたから様子を見に来たんだ」
「…。」
「珍しいな?お前がここまで俺に言わせるなんて」

皮肉の一つや二つでも飛んでくるものだとばかり思っていたぞ、と、フランツは鼻先で笑う。
対する俺は、やっと涙が止まって思考が回りはじめたところだった。

(フランツ…なんて良いやつなんだ…)

いくら幼馴染とはいえ、入学式後に平民の生徒を輪姦したばかりの首謀者…そんな人間のピンチに駆けつけてくれるなんて。

(金髪イケメンで、なおかつ性格がいいなんて)

白馬に乗った王子様のごとく(実際に王子様だが)登場して、彼が救い出すのは主人公のリズのみだと思っていたが、まさかベリルである俺まで救出してくれるとは想像していなかった。

そもそもこのゲームの物語の流れは、舞台である学園がベリルの支配下にあり、影の奴隷制度によって統制されている。
対するフランツは正統派の王子様であり、民主的な常識を持つ人物だ。
この学園を裏から牛耳るベリルの事を心よく思っていないため、支配の奴隷となっている生徒たちを解放して導く役目を担っている。

そりゃあ…クラスどころか学園中の人間が毎日セックス三昧の大騒ぎをしていたらたまったものじゃないしな…。
フランツは主人公のリズと出会い、この学園の統治は間違っていると再認識して状況を打破するべく奴隷の解放を目標にゲームの攻略対象たちを集め、ベリルの統治から学園を開放するというゲーム展開だった。

(あれ?ということは…?)

現在、ゲームの悪役である俺は彼らと争う気などまったくない。
それならフランツと敵対する必要はなくなる。
それを俺から話して彼らと和解できれば、この学園も平和に向かいハッピーエンドになるのではないのだろうか?

(彼は忠実な王子様キャラだし、こうして困っている人間を助け出してくれたフランツなら俺の事情と話を聞いてくれるかもしれない)

だが、ここで俺はハッとする。
R18指定のBLゲームである『恥辱奴隷学園』に登場する悪役令息ベリル・フォン・フェリストは、どのルートに向かおうと物語の中で罪に問われることは一切ない。
それどころか、断罪されたり追放されたりバットエンドで死を迎えることがないのだ。

それなら最初から本編になぞったエンディングを狙えば、俺は死ぬこともなければ断罪されることもないのでは?
ここでもし、悪役令息ベリルとして誤魔化しようがない行動をとった場合、俺は本編軸からズレて罪を断罪される未来が待ち構えているのではないのだろうか?

(それは嫌すぎる…いや、でも、しかしなぁ…)

本編のベリルがやらかすことの数々といったら、目を覆いたくなるようなハードプレイばかり。
そんな事を今の俺がベリルとして演じることができるのか?
この場で相談するかどうしようかと考えながらあたふたしていると、フランツに顔を覗き込まれていることに気がついて俺は目線を上げた。

「な、なんだよ?…俺の顔になにかついているのか?」
「いつもの威勢はどこにいったんだ?お前なら「そんな口を利くなら二度と言えないようにしてやろうか?」とかなんとか言うだろ?今日は別人みたいだな」

別人という言葉にドキリとした。

(これが幼馴染の察しか)

焦って口が滑らないように何も言わなかったのだが、逆に怪しまれたようだった。
事情を話すかどうかについては保留にして、今回はバレないようにベリルを演じることにした。
なるべく辛辣なベリルが口に出すような台詞を選ぶ。

「煩いな。お前ごときの存在なら、いつでも組み伏せることができるんだよ。調子に乗るなよ駄犬」

さっき助けてもらったばかりの相手に対して、心の中では何度も土下座を繰り返しながら台詞を口にした。
そうするとフランツは愉快そうな笑みを顔に浮かべた。

「ほう?さっきまで調教が失敗した駄犬にマウントを取られて泣き腫らしていたお前には言われたくないな?」

うん。台詞のチョイスが完全に空回りを極めている事を認める。
俺は心の中で「ごもっともです」と頷いた。

「調子に乗るなと言ったはずだが?……ま、まあ…助けてくれたことに関しては感謝しているよ…」
「…。」
「…だからその顔は何だよ?」

世にも奇妙なものを目撃したとばかりに、フランツがまたこちらを覗き込んでくる。

「お前が俺に礼を言うなんて…」
「俺だって礼を言うことはあるさ。馬鹿にするなよ」

これ以上言葉を交わしたらボロが出る可能性がある。
さっさとここから出ていけというオーラを滲ませてフランツの退室を促したが、彼は俺を見つめたまま離れようとはしない。

「…。」

無言の視線が正面から向けられたまま動かない。
入学後の教室でも顔をジロジロ見られているのを思い出す。
俺がベリルとは別人である事がすでにバレているような気がして、背中に冷や汗が流れた。

「だから、さっきからジロジロとこっちを見てなんのつもりだよ?言いたいことがあるのならハッキリしろ」

こうなったら引くに引けない。
せめてその理由を聞こうとして俺が言ったのと同時に、フランツは俺の両肩を掴むと後ろへ押し倒した。

「……………は?」

突拍子もない行動に対して、俺は思わず間抜けな声を漏らす。
先程男子生徒に押し倒された床にもう一度横たわると、視界に広がるフランツに対して酷く動揺した。
後頭部は打たなかった。
フランツがゆっくりと俺の上半身を押し倒したからだ。
男子生徒の束縛とは比べようもないほど、掴まれた両肩は彼の力でガッチリと固定されていた。

「おい……フランツ、何の冗談だ?」

せっかく助け出してくれた恩人の手でもう一度床に組み伏せられたことにより、今の状況が理解できずに困惑する。
フランツは俺の腰に跨ると体重を落とし、寝転んだ俺の身体を床に縫い止める。
これはあれか?幼馴染できゃっきゃするじゃれあいか?…とは思ったが、ベリルとフランツの関係にしては違和感がある。
試しに自由な両手でフランツの胸板に手を当てて、その身体を退けようと試みた。

(ぜ、全然動かない…)

上から岩が乗っているかのごとく不動。
おい。
フランツお前もか。
幼馴染の意図が理解できずに俺が動揺していると、フランツは「なるほど」と一つ納得する。

「確かにこれはいいな」

さも意味ありげな台詞を口にすると、彼は俺のズボンのベルトに手をかけた。
俺の顔からサッと血の気が引く。

(うそだろうそだろうそだろ!?)

お前は常識人だと思っていたのに。

(真面目な優等生キャラはどこにいったんだ!?)

無論、ゲーム内のフランツとベリルは幼馴染とは言え真ん中に主人公のリズを挟んだバリタチ同士の犬猿の仲であり、主人公を抜きにしても、どちらかがどちらかを抱くことなんて天地がひっくり返っても起こらないという相性の情報を思い出す。
そのおかげで、俺はベリルとしてフランツを信頼していたところがあったというのに。
こんな事があってたまるか。

「早まるな!おい、放せ駄犬!!バカ犬!」

両手両足をばたつかせて抵抗する。
わけもわからない変態行動に対する恐怖と違い、フランツに関しては純粋に自分よりも力が強い者に押さえつけられるという警報が俺の中に鳴り響いた。

「はいはい。駄犬ですよ」

さすがBLゲームの攻キャラなだけはある。
俺のベルトをさらりと解いてズボンをずらし、下着に包まれていた男性器にフランツは手を触れる。

「なんっ!?………ひッ」

声が裏返り、俺は息を呑んだ。
外気に晒された俺の性器にフランツの人差し指が触れ、根元から先までつぅーっと指先でなぞる。
それだけで背筋がゾワゾワとした。
先程の男子生徒の時よりも最悪な方向へと状況が流れ込んでいる。

「こんな反応とはな。いつもの威勢もなかったが、ここまで抵抗しないとは思わなかった」
「!?」

萎えている前をやんわりと握られてゆっくりと扱かれる。

「…ぅっ」

やがて刺激により先走りがにじみ、くちくちと水音をたてながら同じ速度で可愛がられた。

「……っ」

「ほら」

「………ぅっ……」

「これは?」

「…ぃっ!………あっ……あぅ、な、ぃっ…っ」

体の中央を制圧されただけで、この身体が自分のものではなくなったような感覚に陥る。
片手の親指の腹でクリクリと男性器の先端に与えられる刺激のみで身体がどうにかなりそうだった。
十八禁のゲーム世界の俺はなぜこんなに感度が高いんだ?
前世では、他人の手によってそこを入念に触られたりいじられたりする状況に陥ったことはなかったが、それにしても己の身体がおかしい。
触ることによる手の温度、握られる事による圧迫感、何もかもが生々しく俺を追い詰める。

「ゃ、めろっ!」

俺の足は空中を蹴る。
彼はそんな俺の抵抗を気にした様子もなく、瞳を細めながら俺の顔を一心に眺めている。

「…へぇ?」

何かしら彼の興味を引いたようだが、今の俺にとってそんな理由はわかるわけもなかった。
俺が足でフランツを蹴ろうとしているのか、刺激に悶て足先を突っ張ってるのかわからなくなってきた。

(見るな!俺を見るな!!)

彼の空色の瞳が興味深そうに俺の体中を観察している。
俺は両手から力が抜けてもなお、フランツの胸板を押しのけようと抵抗した。
フランツは自分の胸に添えられたか弱い俺の手を取ると、指先にちゅっとキスをする。

「なっ!?」

不意打ちだった。
こんな蛮行を行った後になぜそのような行為ができる!?
下半身の刺激に対して必死に耐えていたのに、視覚の情報が飛び込んできた驚きで緊張の糸が切れた。
その瞬間を狙っていたのか、フランツはいたずらっぽい笑みを口元に浮かべる。

ここぞとばかりに下半身に対する行為を強めて愛撫した。
波打つ何かが身体の中央から頭の芯へと駆け抜ける。
それによる痛みも快感も何もない。

性行為ってもっと何か…何か無いのか?

気持ちいいとか、とろとろになるとか、えっちな気分になるとか、そういうわかりやすいものがないのか???

無い。

なんだこれは?

なんなんだこれは?

それは、刺激以外には他ならなかった。

俺には形容ができない。

お互いの接触によるこの刺激に対して、何らかの名前があるなら俺にとっては「わからない」だった。
俺の語彙力が死んでいるのか、それとも俺の身体が麻痺をしているのか。
身体の中央にグッと意識が集中すると前世でも覚えがある感覚に俺はと呻く。
腰がビクビク震える。
背中をくっと反らしながら、足に力を込めて指先を握り込みながら「わからない」なにかを受け止めて食いしばる態勢になった。

いやだ。

だってこんなものは。

「やっ、まっ、おねがっ…でる、でるぅ!」

射精前のそれである。
いくら前世が恋人無しの童貞だった俺でも一人でそういうことはやったことがあるし、そういう感覚が近づいているのもわかる。

もう先っちょまで出ている。

「そうか」

フランツはあっさりと言う。

「出せばいいだろ?今日だってお前は散々搾り取った側なのだから」
「ちがっ!」

それはベリルのやったことである。
俺自身がやったことではない。

「これはお前のいつものやり方だろ?やり返された感想はどうだ?」
「…やっ、やぁっ!」

頭を左右に振って、訪れる刺激の波に対して必死に抵抗した。
やめろ。とまれ。あっちへいけ。
わけもわからない何かが俺の中を這い登ってくる。

「やっ、もうっ」

己の口からこぼれる甘ったるい声。
こんな声なんて知らない。

「何だ?」
「ひぅっ!?」

俺は息を呑んだ。
わけがわからない何かは俺の体中を駆け巡って弾けた。

「あ、あ、ああっ、ああああああああああぁっ!」

言葉を紡ぐ前に俺の口からこぼれるものは大きな嬌声に変わった。
背中をそらし、鼻につく甘やかな声を吐き出しながらフランツの手の中に射精した。
どぴゅどぴゅと精液の勢いを受け止める大きな手。
何度かに分けて俺はそれを吐き出した。

フランツは最後まで俺の射精を受けきると、自らの手に吐き出された液体に目線を落として眺めていた。
対する俺は放出後の高揚感と気だるい身体を床に投げ出したまま荒い息を繰り返していた。
はぁはぁと酸素を貪る俺に目線を投げかけながらフランツは言う。

「お前が今までやってきた事に関しては、これで何となくわかったような気がするよ。確かに心地が良いな」
「はぁはぁ……あぅっ!?」

フランツは精液を受け止めた手の指先を、俺の口の中に突っ込んだ。

「ぐぅっ」

口内に白濁が流し込まれ、青臭い苦味が舌に滲むと顔を歪める。
知りたくもない自分の味が口の中に広がり、吐き気と同時に胸焼けがした。
そのまま残りの白濁を俺の口の中へと流し込みながら、フランツはニッコリと笑顔を浮かべる。

「何だ、そんな顔もできるのか。今までのお前はすきがなかったが、本当に今日はどうしたんだ?」
「あぅ……んぅっ」

フランツの指先をしゃぶりながら俺の意識はふわふわとしていて現実感が薄れていた。
何が起こったのか、そしてこれがどういう状況を招くのか、今の俺にはわかりようもない。
彼は楽しそうにもう片手で俺の頬に手を添えた。

フランツ・フォン・レブラスが残酷なほどまでに純粋無垢な光を瞳に宿し、俺の顔を覗き込んでいた。

俺は、昔から気弱な性格であり争いを絶対に避けるタイプだった。
だからこそ、やってきた抗争を自ら防ぐことはできず、ただただ受け止めることしかできなかった。

これは、思わぬところで何かが開花してしまった王子と、悪役令息ベリルという名の俺が演じる虚飾の物語である。

BLゲームの悪役令息に異世界転生したら攻略対象の王子様に目をつけられました。
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