15 / 28
見出した謎
しおりを挟む
明くる日、初穂と玖澄は連れ立って山の散策に出かけた。
自分がこうして山歩きまで出来るようになるとは考えたこともなかった。
二人で拵えた弁当を持参し、ひっそりと美しい水面を湛えた泉の畔へとやって来る。
見た事もない白い小さな花が一面に咲き乱れる光景に、初穂は思わず歓声をあげた。
小霊達が二人に気づいて近づいてきて、花弁を降らせたり、戯れるようにくるくると踊りながら二人の周囲を巡る。
伺うような視線を感じると、儚いあやかし達がこちらを覗いていた。害意はないようで初穂達を見守っているようにも感じる。
玖澄は、やはり初穂を気遣い続けた。
敷物を整え、初穂が少しでも負担を感じず外での食事を楽しめるようにと気を配る。
時折姿を見せる小動物たちに目を輝かせながら、初穂と玖澄は楽しい昼餉を終えた。
後片付けをして、さて少しこの辺りを散策しようかと二人は立ち上がる。
泉の冷やりとした空気を心地よく感じながら、初穂はこうして居られる事を喜び、微笑みかけた。
その瞬間、激しく胸に痛みが走る。
心の臓などの痛みではない。これは、このところ感じている、心の……。
不意に黙ってしまった初穂に、玖澄が首を傾げて問いかけようとしたのを感じて。
初穂は、少しだけ弱弱しい声音で玖澄に問いかけた。
「少しだけ、一人にしてもらってもいい……?」
何とか笑みを浮かべて見せたが、ちゃんと笑えていただろうか。
唐突な初穂の申し出に、玖澄は怪訝そうな様子だった。
何か不調法をしてしまったかと心配している様子でもある。そんな玖澄を見て、胸の痛みは更に増す。
気分をかえたいだけ、と我ながら苦しい言い訳をしてしまったと初穂が悔いていた時、玖澄が息を一つ吐いた。
「分かりました。あまり遠くには行かないように。少ししたら迎えにきますから」
玖澄は何時も通りに笑ってくれていたが、その笑みには翳りがある。
この辺りなら少し歩いても大丈夫だから、と努めて明るく言おうとする玖澄。
それがあくまで初穂を慮り故であると感じるから、申し訳なさで胸が詰まりそうになる。
小霊達にも言い聞かせ、玖澄は小さな者達を連れてその場から静かに姿を消した。
残された初穂は暫くの間重い沈黙を纏い佇んでいたが、やがて重い足取りで歩き出す。
草を踏みしめる音だけが響く中、初穂は唇を噛みしめたままだった。
何とか押さえ込み気付かれなかったようだが、初穂はこのところ感じるようになった痛みを思って心にて呻く。
最近玖澄と共に過ごしているときに、ちり、と胸の奥に痛みが走ることがある。
それは、大抵玖澄の様子に初穂が微笑んでしまったり、嬉しく思ったりするときだ。
何故に痛みが生じるのか。それに気付いているからこそ、初穂は穏やかな時間に浸りきれないでいる。
痛みは、忘れるなと初穂に警告しているようだった。
お前が玖澄に隠している事を。醜く浅ましい性根を、と。
初穂は、痛みを押し隠して微笑んでいる。
玖澄に気付かれたくない。玖澄に知られたくない。ただ、その一心で。
自分に優しくしてくれる玖澄、もうその真心は疑う余地は欠片もない。
それなのに、自分は彼を討つという使命を負っているのだ。
使命ある限り、心から自分を大切にしてくれる玖澄を、いずれ殺さなければいけないのだ。
瀬皓の人々はどうしているだろうか、と気になっている。
村の災いの原因が玖澄ではない。それはもう確かだった。
なら、他に原因があるならば、今もなお村は苦しみ続けているのではないか。
村が苦しみに晒され続けているならば、初穂に課せられた使命は終わらないのだ。
原因が玖澄にないと証を立てない限り、玖澄を討てという命令は続いているのだ。
戻ってこいと、あの日言ってくれたけれど。今は、脳裏に思い出される声が、何故か虚しく感じる。
けれどあれは、死地に赴こうとした初穂にとって唯一つの心の支えだった。
もしかしたら……もしかしたら自分は、本当は愛されていたのではないか、と思えたから。
自分は居ても良い存在なのだと思いたくて。儚い可能性だと知っていても、それに縋らずに居られなかったから……。
あの言葉から随分と経った。もう、あの日の父の表情もあやふやになってきている。
でも、今の方が自分の足で大地を踏みしめている感じがする。揺らぐ事なく立っていられていると思う。
