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山歩きの誘い
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初穂が大蛇の屋敷の住人となって、一つの季節が過ぎた。
初穂の体調は随分と落ち着いていた。
玖澄が手を尽くして集めてくれた霊薬や食材が功を奏したのか、もう寝込むこともなければ、以前のように何かする度に調子を崩すこともない。
まるで何かの不可思議の術でも使ったのか、と思う程の代わりようだった。
これは現実かと疑ってしまうこともあった。けれどその都度、優しく触れてくれる玖澄の手の温かさが現だと知らせてくれるのだ。
四季を集めた庭に変化はないように見えても、暮らす二人には確かに変化が現れていた。
初穂は、玖澄を名で呼ぶようになり、すっかり玖澄に対して打ちとけて話すようになっていた。
気安い話し方をしてしまっている事に気付いて慌てた初穂に、そのほうがいいです、と玖澄は笑う。
しかし、玖澄は殿方であり、力あるあやかしであり、初穂にとっては夫である存在だ。目上の男性に砕けた物言いをするなど以ての外と教えられて育ってきた。ましてや、夫を呼び捨てするなど。
それはできないから、と丁寧なものに戻すと、むしろ悲しそうにする玖澄に初穂が折れた。雨に打たれた犬の仔のような様子で見つめられては、何とも言えない気持ちになり、ついには降参してしまったのだ。
自分はそのままの癖に、と少しばかり恨めしそうにしてしまうのだが、当の本人は無邪気に笑っているばかり。
そんな玖澄を見ていると、何故か頬が熱くなって初穂は俯いてしまうのだ。
初穂は簡単なものから、少しずつ家事を覚えていった。
優しい大蛇の隣で一つ一つ教えてもらいながら。従者や小さな精霊たちに見守られ、励まされながら。
砂が水を吸うように出来ることが増えていく初穂を見て、玖澄はいつも嬉しそうだった。
教え甲斐があるといって微笑み、また新しいことを教えてくれる。
一度は諦めた異国の言葉も、簡単なものであれば読めるまでになっていた。
あの時諦めたおとぎ話を自分の力で読み終えることが出来た時、初穂は心から満足し、美しい物語だったと呟いた。
言葉が複雑であったり難しい物語は、あの美しく不思議な部屋にて玖澄が読み聞かせしてくれる。
少し低くて落ち着いた玖澄の声音で語られる物語は、初穂の中に広がり行く外の世界を描き出す。
山の物語を読み終えた初穂に、玖澄は言った。明日、山を歩いてみましょうか、と。
あまりに何気なく言われた言葉に、初穂はいいのだろうかと驚き、躊躇ってしまう。
体調は確かに以前に比べて格段に良い。少しの散策であれば出来る気がする。玖澄が一緒に居てくれるのであれば心配はないだろう。
問題は、初穂の中の恐れである。
幼い頃から気ままに歩くどころか、足を踏み入れる事すら禁じられていた場所である。こうして山の屋敷に暮らす身となって大分薄れたと思っていたのに、いざ自分の足でとなると禁忌を犯すことへの畏れがついつい先だってしまうのだ。
躊躇う様子の初穂に玖澄が不思議そうにしているので、初穂は村で山に入る事が禁じられていることについて説明する。
暫し初穂の言葉を黙って聞いていた玖澄だったが、やがて首を傾げながら不思議そうに呟いた。
「こんなに、山の恵みが多いのに……」
確かに、その通りなのだろう。
玖澄が山に住まう他のあやかしや生き物たちから貰ってきた、と良く素晴らしい山の幸を持ち帰ってくる。
人の手が入っていない分、そこには多くの恵みがあることだろう。
しかし手にしてはならない場所にある以上、それらは瀬皓の民にとっては手の届かぬ宝だった。
そこでふと、玖澄の表情が陰る。
「もしかして。……私のせいですか?」
やや強張った表情で玖澄が問う。
もしや、大蛇のあやかし――つまりは玖澄がいると恐れる為に人々は山に入れないでいるのか、と思い至ったらしい。
責任を感じたのか、すっかり肩をおとして落ち込んでしまった玖澄を見て、初穂は慌てて口を開いた。
「確かに、山にはあやかしが居るからとは言われていたけど……。恐らく、危ない目にあう人間が出ないようにというのが実際のところだと思うわ」
玖澄の存在が理由ではない、と言い切ってしまえば嘘になるだろうが、直接の原因は違うのだと思う。
村でも生き字引のような扱いをされている老婆が語っていたのを聞いた事がある。
山にあやかしがいるというのは古くから言い伝えられていたことだが、実際に山に忍び込んだ子供が沢に転落して亡くなったことがあったらしい。
それ以来、あやかしの存在に結び付けて、迂闊に山に踏み入るのを戒めるようになったのだという。
「でも、おじい様の頃には禁じられていても、お目こぼしがあったらしいの。収穫が少ない年などは、仕方ないって」
瀬皓は元も痩せた土地にある僻地の村である。
作物の収量が多いとは言えない上に、天候が荒れれば満足に収穫が得られない年だってある。
そんな年に山の幸にて命を繋ごうと、掟を犯して山に踏み入る者達が出るのは致し方ない、と祖父たちは見逃していたという。
だが、変化は訪れる。
「お父様の代になって……。本当に最近、特に山への立ち入りが厳しく戒められて、立ち入った者は理由如何を問わずに罰を受けるように」
父が長を引き継いで暫くしてから、少しずつ山への立ち入りが厳しく戒められるようになっていった。
初穂もかつて、山へ立ち入った罰として打ち据えられている人間を見た事がある。
そして、父がけして立ち入る事は許さぬと厳しい触れを出したのは、瀬皓に異変が起きはじめる少し前のことだった。
その後起きた災いに、もしかしたら密かに山に踏み入った何者かが大事を引き起こしてしまったのではないか、と人々は囁き合っていた。
立ち入った人間は打ち据えられるどころか村八分の扱いを受けるようになる。閉じた世界においては致命的とも言える罰だった。
誰が諫めても父はけして許さず、禁を犯した者達は瀬皓にて生きる事もできず、村を出ていった。その後の行方は杳として知れない。
「それならば、やめておきますか? この季節には可愛らしい花が咲く場所もあるのですが……」
僅かに悲しげな面もちで玖澄が言うのを聞いて、初穂は少しばかり考え込んだ。
そして、ふるふると首を左右に振り、申し出を受け入れたいと言う旨を伝える。
玖澄が横にいてくれるなら、理由のわからぬ禁忌とて怖くない気がする。
何故に父がそこまで戒めたのかはわからない。だが、不思議とそれに逆らうのが怖くない。
おずおずと少しばかり緊張したような様子で玖澄を見つめる初穂は、玖澄の顔に戻った嬉しそうな笑顔を見て心底安堵した。
楽しそうに初穂の山歩きの支度を整え始めた玖澄を見て、不意に初穂は表情を強ばらせかけた。
だが、玖澄は気付いていない様子であり、初穂は心から安堵していた。
初穂の体調は随分と落ち着いていた。
玖澄が手を尽くして集めてくれた霊薬や食材が功を奏したのか、もう寝込むこともなければ、以前のように何かする度に調子を崩すこともない。
まるで何かの不可思議の術でも使ったのか、と思う程の代わりようだった。
これは現実かと疑ってしまうこともあった。けれどその都度、優しく触れてくれる玖澄の手の温かさが現だと知らせてくれるのだ。
四季を集めた庭に変化はないように見えても、暮らす二人には確かに変化が現れていた。
初穂は、玖澄を名で呼ぶようになり、すっかり玖澄に対して打ちとけて話すようになっていた。
気安い話し方をしてしまっている事に気付いて慌てた初穂に、そのほうがいいです、と玖澄は笑う。
しかし、玖澄は殿方であり、力あるあやかしであり、初穂にとっては夫である存在だ。目上の男性に砕けた物言いをするなど以ての外と教えられて育ってきた。ましてや、夫を呼び捨てするなど。
それはできないから、と丁寧なものに戻すと、むしろ悲しそうにする玖澄に初穂が折れた。雨に打たれた犬の仔のような様子で見つめられては、何とも言えない気持ちになり、ついには降参してしまったのだ。
自分はそのままの癖に、と少しばかり恨めしそうにしてしまうのだが、当の本人は無邪気に笑っているばかり。
そんな玖澄を見ていると、何故か頬が熱くなって初穂は俯いてしまうのだ。
初穂は簡単なものから、少しずつ家事を覚えていった。
優しい大蛇の隣で一つ一つ教えてもらいながら。従者や小さな精霊たちに見守られ、励まされながら。
砂が水を吸うように出来ることが増えていく初穂を見て、玖澄はいつも嬉しそうだった。
教え甲斐があるといって微笑み、また新しいことを教えてくれる。
一度は諦めた異国の言葉も、簡単なものであれば読めるまでになっていた。
あの時諦めたおとぎ話を自分の力で読み終えることが出来た時、初穂は心から満足し、美しい物語だったと呟いた。
言葉が複雑であったり難しい物語は、あの美しく不思議な部屋にて玖澄が読み聞かせしてくれる。
少し低くて落ち着いた玖澄の声音で語られる物語は、初穂の中に広がり行く外の世界を描き出す。
