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4. 秘密のお友達
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私には人に言えない秘密がある。もう一人の自分とも言える存在が、この世の何処かーーもしくは遠い未来か過去に存在するのだ。
幼い頃から見続ける夢の話を、お父様に初めてしたのはいつだったか。
「お父様、私も林檎マークの『たぶれっと』が欲しいのです。ちょうど加奈子が使っているような」
長椅子に座るお父様の膝に駆け寄って、私はおねだりした。彼女の使っている道具が、とても便利に見えて羨ましかったのだ。
お父様は怪訝な顔で私を見下ろした。
「……『たぶれっと』? それに加奈子って誰なんだ?」
「加奈子は夢に出てくるお友達よ」
意気揚々と答えた私に、お父様は更に眉間の皺を深くした。
「夢ねぇ……。いいかい、アメリア。夢と現実をごちゃ混ぜにしてはいけないよ。夢は夢で、現実ではない」
「でもお父様、加奈子は本当にーー」
「アメリア、戯言はいい加減にしなさい。加奈子なんていないんだ」
「……」
諭すような静かな声だったけれど、お父様の言葉は私を深く傷つけた。娘の頭がおかしくなってしまったのかと、訝しがるその視線が痛い。
「……分かりました。可笑しなことを言ってごめんなさい……」
我が家においてお父様の言葉は絶対だ。
それを機に、私は夢の話を一切人にしなくなった。幼心に夢の世界は異常なのだと、人に話してはいけないのだと悟ったのだ。
当初は心配していたお父様も、私がそれ以来、『加奈子』の名を口にしなくなったので、よくある想像力豊かな幼少期の一環として水に流したようだ。もしくは妹のカトレアがよちよち歩きを始めた頃だったので、周囲の関心が薄れたことによる幼児返りと片付けたのか。
それでもーー
公爵家の娘として相応しい振る舞いを身につけていく日々の中、私は加奈子の夢を見続けた。
幼い頃から見続ける夢の話を、お父様に初めてしたのはいつだったか。
「お父様、私も林檎マークの『たぶれっと』が欲しいのです。ちょうど加奈子が使っているような」
長椅子に座るお父様の膝に駆け寄って、私はおねだりした。彼女の使っている道具が、とても便利に見えて羨ましかったのだ。
お父様は怪訝な顔で私を見下ろした。
「……『たぶれっと』? それに加奈子って誰なんだ?」
「加奈子は夢に出てくるお友達よ」
意気揚々と答えた私に、お父様は更に眉間の皺を深くした。
「夢ねぇ……。いいかい、アメリア。夢と現実をごちゃ混ぜにしてはいけないよ。夢は夢で、現実ではない」
「でもお父様、加奈子は本当にーー」
「アメリア、戯言はいい加減にしなさい。加奈子なんていないんだ」
「……」
諭すような静かな声だったけれど、お父様の言葉は私を深く傷つけた。娘の頭がおかしくなってしまったのかと、訝しがるその視線が痛い。
「……分かりました。可笑しなことを言ってごめんなさい……」
我が家においてお父様の言葉は絶対だ。
それを機に、私は夢の話を一切人にしなくなった。幼心に夢の世界は異常なのだと、人に話してはいけないのだと悟ったのだ。
当初は心配していたお父様も、私がそれ以来、『加奈子』の名を口にしなくなったので、よくある想像力豊かな幼少期の一環として水に流したようだ。もしくは妹のカトレアがよちよち歩きを始めた頃だったので、周囲の関心が薄れたことによる幼児返りと片付けたのか。
それでもーー
公爵家の娘として相応しい振る舞いを身につけていく日々の中、私は加奈子の夢を見続けた。
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