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伯爵家の恥

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「おはようございます」
「おはようございます、リアム様」

 1人で朝食を食べられるかと思ったのに、既に義弟のリアムが席についていた。

「兄は具合が悪くて、暫く別邸に療養する事になりました。申し訳ありません」
「いえ、健康第一ですから、ゆっくりするようお伝えください」
「ええ、伝えておきます」

 女と一緒にをするのか教えてほしいものだわ。
 この弟も、兄が妻を捨てて出ていったのを知ってるはずなのに、私と一緒に朝食を食べる面の皮の厚さ。
 伯爵家の教育は凄いのね。

「クレア義姉さん」
「何でしょうか?」
「食事を終えたら視察に行きます。支度を整えてください」
「私が行くのですか?」
「伯爵が動けなければ、伯爵夫人が仕事をするのは当然でしょう。私が補佐を努めます」
「そうですね」

 貴方の兄が、何もかも捨てて女と逃げたのに、その穴を私に埋めさせるつもりなの?冗談じゃないわ。

 ――とは思うけれど、ここを去るまでは問題をおこしたくないから、今だけおとなしく言う事を聞いておこう。

 これ以降、何一つ会話はないまま食事は終了。使用人も機械のように決まった動きしかしないし、地獄のような時間だわ。


 支度をして外に出ると、既にリアムが待っていた。

「遅くなって、申し訳ありません」
「……視察に行くだけなのに、そんなに着飾る必要があるんですか?」

 そう言って、リアムが冷たい視線を浴びせてきた。

 言いたい気持ちは解るわ。私だってそう思うもの。
 派手なネックレスにイヤリング、ブローチ、指輪、つばの広い帽子に日傘。フリルやレースやリボンが沢山ついたワンピース。重くて動きにくいし、すぐに着替えたいくらいよ。
 でも、用意されていたのがこれなんだから、文句を言うなら使用人に言ってほしいわ。

「……以後、気を付けます」
「はぁ……、着替えをする時間はありません。出発します」

 兄の愚行を棚に上げて、よくも私にそんな偉そうに振る舞えるわね……。

 腹は立つけど、今は我慢。我慢よ。
 私の幸せな未来のために。

『伯爵が領民を捨てて駆け落ちした』だなんて、すごい醜聞よね。この切り札は、有効に使わないと。

 それにしても、視察ってどこに行くのかしら。馬車ではリアムも従者も喋らないし、何時間も馬車に揺られるだけっていうのも辛いのよね。

「リアム様、視察先で私は何をすればいいのですか?」
「貴女は何もしなくて結構です」
「でも、伯爵の代理でいくのですよね?」

 何も知らない状態でいいの?

「視察先では、常に私の横で笑っていてください。それ以上は貴女に期待していません」
「はい。では、全てお任せ致します」

 仕事をしなくていいなら助かるけど、言い方ってあると思うのよね。伯爵家は兄弟揃って私を馬鹿にしたいの?

 ううん、既に馬鹿にされてるのよ。けど、構わないわ。最後に笑うのが私ならね。

 落ちぶれた子爵令嬢なら、何をされても文句は言えないと思ったんだろうけど、詰めが甘いのよ。
 私は、父とメイドとの間に産まれた子。父親が邸で浮気して産まれた、望まれない子だった。
 家では虐められたりはしなかったけど、空気のように扱われてた。
 私を産んだ後、母は邸を追い出されて死んだ。私を守ってくれる人なんていない。私が守りたい人もいない。
 大切なものを持たない人間《わたし》は強いのだと、思い知ればいいのよ。

 リアムは共犯か被害者なのかは知らないけど、伯爵家がどうなろうが私には関係ないわ。
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