一人の人間として、確かに初穂がそこにいるのだと認め、接してくれている玖澄の存在がどれ程心強いことか。
初穂は、初穂のままで良いのだと言葉に依らずに伝えてくれる温かで優しい大蛇。
玖澄が優しければ優しい程、幸せを感じようとすると胸に刺さる棘が激しく痛む。
分かっている。この胸の痛みは罪悪感だ。
初穂が贄となった本当の目的を未だ隠している事に対する罪の意識が、初穂の心に爪を立てるのだ。
玖澄はあんなにも優しく初穂を受け入れてくれているのに。
初穂を花嫁として迎えた事を心から喜んでくれている玖澄。
もし、初穂が玖澄を殺す使命を帯びていると知ったなら、その為に傍に居たと知ったなら、玖澄はどういう顔をするだろう。
裏切られたと悲しむだろうか、怒るだろうか。
傷ついた表情の玖澄が初穂の手を払うのを想像しただけで、怖い、と身体が震える。
紅い瞳が冷ややかな光を湛えて初穂を見たら、と考えるだけで血の気が引く思いがする。
もし、玖澄に拒絶され、追い払われたとしたら。
災いが今もなお続いているのだとしたら、父は初穂があやかしを討たないせいだと思っているかもしれない。
人々は贄が気に入らなかったのか、と初穂を役立たずと謗っているかもしれない。
それなら、玖澄の元を追い出されたら本当に初穂の行く場所はなくなってしまう。
初穂は唇を噛みしめる。
ただ居場所を失いたくないから打算に走る自分を、卑怯者と罵る。
こんな自分は、玖澄に優しくしてもらう資格などないのに。何と浅ましく醜いのだろう。
恐れる理由はそれだけか、と裡に問う声がある。初穂は深く嘆息し、俯いてしまう。
心のどこかで気付いている。
玖澄に知られたくないという理由が別にあることも。玖澄に拒絶されるのを恐れる本当の理由も。
そんなまさか、と思う。
それを口にする資格がないことを知っているからこそ、尚更そう思うのだ。
あの美しく優しい存在に、自分のような小さく狡い者は、相応しくない……。
思索のうちに歩みを進めていたら、周囲の光景が変わり始める。
いけない、と初穂は慌てた。
あまり遠くにいかないようにと言われていたのに、少し離れてしまった。
戻らないと、と来た方向に戻ろうとした時、初穂の頬に不思議な風が触れ、過ぎていった。
その瞬間、背中に寒いものが走ったような気がして、初穂は表情を強ばらせる。
何かがこの先にある、と感じる。
良いものではない気がするけれど、気になってしかたない。知らないままでは済ませたくないと思う何かが、この先にある。
玖澄には後で詫びよう、と心で呟きながら初穂はそのまま歩みを進め。
やがて、止めた。
「……あれは、何?」
初穂は目を瞬いて、思わず呟いていた。
気のせいではない。進もうとしている先に、少し開けた場所があるのが見える。
そこに……目を凝らしてみた向こう側の岩壁に見えるのは――まるで洞窟の入口のようなものだった。
洞窟という表現は正しくないと、更に進んだ初穂は気付いた。
洞窟、と言うには人の手の入ったものだった。
丸太で組んで補強してあり、まるで鉱山の入口のような構えだ。
忘れられた鉱山か何かかと思ったが、どうにも違う気がする。
遠目にもが木は新しいように見えるし、朽ち果てたといった様子は感じられない。
入口付近の下草は刈られており、人の出入りがあるのを示している。
こんな山の中に何故にこんな場所が、と初穂は訝しく思う。
瀬皓の山は、地主であり村の長である父によって厳しく禁じられていた。
こんな最近作られた鉱山のような場所があるはずがないのに、目の前には確かに存在している。
どういう事か、と初穂は中を伺おうと一歩踏み出そうとして。
次の瞬間、凍り付く。
「馬鹿! 迂闊に近づくんじゃないっ……!」
自分がこうして山歩きまで出来るようになるとは考えたこともなかった。
二人で拵えた弁当を持参し、ひっそりと美しい水面を湛えた泉の畔へとやって来る。
見た事もない白い小さな花が一面に咲き乱れる光景に、初穂は思わず歓声をあげた。
小霊達が二人に気づいて近づいてきて、花弁を降らせたり、戯れるようにくるくると踊りながら二人の周囲を巡る。
伺うような視線を感じると、儚いあやかし達がこちらを覗いていた。害意はないようで初穂達を見守っているようにも感じる。
玖澄は、やはり初穂を気遣い続けた。
