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第2話 緊急記者会見
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ちなみに、この惑星に住む全員が同時接続数を行っても落ちない回線を生み出したのも、何を隠そう、本日の主役である中瀬大吉だった。
画面中央の中瀬は、机の上に置かれたペットボトルの水を一口口に含むと、報道陣に対して笑顔を向けた。
その笑顔に、再びおびただしい数のフラッシュが中瀬を包んでいく。
ここでようやく、中瀬は口を開いた。
「えー、本日は直前の告知にも関わらず、お集まりいただきありがとうございます――え、同時接続三十億越えですか……、回線を強くしておいて良かったですね」
会場からは笑いが起こる。
成人もつられるように笑みをこぼした。
「報道各社の皆さまには事前告知をさせていただいたように、本日は私、中瀬大吉からの重大発表がございます。早速ですが、その内容について、お話しいたします」
モニター越しであっても、会場の緊張感が伝わってくる。
あれ程焚かれていたフラッシュも、一時的ではあるが影を潜めていた。
「本日の内容ですが――」
成人はごくりと唾を飲みこんだ。
「住民の『惑星間の引っ越し計画』を始動したいと思います」
中瀬の発言の直後、会場は絵に描いたように困惑へと陥っていった。
会場にいるカメラマンも唖然としているのだろう。
未だにシャッターの一つ、切られることはなかった。
そんな会場の反応を楽しむかの如く、中瀬は口元を緩ませながら右へ左へと、視線を動かしている。
「はっはっは。良い反応ですね。そりゃそうだ」
中瀬は二度、三度と机を軽く叩いた。
「それでは詳細をお伝えしますね。まずこの『惑星間の引っ越し計画』の『惑星』とは、この世のどこにも存在しない、私が創った新しい『惑星』のことを指しています」
一般人の宇宙旅行が当たり前となった現代においても、その地で人が生活を行うことは困難を極めている。
理由はとてもシンプルで、そもそもの惑星の造りがこの惑星とは分子レベルで大きく異なるからだった。
当然、他の惑星の実態調査は今も行われているわけだが、中瀬の発想は一味違った。
「私が生きている間に他惑星の実態調査を完了させ、人類が生活を行えるようにすることは現実的に考えて非常に難しい。それならいっそのこと、今いる惑星と似た惑星を創る方が簡単だと思った次第です」
彼はメディアの前で堂々と話した。
ここでようやく、思い出したかのように中瀬に対してのシャッターが切られ始める。
「といっても、今いる惑星と同じ惑星なら創る必要性を感じないですね……。よし、ではこの惑星の改良版を創るとしましょう」
惑星が創れることは前提とでも言わんばかりに、中瀬は淡々と言った。
「んー、それでも私の意見だけでは面白みに欠けるか……。そうだ、皆さんから募集することにします」
中瀬は「良いこと考えた」と言いたげな表情で、目を輝かせながら人差し指を立てる。
「今から三ヶ月、皆さんが求める新しい惑星の理想、特徴を教えて下さい。どんなことでも構いませんよ。別に個人的な理想であっても大丈夫です。そうですね、例えば――『毎日晴れにしてほしい』とか? あ、それ面白そうですね。うん、本当に何でも受け付けることにします。きっとその方が、私の思いつかないような発想が出て来るような気もしますしね」
中瀬の表情の裏には絶対的な自信があるのだろうが、中瀬はまるで子どものように、思いついたことをただ口にしているかのようだった。
「何か質問はありますか? うわ、ネットはコメントがいっぱいで僕の顔が見えませんね」
モニター越しの会見は、文字の隙間からしか中瀬の表情が見えない程に、コメントに溢れていた。
こんな状況すら、中瀬は楽しんでいるのだろうか――?