山の物語を読み終えた初穂に、玖澄は言った。明日、山を歩いてみましょうか、と。
あまりに何気なく言われた言葉に、初穂はいいのだろうかと驚き、躊躇ってしまう。
体調は確かに以前に比べて格段に良い。少しの散策であれば出来る気がする。玖澄が一緒に居てくれるのであれば心配はないだろう。
問題は、初穂の中の恐れである。
幼い頃から気ままに歩くどころか、足を踏み入れる事すら禁じられていた場所である。こうして山の屋敷に暮らす身となって大分薄れたと思っていたのに、いざ自分の足でとなると禁忌を犯すことへの畏れがついつい先だってしまうのだ。
躊躇う様子の初穂に玖澄が不思議そうにしているので、初穂は村で山に入る事が禁じられていることについて説明する。
暫し初穂の言葉を黙って聞いていた玖澄だったが、やがて首を傾げながら不思議そうに呟いた。
「こんなに、山の恵みが多いのに……」
確かに、その通りなのだろう。
玖澄が山に住まう他のあやかしや生き物たちから貰ってきた、と良く素晴らしい山の幸を持ち帰ってくる。
人の手が入っていない分、そこには多くの恵みがあることだろう。
しかし手にしてはならない場所にある以上、それらは瀬皓の民にとっては手の届かぬ宝だった。
そこでふと、玖澄の表情が陰る。
「もしかして。……私のせいですか?」
やや強張った表情で玖澄が問う。
もしや、大蛇のあやかし――つまりは玖澄がいると恐れる為に人々は山に入れないでいるのか、と思い至ったらしい。
責任を感じたのか、すっかり肩をおとして落ち込んでしまった玖澄を見て、初穂は慌てて口を開いた。
「確かに、山にはあやかしが居るからとは言われていたけど……。恐らく、危ない目にあう人間が出ないようにというのが実際のところだと思うわ」
玖澄の存在が理由ではない、と言い切ってしまえば嘘になるだろうが、直接の原因は違うのだと思う。
村でも生き字引のような扱いをされている老婆が語っていたのを聞いた事がある。
山にあやかしがいるというのは古くから言い伝えられていたことだが、実際に山に忍び込んだ子供が沢に転落して亡くなったことがあったらしい。
それ以来、あやかしの存在に結び付けて、迂闊に山に踏み入るのを戒めるようになったのだという。
「でも、おじい様の頃には禁じられていても、お目こぼしがあったらしいの。収穫が少ない年などは、仕方ないって」
瀬皓は元も痩せた土地にある僻地の村である。
作物の収量が多いとは言えない上に、天候が荒れれば満足に収穫が得られない年だってある。
そんな年に山の幸にて命を繋ごうと、掟を犯して山に踏み入る者達が出るのは致し方ない、と祖父たちは見逃していたという。
だが、変化は訪れる。
「お父様の代になって……。本当に最近、特に山への立ち入りが厳しく戒められて、立ち入った者は理由如何を問わずに罰を受けるように」
父が長を引き継いで暫くしてから、少しずつ山への立ち入りが厳しく戒められるようになっていった。
初穂もかつて、山へ立ち入った罰として打ち据えられている人間を見た事がある。
そして、父がけして立ち入る事は許さぬと厳しい触れを出したのは、瀬皓に異変が起きはじめる少し前のことだった。
その後起きた災いに、もしかしたら密かに山に踏み入った何者かが大事を引き起こしてしまったのではないか、と人々は囁き合っていた。
立ち入った人間は打ち据えられるどころか村八分の扱いを受けるようになる。閉じた世界においては致命的とも言える罰だった。
誰が諫めても父はけして許さず、禁を犯した者達は瀬皓にて生きる事もできず、村を出ていった。その後の行方は杳として知れない。
「それならば、やめておきますか? この季節には可愛らしい花が咲く場所もあるのですが……」
僅かに悲しげな面もちで玖澄が言うのを聞いて、初穂は少しばかり考え込んだ。
そして、ふるふると首を左右に振り、申し出を受け入れたいと言う旨を伝える。
玖澄が横にいてくれるなら、理由のわからぬ禁忌とて怖くない気がする。
何故に父がそこまで戒めたのかはわからない。だが、不思議とそれに逆らうのが怖くない。
おずおずと少しばかり緊張したような様子で玖澄を見つめる初穂は、玖澄の顔に戻った嬉しそうな笑顔を見て心底安堵した。
楽しそうに初穂の山歩きの支度を整え始めた玖澄を見て、不意に初穂は表情を強ばらせかけた。
だが、玖澄は気付いていない様子であり、初穂は心から安堵していた。
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