敷物を整え、初穂が少しでも負担を感じず外での食事を楽しめるようにと気を配る。
時折姿を見せる小動物たちに目を輝かせながら、初穂と玖澄は楽しい昼餉を終えた。
後片付けをして、さて少しこの辺りを散策しようかと二人は立ち上がる。
泉の冷やりとした空気を心地よく感じながら、初穂はこうして居られる事を喜び、微笑みかけた。
その瞬間、激しく胸に痛みが走る。
心の臓などの痛みではない。これは、このところ感じている、心の……。
不意に黙ってしまった初穂に、玖澄が首を傾げて問いかけようとしたのを感じて。
初穂は、少しだけ弱弱しい声音で玖澄に問いかけた。
「少しだけ、一人にしてもらってもいい……?」
何とか笑みを浮かべて見せたが、ちゃんと笑えていただろうか。
唐突な初穂の申し出に、玖澄は怪訝そうな様子だった。
何か不調法をしてしまったかと心配している様子でもある。そんな玖澄を見て、胸の痛みは更に増す。
気分をかえたいだけ、と我ながら苦しい言い訳をしてしまったと初穂が悔いていた時、玖澄が息を一つ吐いた。
「分かりました。あまり遠くには行かないように。少ししたら迎えにきますから」
玖澄は何時も通りに笑ってくれていたが、その笑みには翳りがある。
この辺りなら少し歩いても大丈夫だから、と努めて明るく言おうとする玖澄。
それがあくまで初穂を慮り故であると感じるから、申し訳なさで胸が詰まりそうになる。
小霊達にも言い聞かせ、玖澄は小さな者達を連れてその場から静かに姿を消した。
残された初穂は暫くの間重い沈黙を纏い佇んでいたが、やがて重い足取りで歩き出す。
草を踏みしめる音だけが響く中、初穂は唇を噛みしめたままだった。
何とか押さえ込み気付かれなかったようだが、初穂はこのところ感じるようになった痛みを思って心にて呻く。
最近玖澄と共に過ごしているときに、ちり、と胸の奥に痛みが走ることがある。
それは、大抵玖澄の様子に初穂が微笑んでしまったり、嬉しく思ったりするときだ。
何故に痛みが生じるのか。それに気付いているからこそ、初穂は穏やかな時間に浸りきれないでいる。
痛みは、忘れるなと初穂に警告しているようだった。
お前が玖澄に隠している事を。醜く浅ましい性根を、と。
初穂は、痛みを押し隠して微笑んでいる。
玖澄に気付かれたくない。玖澄に知られたくない。ただ、その一心で。
自分に優しくしてくれる玖澄、もうその真心は疑う余地は欠片もない。
それなのに、自分は彼を討つという使命を負っているのだ。
使命ある限り、心から自分を大切にしてくれる玖澄を、いずれ殺さなければいけないのだ。
瀬皓の人々はどうしているだろうか、と気になっている。
村の災いの原因が玖澄ではない。それはもう確かだった。
なら、他に原因があるならば、今もなお村は苦しみ続けているのではないか。
村が苦しみに晒され続けているならば、初穂に課せられた使命は終わらないのだ。
原因が玖澄にないと証を立てない限り、玖澄を討てという命令は続いているのだ。
戻ってこいと、あの日言ってくれたけれど。今は、脳裏に思い出される声が、何故か虚しく感じる。
けれどあれは、死地に赴こうとした初穂にとって唯一つの心の支えだった。
もしかしたら……もしかしたら自分は、本当は愛されていたのではないか、と思えたから。
自分は居ても良い存在なのだと思いたくて。儚い可能性だと知っていても、それに縋らずに居られなかったから……。
あの言葉から随分と経った。もう、あの日の父の表情もあやふやになってきている。
でも、今の方が自分の足で大地を踏みしめている感じがする。揺らぐ事なく立っていられていると思う。
一人の人間として、確かに初穂がそこにいるのだと認め、接してくれている玖澄の存在がどれ程心強いことか。
初穂は、初穂のままで良いのだと言葉に依らずに伝えてくれる温かで優しい大蛇。
玖澄が優しければ優しい程、幸せを感じようとすると胸に刺さる棘が激しく痛む。
分かっている。この胸の痛みは罪悪感だ。
初穂が贄となった本当の目的を未だ隠している事に対する罪の意識が、初穂の心に爪を立てるのだ。
玖澄はあんなにも優しく初穂を受け入れてくれているのに。
初穂を花嫁として迎えた事を心から喜んでくれている玖澄。
もし、初穂が玖澄を殺す使命を帯びていると知ったなら、その為に傍に居たと知ったなら、玖澄はどういう顔をするだろう。
裏切られたと悲しむだろうか、怒るだろうか。
傷ついた表情の玖澄が初穂の手を払うのを想像しただけで、怖い、と身体が震える。
紅い瞳が冷ややかな光を湛えて初穂を見たら、と考えるだけで血の気が引く思いがする。
もし、玖澄に拒絶され、追い払われたとしたら。
災いが今もなお続いているのだとしたら、父は初穂があやかしを討たないせいだと思っているかもしれない。
人々は贄が気に入らなかったのか、と初穂を役立たずと謗っているかもしれない。
それなら、玖澄の元を追い出されたら本当に初穂の行く場所はなくなってしまう。
初穂は唇を噛みしめる。
ただ居場所を失いたくないから打算に走る自分を、卑怯者と罵る。
こんな自分は、玖澄に優しくしてもらう資格などないのに。何と浅ましく醜いのだろう。
恐れる理由はそれだけか、と裡に問う声がある。初穂は深く嘆息し、俯いてしまう。
心のどこかで気付いている。
玖澄に知られたくないという理由が別にあることも。玖澄に拒絶されるのを恐れる本当の理由も。
そんなまさか、と思う。
それを口にする資格がないことを知っているからこそ、尚更そう思うのだ。
あの美しく優しい存在に、自分のような小さく狡い者は、相応しくない……。
思索のうちに歩みを進めていたら、周囲の光景が変わり始める。
いけない、と初穂は慌てた。
あまり遠くにいかないようにと言われていたのに、少し離れてしまった。
戻らないと、と来た方向に戻ろうとした時、初穂の頬に不思議な風が触れ、過ぎていった。
その瞬間、背中に寒いものが走ったような気がして、初穂は表情を強ばらせる。
何かがこの先にある、と感じる。
良いものではない気がするけれど、気になってしかたない。知らないままでは済ませたくないと思う何かが、この先にある。
玖澄には後で詫びよう、と心で呟きながら初穂はそのまま歩みを進め。
やがて、止めた。
「……あれは、何?」
初穂は目を瞬いて、思わず呟いていた。
気のせいではない。進もうとしている先に、少し開けた場所があるのが見える。
そこに……目を凝らしてみた向こう側の岩壁に見えるのは――まるで洞窟の入口のようなものだった。
洞窟という表現は正しくないと、更に進んだ初穂は気付いた。
洞窟、と言うには人の手の入ったものだった。
丸太で組んで補強してあり、まるで鉱山の入口のような構えだ。
忘れられた鉱山か何かかと思ったが、どうにも違う気がする。
遠目にもが木は新しいように見えるし、朽ち果てたといった様子は感じられない。
入口付近の下草は刈られており、人の出入りがあるのを示している。
こんな山の中に何故にこんな場所が、と初穂は訝しく思う。
瀬皓の山は、地主であり村の長である父によって厳しく禁じられていた。
こんな最近作られた鉱山のような場所があるはずがないのに、目の前には確かに存在している。
どういう事か、と初穂は中を伺おうと一歩踏み出そうとして。
次の瞬間、凍り付く。
「馬鹿! 迂闊に近づくんじゃないっ……!」
2
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
白蛇さんの神隠し
こみあ
キャラ文芸
修学旅行中、うっかり罰当たりなことをやらかした百々花(ももは)。
呑気に白蛇さんについていったら神隠しにあわされた。
突然見知らぬ土地に送り出され、落ち武者狩りに襲われたももはを救ってくれたのは、見目麗しい白蛇様の化身。
神罰を受けて神隠しされたらしきももは、は苗字も帰る場所も思い出せない。
行き場のないももははそれでも自分を売り込み、神域に借宿を頂き、奔放な白蛇様のちょっかいをかわしつつ、自分の居場所へと帰るすべを探るのだった。
♦♦♦♦♦
序盤、ちょっとグロ描写入ります。
歴史考証はいい加減です、ごめんなさい。
娯楽と思ってお読みくださいませ。
紹嘉後宮百花譚 鬼神と天女の花の庭
響 蒼華
キャラ文芸
始まりの皇帝が四人の天仙の助力を得て開いたとされる、その威光は遍く大陸を照らすと言われる紹嘉帝国。
当代の皇帝は血も涙もない、冷酷非情な『鬼神』と畏怖されていた。
ある時、辺境の小国である瑞の王女が後宮に妃嬪として迎えられた。