そう思いながら、成人はコメントを非表示へと変更した。
画面のコメントが消えたタイミングで、一人の記者が手を挙げる。
「惑星新聞の田中です。本当に……、本当になんでも良いのですか?」
「はい、構いません。理想は高く、面白く。一人何個でも構いませんよ。あ、でも全部の理想は詰め込めませんし、応募数によっては全てに目を通せないことだけご容赦ください」
一人の記者からの質問で別の記者たちも目を覚まし、様々な質問が飛び交っていく。
「青空新聞と申します。中瀬先生は本当に――新たな惑星を創造出来ると……お考えなのでしょうか」
記者からの質問に対し、またしても中瀬は笑顔を浮かべている。
しかし、その笑顔は今までと違い、何か別の感情が見え隠れしていた。
「もちろん。そこに関しては問題ないでしょうね。ただ、それがどれくらいの期間を要するのか――そこは、皆さんの理想によっても変わってくると思います。ですので、まずは皆さんからのご意見を頂戴し、改めて会見をさせていただきたいです」
その後も中瀬は一つ一つの質問に対し、笑みを絶やすことなく答えていった。
こうして、見るもの全てを吃驚させた中瀬大吉の緊急記者会見は、歪な余韻とともに幕を閉じたのだった――。
驚くべき記者会見からの三ヶ月間、どのメディアもこぞって「理想の惑星」をテーマに特集を組んだ。
当然のことながら、人々の欲望の中身は多岐に渡った。
「税金を無くして欲しい」といった経済的なものから、「惑星言語の統一」「医療体制の強化」など人々の生活に有機的に繋がるもの、「温暖化だけは勘弁」「空飛ぶ車があるといいです」「一国程度の広さがあるゴルフ場完備」といったものまであった。
報道番組では、「中瀬をよく知る知人」や、「惑星状況に詳しい専門家」なる人たちが、連日のように討論を繰り広げている。
成人はそのどれもがもっともらしく、その全てが偽りを伝えるようにも思えた。
中瀬大吉は予想の上を行く。
その考えが、この三ヶ月を人生の中で最も長い三ヶ月へと変貌させていった。
そして、「理想の惑星」発言から二ヶ月半、意見聴取も残すところ半月のタイミングで、中瀬の会見が再び開かれることが決まった――。
画面中央の中瀬は、机の上に置かれたペットボトルの水を一口口に含むと、報道陣に対して笑顔を向けた。
その笑顔に、再びおびただしい数のフラッシュが中瀬を包んでいく。
ここでようやく、中瀬は口を開いた。
「えー、本日は直前の告知にも関わらず、お集まりいただきありがとうございます――え、同時接続三十億越えですか……、回線を強くしておいて良かったですね」
会場からは笑いが起こる。
成人もつられるように笑みをこぼした。
「報道各社の皆さまには事前告知をさせていただいたように、本日は私、中瀬大吉からの重大発表がございます。早速ですが、その内容について、お話しいたします」
モニター越しであっても、会場の緊張感が伝わってくる。
あれ程焚かれていたフラッシュも、一時的ではあるが影を潜めていた。
「本日の内容ですが――」
成人はごくりと唾を飲みこんだ。
「住民の『惑星間の引っ越し計画』を始動したいと思います」
中瀬の発言の直後、会場は絵に描いたように困惑へと陥っていった。
会場にいるカメラマンも唖然としているのだろう。
未だにシャッターの一つ、切られることはなかった。
そんな会場の反応を楽しむかの如く、中瀬は口元を緩ませながら右へ左へと、視線を動かしている。
「はっはっは。良い反応ですね。そりゃそうだ」
中瀬は二度、三度と机を軽く叩いた。
「それでは詳細をお伝えしますね。まずこの『惑星間の引っ越し計画』の『惑星』とは、この世のどこにも存在しない、私が創った新しい『惑星』のことを指しています」
一般人の宇宙旅行が当たり前となった現代においても、その地で人が生活を行うことは困難を極めている。
理由はとてもシンプルで、そもそもの惑星の造りがこの惑星とは分子レベルで大きく異なるからだった。
