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終章

その49 構わないよ

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 決意した翌日。つまりは月曜日。

 「というわけでお前から助言をもらおうとおもったんだ」
 「なるほどね」

 中庭にアメをわざわざ呼び出して、俺は話を聴いてもらっていた。

 今は、既に授業もホームルームも終わった放課後。夏に比べて早すぎる夕暮れに、俺達二人の影が長く伸ばされている。
 中庭に一本だけ生えている名も知らない樹木に背を預けて、男二人が黄昏れていた。

 俺の決意を聴き終えたアメは、力強く頷いてくれる。

 「わかったよシュウ。あまり力にはなれないかもしれないけど、それでもよければ付き合うよ」
 「ありがとうな。そう言ってくれると思ったぜ」
 「でもまさかシュウからそんな相談を持ちかけられるなんてね」
 「意外、だろ?俺も自分でそう思ってる。女子と話すだけでも緊張するのに、まさか告白だなんてな」
 「まぁ、シュウの気持ちは薄々勘付いていたから、誰が好きなのかってのはあまり驚かなかったけどね」
 「マジかよ」

 気づかれてたんかい。
 我ながら、最近は彼女を見る機会が増えているなとは思ってはいたのだが。まさかアメに勘付かれるくらいにわかりやすかったのだろうか。

 そこで俺はハッと思い至った。
 もしかしてこの気持ち、彼女にもバレてる可能性が………?

 告白する前に好きであることがバレるだなんて、なんだか恥ずかしすぎる。なのにこれから告白するだなんてなんという罰ゲームなのだろうか。
 思わず深刻な表情を浮かべてしまった俺だが、アメが安心させるような口調で教えてくれた。

 「大丈夫だよ。僕以外の文芸部は気がついてないから」
 「………そうなのか?」

 アメは軽く頷いた。

 「そうそう。皆、まさか自分が好かれているだなんて思ってもいないだろうしね」
 「そんな心境の文芸部に告白するわけなんだが。いきなり罵倒とか浴びせられたりしない?」
 「絶対にないよ。大丈夫」

 なんだかやけにアメが頼もしく感じられた。やはりアメに相談して正解だったな。

 それで、とアメが切り出した。

 「僕から欲しい助言ってのはどういうものなの?」

 そうだったそうだった。危うく本題を忘れる所だった。

 俺は今一度、アメに向き合って悩みを打ち明けた。

 「実は、告白すると決意したのはいいんだが、肝心の告白の言葉が全然思いつかなかったんだ」
 「なるほど………でもそんなに焦らなくてもいいんじゃない?別に今すぐ告白するってわけじゃないんだろう?」
 「ああ、いや」

 アメのその言葉に、俺は軽く首を振る。
 アメに伝えていなかったことがあったことを思い出したので、それをさっくり口に出した。

 「ちなみに決行は今日の放課後にするつもりなんだ。五時くらいに文芸部室で待っててくれともう伝えてある」
 「はやっ!なんなのその行動力!その勢いで行ったら駄目なのかい?」
 「駄目なんだ……気の利いた言葉が何一つ浮かばない」

 俺は両手で頭を抱える。

 昨日から、告白を決意した時から、ずっと考えていたのだ。彼女の心に響く言葉というものを。ただ好きだと伝えるのは、少々寂しい感じがしたから、もっと色々言っておくべきだと思ったのだ。


 でも。考えても、考えても、何も思い浮かばなかった。
 どの言葉もありきたりで、陳腐に思えてしまったのだ。


 勿論、俺は告白が成功するだなんて考えてはいない。それでも、俺が彼女を好きだという事実は変わらないことだ。
 その気持ちを、少しでもカッコよく見せたかった。振られるとわかっていても、少しは見栄を張りたかったのだ。


 その行為に意味がないことくらいはわかっている。

 今やっていることは言葉を飾りつけて、自分の本当の言葉を伝えにくくするだけの行為だ。


 だけど、臆病者の俺は、本当の言葉を伝えるのが怖かった。否定されるのが怖かったのだ。だから言葉を飾りつけようとした。


 俺は自嘲気味に笑った。


 「俺って駄目な奴だよな。結局は怖いだけなんだよ、思いを伝えるってことがさ。振られるのがわかっていても、告白するってことが。自分の気持ちを、飾らない想いを拒絶されるのが怖い。否定されるのが怖い。
 でも、この想いを伝えられないまま終わるってのがもっと怖い。だから必死に飾りつけようと思ってるんだよ。そしてそれをアメにも手伝わせようとしてる。前はあんなにも文句を言ったくせにさ。本当、駄目な奴なんだよ俺は」

 弱音が口からこぼれ落ちる。ポロポロと、塗装が剥がれ落ちていくかのように。

 でも、アメはそんな俺を見ていつもみたいに笑ってくれていた。あの爽やかな笑顔で、アメは俺に微笑む。

 「構わないんじゃない?僕はそれでもいいと思うよ」
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