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お世話になりました
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空が白み始める頃、ようやく荷物をまとめ終えました。一人で持ち歩かねばなりませんので、かなり厳選しました。
道中売り払うべき小物と、両親の形見の品はしかと懐に入れました。荷物の中に入れるのは色々得策ではないと、安全では無いと考えたからです。いくら無知な小娘でもそれくらいの事は考えるんです。
「それでは行きましょうか」
傍から見ればただの独り言。けれど私としては側に佇むロルド老人に向けた言葉です。
私だけが見えるその姿、そのお顔に向けて言えば、ご老人は静かに頷かれます。
先ほどは驚いて言葉を失ってしまいましたが・・・本当にこの方が国の守護神なのでしょうか?
嘘か冗談だろうと笑い飛ばせれば良かったのですが、これまでの付き合いでそういうった事を口にされる方ではないのを私は知っております。
つまり本当のことなのでしょう。
そもそもロルド老人が宿っていた指輪は、長い年月代々王妃となる女性に受け継がれた指輪なのです。王族が持っているとなれば、それは確かにあり得る話なのでしょう。
ですが私は王妃候補から外れました。バイザー様から婚約破棄を告げられました。ならば次の王妃候補となるパーリー令嬢の元へ行くべきと考えたのですが・・・ロルド老人は、守護神様は首を横に振られました。
『私がこれまで守護してきた者は、紛れもなく王族として問題ない存在だった。なればこそ、私は守護し続けてきたのだ。そしてリアラ、私は其方こそが王妃の器を持っていると思っている。神たる我の直感だ、外れる事はない。つまりそのパーリー令嬢とやらは王妃の器ではない。そしてその女を選んだ次期王であるバイザーもまた、王の器ではないということだ』
随分強引な話のようにも感じますが、神様が仰ってるのですからそうなのでしょう。
そしてロルド老人は・・・
『最早この国に将来は無いと見た。私は今を持ってこの国を見限り、そなたを守護するだけの神となろう』
・・・なんとも恐れ多いことを仰ったのです。
これまでこの大国を守ってこられた方が、私のような小娘一人を守る。
それでいいんでしょうか。
『私が良いと言ってるのだ。神の言葉を否定するのか?』
だそうです。
そう言われては・・・私もあれこれ考えるのは疲れました。面倒になりました。まあいいか、となりました。
そんなわけで平民となった私と、ただの神となった元・国の守護神様との旅が始まるのです。
ちなみに神様の最初のお仕事は
[荷物が紙のように軽くなる魔法]
を私の荷物にかけてくださることでした。超便利でございます。ただとんでもない大荷物を軽々持つ女、というのは異様な光景になるでしょうから、最低限に減らしたのですけどね。それでも結構な大荷物、重たいはずのそれが紙のように軽くなったのはありがたいことです。ありがたやありがたや。
「リアラ!何をしておる!もう夜が明けるではないか!とっとと荷をまとめて出て行かんか!!」
叔父の煩い怒鳴り声がまた響きました。夜明けですよ叔父様、そんな大きな声を出してしまったらご家族の皆様が起きてしまうではありませんか。なんてそんな私の心配は叔父様には無意味なのでしょうね。
両親亡き後、この公爵家を好き勝手してくださった叔父様。
もう既に随分傾いてるような気がしてたのですが・・・大丈夫なのでしょうか?
それでも私がバイザー様と結婚していれば、多少なりとも援助もあったでしょうが、その道も消えてなくなりました。私が居なくなってせいせいするとお思いのようですが・・・まあせいぜい頑張ってくださいませ。
と内心で思いながら、私はよいしょっと小声で掛け声をかけて荷物を持つのでした。
軽い大荷物を持って部屋を出れば、廊下に叔父様が居ました。予想外な大荷物にギョッとなってらっしゃいます。・・・随分減らしたつもりなのですが、これでもまだ多かったでしょうか。
見かけによらず力持ち・・・なんて思われてるかもしれません。
「叔父様」
「な、なんだ!」
ポカンと口を開けて私の荷物を見つめてらした叔父様は、私の声にハッと我に返られました。
私は叔父様に深々と頭を下げました。
「これまでお世話になりました」
「まったくだ!面倒ばかりかけさせおって!醜いお前なんぞを養育させられた身にもなってみろ!しかも婚約破棄などと!何の役にも立たないお前なぞとっとと出て行け!」
もう叔父一家しか私の肉親はおりません。お別れの言葉としては悲しすぎますが、これもまた仕方ないのかもしれません。
もう怒りは湧き上がることもなく、悲しみに涙する事もありません。
私はもう一度無言で頭を下げて一歩、また一歩と歩き出しました。
大荷物にふらつくことなく、楽々と階段を降りて玄関へと向かう私は・・・ちょっと異様だったかもしれませんね。
道中売り払うべき小物と、両親の形見の品はしかと懐に入れました。荷物の中に入れるのは色々得策ではないと、安全では無いと考えたからです。いくら無知な小娘でもそれくらいの事は考えるんです。
「それでは行きましょうか」
傍から見ればただの独り言。けれど私としては側に佇むロルド老人に向けた言葉です。
私だけが見えるその姿、そのお顔に向けて言えば、ご老人は静かに頷かれます。
先ほどは驚いて言葉を失ってしまいましたが・・・本当にこの方が国の守護神なのでしょうか?
嘘か冗談だろうと笑い飛ばせれば良かったのですが、これまでの付き合いでそういうった事を口にされる方ではないのを私は知っております。
つまり本当のことなのでしょう。
そもそもロルド老人が宿っていた指輪は、長い年月代々王妃となる女性に受け継がれた指輪なのです。王族が持っているとなれば、それは確かにあり得る話なのでしょう。
ですが私は王妃候補から外れました。バイザー様から婚約破棄を告げられました。ならば次の王妃候補となるパーリー令嬢の元へ行くべきと考えたのですが・・・ロルド老人は、守護神様は首を横に振られました。
『私がこれまで守護してきた者は、紛れもなく王族として問題ない存在だった。なればこそ、私は守護し続けてきたのだ。そしてリアラ、私は其方こそが王妃の器を持っていると思っている。神たる我の直感だ、外れる事はない。つまりそのパーリー令嬢とやらは王妃の器ではない。そしてその女を選んだ次期王であるバイザーもまた、王の器ではないということだ』
随分強引な話のようにも感じますが、神様が仰ってるのですからそうなのでしょう。
そしてロルド老人は・・・
『最早この国に将来は無いと見た。私は今を持ってこの国を見限り、そなたを守護するだけの神となろう』
・・・なんとも恐れ多いことを仰ったのです。
これまでこの大国を守ってこられた方が、私のような小娘一人を守る。
それでいいんでしょうか。
『私が良いと言ってるのだ。神の言葉を否定するのか?』
だそうです。
そう言われては・・・私もあれこれ考えるのは疲れました。面倒になりました。まあいいか、となりました。
そんなわけで平民となった私と、ただの神となった元・国の守護神様との旅が始まるのです。
ちなみに神様の最初のお仕事は
[荷物が紙のように軽くなる魔法]
を私の荷物にかけてくださることでした。超便利でございます。ただとんでもない大荷物を軽々持つ女、というのは異様な光景になるでしょうから、最低限に減らしたのですけどね。それでも結構な大荷物、重たいはずのそれが紙のように軽くなったのはありがたいことです。ありがたやありがたや。
「リアラ!何をしておる!もう夜が明けるではないか!とっとと荷をまとめて出て行かんか!!」
叔父の煩い怒鳴り声がまた響きました。夜明けですよ叔父様、そんな大きな声を出してしまったらご家族の皆様が起きてしまうではありませんか。なんてそんな私の心配は叔父様には無意味なのでしょうね。
両親亡き後、この公爵家を好き勝手してくださった叔父様。
もう既に随分傾いてるような気がしてたのですが・・・大丈夫なのでしょうか?
それでも私がバイザー様と結婚していれば、多少なりとも援助もあったでしょうが、その道も消えてなくなりました。私が居なくなってせいせいするとお思いのようですが・・・まあせいぜい頑張ってくださいませ。
と内心で思いながら、私はよいしょっと小声で掛け声をかけて荷物を持つのでした。
軽い大荷物を持って部屋を出れば、廊下に叔父様が居ました。予想外な大荷物にギョッとなってらっしゃいます。・・・随分減らしたつもりなのですが、これでもまだ多かったでしょうか。
見かけによらず力持ち・・・なんて思われてるかもしれません。
「叔父様」
「な、なんだ!」
ポカンと口を開けて私の荷物を見つめてらした叔父様は、私の声にハッと我に返られました。
私は叔父様に深々と頭を下げました。
「これまでお世話になりました」
「まったくだ!面倒ばかりかけさせおって!醜いお前なんぞを養育させられた身にもなってみろ!しかも婚約破棄などと!何の役にも立たないお前なぞとっとと出て行け!」
もう叔父一家しか私の肉親はおりません。お別れの言葉としては悲しすぎますが、これもまた仕方ないのかもしれません。
もう怒りは湧き上がることもなく、悲しみに涙する事もありません。
私はもう一度無言で頭を下げて一歩、また一歩と歩き出しました。
大荷物にふらつくことなく、楽々と階段を降りて玄関へと向かう私は・・・ちょっと異様だったかもしれませんね。
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