3 / 8
預かった大切な物
しおりを挟む
扉を開けるとそこには見知った顔がありました。ただそれは、学友ではなかったのです。
「え・・・」
「こんばんは、リアラ様」
ニコリと微笑むのは・・・つい先ほどまでパーティ会場で一緒だったパーリー令嬢ではありませんか。
「ど、どうして・・・」
驚く私に彼女は笑みを口に浮かべたまま近づいてきました。
「少しリアラ様にお願いしたいことがありまして・・・っと、もう公爵令嬢ではなくなるのですよね。平民ならば敬称はいらないか・・・リアラさんにお願いしたいの」
「・・・!!」
まさかそんな扱いを受けるとは思ってませんでした。さすがに言葉を失います。
驚きで何も言えなくなった私をフフンと鼻で笑い、肩にかかった金髪をパサリと払いのけるパーリー令嬢。そんな仕草も美しい。
「あのね、バイザー様が貴女に預けた物があるでしょ?それを返して頂戴。本当はバイザー様自身が取り返しに来ようとされてたんだけど、なんか色々対応があって慌ただしくお城に戻っちゃったのよ。仕方ないから私が取りに来たの。だって貴女、すぐに出て行くんでしょ?持って行って売っぱらわれてもかなわないからね」
「バイザー様から預かった物、ですか?」
バイザー様から頂いたプレゼントは何点かある。だがそれらのどれを指してるのかが分からない。貰った物全て、ということでしょうか。そうなると少しお時間をいただかないと・・・。
そもそも貰った物を持っていくつもりはありませんでした。だってあれらは全てバイザー様との思い出ですから。そんな物を持ち歩いても苦しくなるだけ。かといって売り払うなんて事も考えられない。
屋敷に置いておいて、どうするかは叔父に任せようと思っていたのですが・・・まさか返せとは。
どうしたものかと思案してましたら、パーリー令嬢がスッと手を差し出されてきました。
「別に全部返せとかじゃないわよ。あげたものを返せと言う程卑しい方じゃないから。そうじゃなくて、預けた物よ」
「はあ・・・?」
それがよく分からないのです。私に預けた物?くださった物ではなく?どういうことでしょう?
「代々王太子妃、ひいては王妃に受け継がれる指輪よ」
「あ・・・」
その言葉で思い出しました。そうでした、学園に入る直前の頃、確かに指輪をいただきました。
代々受け継がれる指輪を・・・卒業と同時に結婚するからと前もって私にくださったのでした。
そうですね、代々受け継がれるのですから、頂いたというより預かったという方が正しいのかもしれません。
「それでしたら直ぐに持ってまいります」
大切な物だと思ったから、盗まれないよう厳重に保管していました。それだけなら直ぐに出せるので私は急ぎ部屋に戻り、手に持ってパーリー令嬢の元へと戻りました。
「これがそうです」
「これがあ?ケースは立派なのに・・・ずいぶんと陳腐な代物ねえ・・・」
パーリー令嬢が怪しむのも仕方ないのかもしれません。確かにその指輪は小さなダイヤがあしらわれただけの地味なデザインでしたから。
ですが、その指輪からは確かに何か他とは違う荘厳さを感じた物です。代々受け継がれたという長い歴史を持っているからでしょうか。
今目の前でパーリー令嬢が中身を確認するために指輪を出しましたが、そう言えばなんだかその荘厳さが感じられないような・・・?
どうしてかしら?と内心首を傾げつつも、渡すものは渡したのです。これ以上パーリー令嬢と話したいとも思えない私は、無言で彼女の顔を見つめました。その意味するところを彼女も感じ取ったようです。
「何よ早く帰れって?言われなくても帰るわよ。ふふ、今から荷造りかしら?大変ねえ。まあ平民生活も過ごしてみると楽しいかもよ?」
「・・・」
何も言えない私を見下すような目で見てくるパーリー令嬢。帰ろうとする彼女だったが、一度こちらを振り返る。
「ごめんねえ、バイザー様取っちゃって?」
「・・・どうしてあんな嘘を・・・」
「ふふ、男って馬鹿よねえ。ちょっと色事を教えて迫ればイチコロ、涙を浮かべて訴えれば単純に信じる。おかげさまで私は王太子妃の座を手に入れることが出来たわ」
「ひどい・・・」
「しょせん男なんて顔で女を選ぶのよ。あんたを醜く生んだ無力な親を恨むんだね。あー良かった、私は美人に生まれることができて」
「なんてことを!」
私の容姿を馬鹿にするのは構わない。慣れたくないけど慣れてしまいましたから。
けれど私の両親を馬鹿にするような言葉は絶対に許せない。睨む私の目線など気にならないとでも言うようにクスリと笑ってパーリー令嬢は去りました。
ギュッと拳を握り唇を噛みしめて・・・私は無言で部屋へと戻りました。
涙は流しません。こんな感情で流すなんて涙が勿体ない。
私はこれまで感じたことのない怒りに震えながら、荷造りを始めるのでした。
叔父の命令なのか、誰も手伝う者はおりません。
一人で悪戦苦闘していると、不意に気配を感じて私は振り返りました。
『大丈夫か?』
心配げな響きを宿した声が、耳ではなく頭に響いて聞こえたのは直後のこと。
「え・・・」
「こんばんは、リアラ様」
ニコリと微笑むのは・・・つい先ほどまでパーティ会場で一緒だったパーリー令嬢ではありませんか。
「ど、どうして・・・」
驚く私に彼女は笑みを口に浮かべたまま近づいてきました。
「少しリアラ様にお願いしたいことがありまして・・・っと、もう公爵令嬢ではなくなるのですよね。平民ならば敬称はいらないか・・・リアラさんにお願いしたいの」
「・・・!!」
まさかそんな扱いを受けるとは思ってませんでした。さすがに言葉を失います。
驚きで何も言えなくなった私をフフンと鼻で笑い、肩にかかった金髪をパサリと払いのけるパーリー令嬢。そんな仕草も美しい。
「あのね、バイザー様が貴女に預けた物があるでしょ?それを返して頂戴。本当はバイザー様自身が取り返しに来ようとされてたんだけど、なんか色々対応があって慌ただしくお城に戻っちゃったのよ。仕方ないから私が取りに来たの。だって貴女、すぐに出て行くんでしょ?持って行って売っぱらわれてもかなわないからね」
「バイザー様から預かった物、ですか?」
バイザー様から頂いたプレゼントは何点かある。だがそれらのどれを指してるのかが分からない。貰った物全て、ということでしょうか。そうなると少しお時間をいただかないと・・・。
そもそも貰った物を持っていくつもりはありませんでした。だってあれらは全てバイザー様との思い出ですから。そんな物を持ち歩いても苦しくなるだけ。かといって売り払うなんて事も考えられない。
屋敷に置いておいて、どうするかは叔父に任せようと思っていたのですが・・・まさか返せとは。
どうしたものかと思案してましたら、パーリー令嬢がスッと手を差し出されてきました。
「別に全部返せとかじゃないわよ。あげたものを返せと言う程卑しい方じゃないから。そうじゃなくて、預けた物よ」
「はあ・・・?」
それがよく分からないのです。私に預けた物?くださった物ではなく?どういうことでしょう?
「代々王太子妃、ひいては王妃に受け継がれる指輪よ」
「あ・・・」
その言葉で思い出しました。そうでした、学園に入る直前の頃、確かに指輪をいただきました。
代々受け継がれる指輪を・・・卒業と同時に結婚するからと前もって私にくださったのでした。
そうですね、代々受け継がれるのですから、頂いたというより預かったという方が正しいのかもしれません。
「それでしたら直ぐに持ってまいります」
大切な物だと思ったから、盗まれないよう厳重に保管していました。それだけなら直ぐに出せるので私は急ぎ部屋に戻り、手に持ってパーリー令嬢の元へと戻りました。
「これがそうです」
「これがあ?ケースは立派なのに・・・ずいぶんと陳腐な代物ねえ・・・」
パーリー令嬢が怪しむのも仕方ないのかもしれません。確かにその指輪は小さなダイヤがあしらわれただけの地味なデザインでしたから。
ですが、その指輪からは確かに何か他とは違う荘厳さを感じた物です。代々受け継がれたという長い歴史を持っているからでしょうか。
今目の前でパーリー令嬢が中身を確認するために指輪を出しましたが、そう言えばなんだかその荘厳さが感じられないような・・・?
どうしてかしら?と内心首を傾げつつも、渡すものは渡したのです。これ以上パーリー令嬢と話したいとも思えない私は、無言で彼女の顔を見つめました。その意味するところを彼女も感じ取ったようです。
「何よ早く帰れって?言われなくても帰るわよ。ふふ、今から荷造りかしら?大変ねえ。まあ平民生活も過ごしてみると楽しいかもよ?」
「・・・」
何も言えない私を見下すような目で見てくるパーリー令嬢。帰ろうとする彼女だったが、一度こちらを振り返る。
「ごめんねえ、バイザー様取っちゃって?」
「・・・どうしてあんな嘘を・・・」
「ふふ、男って馬鹿よねえ。ちょっと色事を教えて迫ればイチコロ、涙を浮かべて訴えれば単純に信じる。おかげさまで私は王太子妃の座を手に入れることが出来たわ」
「ひどい・・・」
「しょせん男なんて顔で女を選ぶのよ。あんたを醜く生んだ無力な親を恨むんだね。あー良かった、私は美人に生まれることができて」
「なんてことを!」
私の容姿を馬鹿にするのは構わない。慣れたくないけど慣れてしまいましたから。
けれど私の両親を馬鹿にするような言葉は絶対に許せない。睨む私の目線など気にならないとでも言うようにクスリと笑ってパーリー令嬢は去りました。
ギュッと拳を握り唇を噛みしめて・・・私は無言で部屋へと戻りました。
涙は流しません。こんな感情で流すなんて涙が勿体ない。
私はこれまで感じたことのない怒りに震えながら、荷造りを始めるのでした。
叔父の命令なのか、誰も手伝う者はおりません。
一人で悪戦苦闘していると、不意に気配を感じて私は振り返りました。
『大丈夫か?』
心配げな響きを宿した声が、耳ではなく頭に響いて聞こえたのは直後のこと。
1
お気に入りに追加
258
あなたにおすすめの小説
聖女は不幸な幼女を保護しましたが、酷薄な王太子に反対されたので、激怒して婚約を解消しました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも同時投稿しています。騎士家出身の聖女エリアナは、教会の前に捨てられていた顔の潰された幼女を助ける。彼女はその幼女をサラとなずけとてもかわいがり、養女にしようとした。だがエリアナはこの国の王太子ダニエルの婚約者だったので、酷薄なダニエルや貴族達から猛反対されてしまった。
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
お約束の異世界転生。計画通りに婚約破棄されたので去ります──って、なぜ付いてくる!?
リオール
恋愛
ご都合主義設定。細かい事を気にしない方向けのお話です。
5話完結。
念押ししときますが、細かい事は気にしないで下さい。
悪役令嬢に仕立てあげられて婚約破棄の上に処刑までされて破滅しましたが、時間を巻き戻してやり直し、逆転します。
しろいるか
恋愛
王子との許婚で、幸せを約束されていたセシル。だが、没落した貴族の娘で、侍女として引き取ったシェリーの魔の手により悪役令嬢にさせられ、婚約破棄された上に処刑までされてしまう。悲しみと悔しさの中、セシルは自分自身の行いによって救ってきた魂の結晶、天使によって助け出され、時間を巻き戻してもらう。
次々に襲い掛かるシェリーの策略を切り抜け、セシルは自分の幸せを掴んでいく。そして憎しみに囚われたシェリーは……。
破滅させられた不幸な少女のやり直し短編ストーリー。人を呪わば穴二つ。
婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!
杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。
しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。
対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年?
でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか?
え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!!
恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。
本編11話+番外編。
※「小説家になろう」でも掲載しています。
婚約破棄されたので30キロ痩せたら求婚が殺到。でも、選ぶのは私。
百谷シカ
恋愛
「私より大きな女を妻と呼べるか! 鏡を見ろ、デブ!!」
私は伯爵令嬢オーロラ・カッセルズ。
大柄で太っているせいで、たった今、公爵に婚約を破棄された。
将軍である父の名誉を挽回し、私も誇りを取り戻さなくては。
1年間ダイエットに取り組み、運動と食事管理で30キロ痩せた。
すると痩せた私は絶世の美女だったらしい。
「お美しいオーロラ嬢、ぜひ私とダンスを!」
ただ体形が変わっただけで、こんなにも扱いが変わるなんて。
1年間努力して得たのは、軟弱な男たちの鼻息と血走った視線?
「……私は着せ替え人形じゃないわ」
でも、ひとりだけ変わらない人がいた。
毎年、冬になると砂漠の別荘地で顔を合わせた幼馴染の伯爵令息。
「あれっ、オーロラ!? なんか痩せた? ちゃんと肉食ってる?」
ダニエル・グランヴィルは、変わらず友人として接してくれた。
だから好きになってしまった……友人のはずなのに。
======================
(他「エブリスタ」様に投稿)
妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても
亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。
両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。
ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。
代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。
そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。
家に代々伝わる髪色を受け継いでいないからとずっと虐げられてきていたのですが……。
四季
恋愛
メリア・オフトレスは三姉妹の真ん中。
しかしオフトレス家に代々伝わる緑髪を受け継がず生まれたために母や姉妹らから虐げられていた。
だがある時、トレットという青年が現れて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる