上 下
10 / 187

行方不明の婚約者2

しおりを挟む
 わかってたわ、もう何となくこうなる事はわかっていたの。

パーティー…付いて来てるんだよね…私。

マール君を見てて欲しい…って奥様は言うんだけどね…

全てマール君のわがまま。
私に抱きついて離れなかったの。だから急遽奥様の侍女という形で付いて来る事に…
教育係の契約終了まで後20日だけど、私は本当に辞めさせて貰えるのかな…とても不安だわ。

王子が来るような大きなパーティーではないみたいだし、誰も私を知らないからいいか。…たとえ王子が来てたとしても、私の顔を知らないのだから大丈夫なのよね。

今までは煩わしい挨拶や興味もない会話、婚約者探しのお嬢様達になんとなく合わせなきゃいけなかったけど、それがないのはとても楽。
もちろん侍女であっても礼儀正しくするのはマナーだから、そこは問題ないもの。

 挨拶も終わったのか、クイクイとスカートの裾を引っ張るマール君。

「よし、お庭に行こうか」

マール君はコクコクと頷いた。
庭は綺麗に手入れされていて、歩いていて気持ちがよかった。

「ん?」

マール君が見てるのは蜜蜂。

「虫が好きなの?」

聞いて見ると、コクンと頷く。
マール君のお部屋に図鑑は無かったから、伯爵に言って買って貰おうかな。いいよね?私が欲しい物を言うんじゃないんだもの。
でも私は苦手なのよね……。よく見てると気持ちが悪いし。虫について教えて欲しいと言われたらどうしようかな…

「もう少しお庭を散歩していたいけど、日差しがきつくなってきたから帽子をとりに部屋までかえろうか」
今日も私の手をギュっと握って、マール君はご機嫌だ。
ホールのすぐ側までくると、大きな声が聞こえる。

「あなた、どういうつもりっ!?」

扉の前で黒いドレスを着た女性が何か喚いてる。


早く通らせて欲しいのだけど…マール君は色が白くて太陽にやけると赤くなりやすいみたいだし。

「大変申し訳ございませんが、招待されていない方の入場は許されておりませんので。」

招かれてもないのに来て喚くなんて、恥ずかしいと思わないのかしら…。

ここに招待されているのは、鉄道出資や開通に関する者とその家族だけ。公式に開いてる訳でもない、小さなものなのよね。気が置けない人達だけでのお祝いのような。どこから、聞きつけてやってきたんだろ。お金持ちは多いから、独身狙いかな。言い方は悪いけどね。

「ちょっと、あなた。私を誰だと思っているの!エドワード王子の恋人よ!!」

「…え…あなたがっ!?」

あ…まずいっ…!

口から出てしまった声は、もう戻せない。

「あなた、今何て言ったの?」 

「申し訳ございません。エドワード様の想い人を初めて見たものですから、驚いてしまいまして。噂に違わぬ、とても綺麗な方だと驚いてしまいました。大変失礼致しました。」

私は頭を下げた。

「そう、それなら仕方ないわね。」

 よかった!簡単な人で!!

「ラドクリフ様、待たせてしまったようで大変申し訳ございません。ささ、お入りください。」
「マール君。行こうか」

私が言うと、コクコクと頷く。それを見て何を思ったのか、『エドワードの恋人』は信じられない事をいった。

「もしかして、その子喋れないの?ラドクリフ伯爵は跡目を継ぐ子がいないのね」

カッチーン
擬音にするならまさにそれ。
馬鹿なエドワードの恋人に、一言言ってやらないと気がすまないわ…

「エドワード王太子殿下の恋人…と仰ってましたけど、『婚約者』ではないのでしょう?貴女がこの国の王子の名を口にしてもいいのは、『婚約者』になった時ではなくて?」

「何ですって…」

「本当の事を申し上げたまでです。このパーティーに相応しくない下品なドレスと化粧。『エドワード』と名を出すのであれば、それくらいの知識は得てから来るべきではないかしら?」

「…たかが侍女の分際で……。伯爵の事も
私が王子に言えばどうなるかわかっているの!!」

「どうなるのかしら?」

「爵位くらい剥奪してやるわ!」

「貴女、『王子の恋人に偉そうな口をきいた』という理由だけだ爵位を剥奪出来るとでも思ってるの?まず、それを決められるのは『王子』ではないし、この国が独裁政治でないかぎり『王』が1人で決める事も出来ないのよ。伯爵家の功績は王族だって知っているもの。どちらに軍配が上がるか、見ものね。」
「……」
「さ、マール君。暑いからお部屋でジュースでも飲もうか」

 伯爵令嬢の私をあまくみた罰よ。

それにしても、ここの王子の目は節穴なのかしら…。溺愛する女性がアレなの?
驚きを通り越して、呆れる…。本当に人を見る目がないのね…この国は将来大丈夫なの?恐ろしいわ…
 
出来の悪い王子との結婚なんて絶対嫌!!逃げ出せてよかった!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...