当然、他の惑星の実態調査は今も行われているわけだが、中瀬の発想は一味違った。
「私が生きている間に他惑星の実態調査を完了させ、人類が生活を行えるようにすることは現実的に考えて非常に難しい。それならいっそのこと、今いる惑星と似た惑星を創る方が簡単だと思った次第です」
彼はメディアの前で堂々と話した。
ここでようやく、思い出したかのように中瀬に対してのシャッターが切られ始める。
「といっても、今いる惑星と同じ惑星なら創る必要性を感じないですね……。よし、ではこの惑星の改良版を創るとしましょう」
惑星が創れることは前提とでも言わんばかりに、中瀬は淡々と言った。
「んー、それでも私の意見だけでは面白みに欠けるか……。そうだ、皆さんから募集することにします」
中瀬は「良いこと考えた」と言いたげな表情で、目を輝かせながら人差し指を立てる。
「今から三ヶ月、皆さんが求める新しい惑星の理想、特徴を教えて下さい。どんなことでも構いませんよ。別に個人的な理想であっても大丈夫です。そうですね、例えば――『毎日晴れにしてほしい』とか? あ、それ面白そうですね。うん、本当に何でも受け付けることにします。きっとその方が、私の思いつかないような発想が出て来るような気もしますしね」
中瀬の表情の裏には絶対的な自信があるのだろうが、中瀬はまるで子どものように、思いついたことをただ口にしているかのようだった。
「何か質問はありますか? うわ、ネットはコメントがいっぱいで僕の顔が見えませんね」
モニター越しの会見は、文字の隙間からしか中瀬の表情が見えない程に、コメントに溢れていた。
こんな状況すら、中瀬は楽しんでいるのだろうか――?
そう思いながら、成人はコメントを非表示へと変更した。
画面のコメントが消えたタイミングで、一人の記者が手を挙げる。
「惑星新聞の田中です。本当に……、本当になんでも良いのですか?」
「はい、構いません。理想は高く、面白く。一人何個でも構いませんよ。あ、でも全部の理想は詰め込めませんし、応募数によっては全てに目を通せないことだけご容赦ください」
一人の記者からの質問で別の記者たちも目を覚まし、様々な質問が飛び交っていく。
「青空新聞と申します。中瀬先生は本当に――新たな惑星を創造出来ると……お考えなのでしょうか」
記者からの質問に対し、またしても中瀬は笑顔を浮かべている。
しかし、その笑顔は今までと違い、何か別の感情が見え隠れしていた。
「もちろん。そこに関しては問題ないでしょうね。ただ、それがどれくらいの期間を要するのか――そこは、皆さんの理想によっても変わってくると思います。ですので、まずは皆さんからのご意見を頂戴し、改めて会見をさせていただきたいです」
その後も中瀬は一つ一つの質問に対し、笑みを絶やすことなく答えていった。
こうして、見るもの全てを吃驚させた中瀬大吉の緊急記者会見は、歪な余韻とともに幕を閉じたのだった――。
驚くべき記者会見からの三ヶ月間、どのメディアもこぞって「理想の惑星」をテーマに特集を組んだ。
当然のことながら、人々の欲望の中身は多岐に渡った。
「税金を無くして欲しい」といった経済的なものから、「惑星言語の統一」「医療体制の強化」など人々の生活に有機的に繋がるもの、「温暖化だけは勘弁」「空飛ぶ車があるといいです」「一国程度の広さがあるゴルフ場完備」といったものまであった。
報道番組では、「中瀬をよく知る知人」や、「惑星状況に詳しい専門家」なる人たちが、連日のように討論を繰り広げている。
成人はそのどれもがもっともらしく、その全てが偽りを伝えるようにも思えた。
中瀬大吉は予想の上を行く。
その考えが、この三ヶ月を人生の中で最も長い三ヶ月へと変貌させていった。
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