しかし、麗しき天女と称される王女に突きつけられたのは、寵愛は期待するなという拒絶の言葉。
人々が騒めく中、王女は心の中でこう思っていた――ああ、よかった、と……。
鬼神と恐れられた皇帝と、天女と讃えられた妃嬪が、花の庭で紡ぐ物語。
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
戸惑いの神嫁と花舞う約束 呪い子の幸せな嫁入り
響 蒼華
キャラ文芸
四方を海に囲まれた国・花綵。
長らく閉じられていた国は動乱を経て開かれ、新しき時代を迎えていた。
特権を持つ名家はそれぞれに異能を持ち、特に帝に仕える四つの家は『四家』と称され畏怖されていた。
名家の一つ・玖瑶家。
長女でありながら異能を持たない為に、不遇のうちに暮らしていた紗依。
異母妹やその母親に虐げられながらも、自分の為に全てを失った母を守り、必死に耐えていた。
かつて小さな不思議な友と交わした約束を密かな支えと思い暮らしていた紗依の日々を変えたのは、突然の縁談だった。
『神無し』と忌まれる名家・北家の当主から、ご長女を『神嫁』として貰い受けたい、という申し出。
父達の思惑により、表向き長女としていた異母妹の代わりに紗依が嫁ぐこととなる。
一人向かった北家にて、紗依は彼女の運命と『再会』することになる……。
あやかし姫を娶った中尉殿は、西洋料理でおもてなし
枝豆ずんだ
キャラ文芸
旧題:あやかし姫を娶った中尉殿は、西洋料理を食べ歩く
さて文明開化の音がする昔、西洋文化が一斉に流れ込んだ影響か我が国のあやかしやら八百万の神々がびっくりして姿を表しました。
猫がしゃべって、傘が歩くような、この世とかくりよが合わさって、霧に覆われた「帝都」のとあるお家に嫁いで来たのは金の尾にピンと張った耳の幼いあやかし狐。帝国軍とあやかしが「仲良くしましょう」ということで嫁いで来た姫さまは油揚げよりオムライスがお好き!
けれど困ったことに、夫である中尉殿はこれまで西洋料理なんて食べたことがありません!
さて、眉間にしわを寄せながらも、お国のためにあやかし姫の良き夫を務めねばならない中尉殿は遊び人の友人に連れられて、今日も西洋料理店の扉を開きます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
もののけ達の居るところ
神原オホカミ【書籍発売中】
キャラ文芸
第4回ほっこり・じんわり大賞『大賞』受賞
美大を卒業後、希望の就職先へと勤めて好きな仕事をこなしているのに、突如、ストレス性の鬱と診断されて会社を辞めざるを得なくなってしまった主人公、瑠璃。会社を辞めて、文房具店でアルバイトを始めることとなったが、お金も無く再就職先も見つからず、今いる社宅を出て行かなくてはならず困っていた。
おまけに瑠璃は鬱と診断されてから、謎の幻聴に困っており、四苦八苦していた。
そんな時、バイト先によく来る画廊のマーケターが、担当の画家の個展をするので特別チケットを渡してくれる。美大の学生時代から憧れていたモノノケ画家と呼ばれる龍玄の個展で、瑠璃は心を躍らせながら出かけて行く。
龍玄に住み込みの手伝いをしないか誘われ、引っ越し先に困っていた瑠璃は、その仕事を引き受けることに。
✬「第4回ほっこり・じんわり大賞」大賞受賞作。
応援ありがとうございました!
傍へで果報はまどろんで ―真白の忌み仔とやさしい夜の住人たち―
色数
キャラ文芸
「ああそうだ、――死んでしまえばいい」と、思ったのだ。
時は江戸。
開国の音高く世が騒乱に巻き込まれる少し前。
その異様な仔どもは生まれてしまった。
老人のような白髪に空を溶かしこんだ蒼の瞳。
バケモノと謗られ傷つけられて。
果ては誰にも顧みられず、幽閉されて独り育った。
願った幸福へ辿りつきかたを、仔どもは己の死以外に知らなかった。
――だのに。
腹を裂いた仔どもの現実をひるがえして、くるりと現れたそこは【江戸裏】
正真正銘のバケモノたちの住まう夜の町。
魂となってさまよう仔どもはそこで風鈴細工を生業とする盲目のサトリに拾われる。
風鈴の音響く常夜の町で、死にたがりの仔どもが出逢ったこれは得がたい救いのはなし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる