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明日、旅立つ

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「恋と言うものは熱病とも申します。恋に浮かされ、目の前がなにも見えなくなる…なんておろかで、愛おしい乙女なのでしょう」

「男だって同じだよ」

「そうでございますね。しかし、女性というものは男性とは違う熱量を持っておりますわ。恋に狂いやすい。そして、黒い霧に呑まれやすいのです」

「ああいう感じ?」

「ええ、ああいった感じですわ」


 オレと金ねーちゃんの目の前でクロウは女性陣に囲まれ動きを完全に封じられてしまった。


「本来なら、クロウはコガネ様の護衛。傍を離れることを許されませんわ。しかし、この度の“噂”が彼女達の原動力となっております」

「うわさ?」

「それはコガネ様が浄化の旅を終えられて、こちらに戻ってらしたらお話をいたしますわね」


 今日はオレが浄化の旅にでる前日のお披露目というパーティーがお城で開かれた。
 あちらこちらから貴族がわんさかやってきて、王様の座る場所の近くに座っているオレに挨拶をしてくる。
 クロウはオレの後ろに控えてたんだけど、どこぞの貴族の令嬢さんたちに声をかけられあれよあれよという間に連れ去られた。ああいうのって連携プレーっていうのかな。オレの隣に座っていた金ねーちゃんがオシャレな扇子で口を隠しながら恋というものを語ってくれた。


「この世界は善の力を魔力として使いますが、恋もまた魔力の原動として使えますの。しかしこれは一歩間違えれば破滅の力。黒い霧に覆われてしまう場合もありますわ」

「あのピンクの女の子みたいに?」

「ええ。わたくしたちは恋をして自身を研磨し、輝くことを善といたします。しかし、魔力と魅力を混合してしまう者も少なからずおりますわ」


 あのピンクっ子は黒い霧で人を振り向かせて、それが自分の魅力だって勘違いしちゃった結果なんだろう。
 ちらりと女の子たちに囲まれたクロウを見る。
 ニコニコと愛想よく笑って話を聞いているようだ。
 あの女の子たちはクロウのことが好きなのかな。


「ねーちゃんは、王子さまに恋してたの?」

「わたくしは…そうですね…。恋というよりは、わたくしの居場所としてそこに拘っていただけの矮小な女でしたわ。でも、殿下に婚約破棄を言い渡されたとき、とても胸が痛みましたの」

「今は大丈夫? ねーちゃん、元気?」

「ええ。コガネ様がいらしてから、わたくし毎日がとっても楽しいくてたまらないの! きっとクロウも一緒だと思いますわ。お父様も。コガネ様とお会いした方達はみんなそう思ってらっしゃるわ」


 金ねーちゃんがニッコリと笑う。


「魅力的って、ねーちゃんみたいなことを言うんだろうな。すごいきらきらしてる」


 生き生きしている瞳ってきれいだよね。


「ふふっ私の娘を褒めていただけるなんて、光栄です。コガネ様はとても良い子ですね」


 宰相さんがいつの間にか傍にいて、感極まって抱きついてきた金ねーちゃんごとオレを抱きしめた。
 それを見たクロウがいち早く反応して、二人を押しのけてオレを抱き上げて二人から離れた。


「クロウばかりずるいですわ!」

「ずるくないです。オレはコガネ様に全てを捧げているので姉上だろうが、父上だろうが譲れません」

「おもしろいやり取りをしておるのぉ!」


 親子と姉弟のやりとりに王様の笑いのツボにはいったようで大笑いしている。
 明日から浄化の旅に出るって言うのにあまり深刻そうではない様子にホッとする。


 お披露目用にオレの服が用意された。
 これはゲームでいうところの白魔導師だろうか。白いローブには金色の繊細な刺繍がされている。中はどうやって着るのか困ったボタンの多い正装。見えないのに力を込めて作られたであろうオーダーメイドのその服は着心地がとても良かった。
 クロウはいつものラフな格好じゃなくて、最初に会ったときみたいな鎧をつけている。
 明日、オレはこの王都を旅立つ。って言っても、そこまで大掛かりな旅じゃないからすぐ帰ってくるんだけどね。
 




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