9 / 24
08.過保護王子
しおりを挟む08.過保護王子
「この者は私と行動している。貴様とは行かぬ」
「誰だお前」
「何故、貴様に名乗らなければならない」
え? 第三殿下って、貴様なんて言葉を使うの?!
どうしてかアバンに敵対心バリバリのシシェルは見たこともないような険しい表情でアバンとガンの付け合いをしている。その道のプロみたいな貫禄があるのはどうしてだろうか。
アバンとてAランクの冒険者なので負けてはいない。
二人とも同じくらいの身長で、立派な体格をしているので喧嘩が勃発しても誰も止められない。
魔法で収束に向かえれば早いんだろうケド、こんな街角でしかもギャラリーが増えだしている所で魔法なんて使えない。生活魔法以外の用途の魔法はとても目立つ。だから、ここでの僕の最善はそっと遠ざかることだ。
魔法で透明化の魔法をそそっと使い、場を離れ、急いでギルドに駆ける。
ギルドに行き、Cランクでも上位に行く討伐依頼を選びギルドカードを受付で出した所にもう一つのカードが差し出された。
僕の番なのに、なんて無頼な輩だとカードを見て驚いた。
ギルドカードはランクごとに色が違い、地方ごとに発行されるカードのデザインが違う。ノアトルのギルドカードはオシャレで人気もあるが、魔獣が強いのでランクを上げるのも難しい。
そしてそのカードはこのノアトルのもので、色は真っ黒だ。僕がCランクの青色で、Bランクが銀色、Aランクが金、滅多にお目にかかれない黒がSランクだ。
ぎょっとして、差し出された腕を辿り、視線を上に上げると見知った美麗な顔があった。
「で、でん、か…」
「私とお前ならBランクの受付が可能らしいのだが、その依頼でいいのか? なんならもう一つか二つ受けても大丈夫だが」
喧嘩は終わったのか、不発だったのか、シシェルには怪我一つないようだ。
唖然としている僕を他所にシシェルは受付嬢に他にも適度な依頼はないかと尋ねている。いつも卒のない態度の受付嬢の頬が真っ赤に染まり、アピールチャンスだとばかりにシシェルに幾つかの討伐依頼書を手渡した。
「全て裏山で終わらせるものだな。行こうか」
シシェルが言う“裏山”は上級者ダンジョンのことだ。
魔獣が蔓延る山の中心部に聳え立つダンジョンで、ここでのドロップ品は最高級品質のものが多いが、Bランク以上の人間しか入れないので僕は初めてだ。
シシェルがギルドカードを持っているなんて前世では知らなかったし、まさかSランクだなんておもってもいなかった。。
前世の第三殿下は僕の知っている間、勉学と公務と僕とのあれこれでとても急がしそうでとてもダンジョンに入れる暇なんてなかった。
やっぱりこの世界の第三殿下はちょっと違うのかな。
シシェルに逃げられないよう手を掴まれ、ぐいぐい強制的に裏山に連れてこられた。
ここでの討伐する魔獣は大型の物が十体、中型が二十体。道中に出てくる魔獣は依頼対象ではないが進むためにやむを得ず倒していく。
魔法で僕が援助して、シシェルが切りつける。数が多い場合は僕も魔法で参戦して、珍しい薬草や鉱物などを採取して鞄に仕舞う。
さすがSランク。あっという間に依頼の半分を終え、ダンジョンも中下層まで下りてきた。
いい時間なので、ここでちょっと休憩しようと提案して、僕は辺りに魔獣避けの魔法をかけて簡易の結界を張った。
「見事なものだな」
途端に魔獣がやってこなくなり、感心したようにシシェルが呟く。
朽ちて倒れた木を腰掛けにしてシシェルの分を開けて座り、鞄を開く。
この鞄の便利な所は、次元の精霊の加護を貰って入れたものの時間を停止させている小技がついていることだ。
ここら辺も異世界モノ知識があってこそだと思う。
鞄から日本人には馴染みの白い三角の物体を取り出す。
「?」
僕の隣に腰掛けたシシェルはそれを見て不思議そうにしている。
「これは、米を炊いて三角にした食べ物なんですが…」
この国では米は煮込んで食べるもので、こうやって単品で炊いて食べるという風習はない。
こうやって討伐の最中に簡単に食べれるので食堂のキッチンを借りてちまちま作って保存しているのだけど、鞄から出したし僕が作ったものだし、毒見は居ないし、これを第三殿下に渡してもいいものか逡巡する。
宿屋ではきっと部屋に運んでくるまでにそれが安全であるか確かめているだろう。
「その、僕が作ったもので…僕が毒見なんておかしいし、あなたが食べても大丈夫なものあったかな…」
笹の葉みたいな葉に包んでいたそれを取り出したはいいものの、シシェルに渡せないのでそれを一旦仕舞いなにかないかと鞄を漁ろうとして、オニギリを持っていた手を掴まれた。
「え?」
ガシリと掴まれた手を引かれた。
そしてパクリと食べられたオニギリと、それを食べたシシェルを見て血の気が引いた。
「これは美味なものだな」
モクモクと食べて、二口、三口で僕の手のオニギリを食べきってしまった。吃驚する僕の指をペロリと舐めて、「まだないのか?」と催促された。
その場で絶叫しなかった僕を誰か褒めてほしい。
オニギリを五つ食べて、中の具が違うことに気付いたシシェルは明日もオニギリが食べたいと所望してきた。
オニギリを食べるだけならいいのに、鞄から出したオニギリをそのまま僕の腕を掴んで食べるのは生きた心地がしなかった。食べ終わって僕の指を舐めるのも背筋がゾワリとして頂けない。
ほぼ半泣きで顔を真っ赤にする僕とは対照的にシシェルは至極ご満悦だった。
「これはお前の世界の食べ物なのか?」
「………」
シシェルがあちらの世界の事を色々聞いてくるが無視してそっぽを向いていたら、耳元に息を吹きかけられてゾワッと総毛立った。
「!!」
「お前の肌が紅く染まって、熟れた果実のように甘そうだ」
低い甘い美声に耳が犯されたような感覚に陥った。
そして、チュッと音がして温かなものが頬に当てられた。
バッとシシェルから離れ、頬を両手で隠しシシェルを見る。
「無視をされるとどうしても此方を向かせたくなるのが男というものだろう?」
壮絶な色気を持った美青年が此方を見て微笑みを湛えている。その視線一つで女なんてイチコロだろう、とんでもない色香だ。
「さぁ、私の食事は終わった。次はお前の番だな」
シシェルは持っていた鞄から簡易の食料を取り出した。
コイツ、食料持ってた! なんて奴だ!
182
お気に入りに追加
4,949
あなたにおすすめの小説
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる