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預かった大切な物

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扉を開けるとそこには見知った顔がありました。ただそれは、学友ではなかったのです。

「え・・・」
「こんばんは、リアラ様」

ニコリと微笑むのは・・・つい先ほどまでパーティ会場で一緒だったパーリー令嬢ではありませんか。

「ど、どうして・・・」

驚く私に彼女は笑みを口に浮かべたまま近づいてきました。

「少しリアラ様にお願いしたいことがありまして・・・っと、もう公爵令嬢ではなくなるのですよね。平民ならば敬称はいらないか・・・リアラさんにお願いしたいの」
「・・・!!」

まさかそんな扱いを受けるとは思ってませんでした。さすがに言葉を失います。
驚きで何も言えなくなった私をフフンと鼻で笑い、肩にかかった金髪をパサリと払いのけるパーリー令嬢。そんな仕草も美しい。

「あのね、バイザー様が貴女に預けた物があるでしょ?それを返して頂戴。本当はバイザー様自身が取り返しに来ようとされてたんだけど、なんか色々対応があって慌ただしくお城に戻っちゃったのよ。仕方ないから私が取りに来たの。だって貴女、すぐに出て行くんでしょ?持って行って売っぱらわれてもかなわないからね」
「バイザー様から預かった物、ですか?」

バイザー様から頂いたプレゼントは何点かある。だがそれらのどれを指してるのかが分からない。貰った物全て、ということでしょうか。そうなると少しお時間をいただかないと・・・。

そもそも貰った物を持っていくつもりはありませんでした。だってあれらは全てバイザー様との思い出ですから。そんな物を持ち歩いても苦しくなるだけ。かといって売り払うなんて事も考えられない。

屋敷に置いておいて、どうするかは叔父に任せようと思っていたのですが・・・まさか返せとは。

どうしたものかと思案してましたら、パーリー令嬢がスッと手を差し出されてきました。

「別に全部返せとかじゃないわよ。あげたものを返せと言う程卑しい方じゃないから。そうじゃなくて、預けた物よ」
「はあ・・・?」

それがよく分からないのです。私に預けた物?くださった物ではなく?どういうことでしょう?

「代々王太子妃、ひいては王妃に受け継がれる指輪よ」
「あ・・・」

その言葉で思い出しました。そうでした、学園に入る直前の頃、確かに指輪をいただきました。
代々受け継がれる指輪を・・・卒業と同時に結婚するからと前もって私にくださったのでした。

そうですね、代々受け継がれるのですから、頂いたというより預かったという方が正しいのかもしれません。

「それでしたら直ぐに持ってまいります」

大切な物だと思ったから、盗まれないよう厳重に保管していました。それだけなら直ぐに出せるので私は急ぎ部屋に戻り、手に持ってパーリー令嬢の元へと戻りました。

「これがそうです」
「これがあ?ケースは立派なのに・・・ずいぶんと陳腐な代物ねえ・・・」

パーリー令嬢が怪しむのも仕方ないのかもしれません。確かにその指輪は小さなダイヤがあしらわれただけの地味なデザインでしたから。
ですが、その指輪からは確かに何か他とは違う荘厳さを感じた物です。代々受け継がれたという長い歴史を持っているからでしょうか。

今目の前でパーリー令嬢が中身を確認するために指輪を出しましたが、そう言えばなんだかその荘厳さが感じられないような・・・?

どうしてかしら?と内心首を傾げつつも、渡すものは渡したのです。これ以上パーリー令嬢と話したいとも思えない私は、無言で彼女の顔を見つめました。その意味するところを彼女も感じ取ったようです。

「何よ早く帰れって?言われなくても帰るわよ。ふふ、今から荷造りかしら?大変ねえ。まあ平民生活も過ごしてみると楽しいかもよ?」
「・・・」

何も言えない私を見下すような目で見てくるパーリー令嬢。帰ろうとする彼女だったが、一度こちらを振り返る。

「ごめんねえ、バイザー様取っちゃって?」
「・・・どうしてあんな嘘を・・・」
「ふふ、男って馬鹿よねえ。ちょっと色事を教えて迫ればイチコロ、涙を浮かべて訴えれば単純に信じる。おかげさまで私は王太子妃の座を手に入れることが出来たわ」
「ひどい・・・」
「しょせん男なんて顔で女を選ぶのよ。あんたを醜く生んだ無力な親を恨むんだね。あー良かった、私は美人に生まれることができて」
「なんてことを!」

私の容姿を馬鹿にするのは構わない。慣れたくないけど慣れてしまいましたから。
けれど私の両親を馬鹿にするような言葉は絶対に許せない。睨む私の目線など気にならないとでも言うようにクスリと笑ってパーリー令嬢は去りました。

ギュッと拳を握り唇を噛みしめて・・・私は無言で部屋へと戻りました。

涙は流しません。こんな感情で流すなんて涙が勿体ない。
私はこれまで感じたことのない怒りに震えながら、荷造りを始めるのでした。

叔父の命令なのか、誰も手伝う者はおりません。
一人で悪戦苦闘していると、不意に気配を感じて私は振り返りました。

『大丈夫か?』

心配げな響きを宿した声が、耳ではなく頭に響いて聞こえたのは直後のこと。
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