上 下
42 / 53
六章

その42 作戦会議

しおりを挟む
 文芸部が復活したとしても、俺達のやることには変わりはない。七不思議の解明こそが、この文芸部の目的であり存在意義だからである。

 というわけで、五人が揃った文芸部室での久方ぶりとなる作戦会議が始まったのだった。

 いつも通りにホワイトボードがどこからともなく引っ張られてくる。そこに水性マーカーでナツキが軽快な音を立てながら文字を記していった。

 『玄関を見守る天使!!』
 「いやちょっと待ってくれない?」

 ナツキが文字を書き終えたタイミングで、ハルから謎のストップが入った。一体何が疑問だったのだろうか。同じことをナツキも考えていたらしく、ハルに対して可愛らしく首を傾げていたのだった。

 「んー?何かおかしなところでもあったかなー」
 「おかしいというか……なんでいきなり六つ目の不思議を解明しようとしてるのかなって思っただけよ。五つ目はどうしたのよ?」

 そこでフユカがああ、と声を上げた。

 「五つ目の不思議なら既に解明しましたよ」
 「早っ!私達がいないにもかかわらずに解明できたの!?」
 「まあ、いなかったからこそこんなに早く解明できたものとさえ考えているな」

 五つ目の不思議を解明したのはほんの数日前の話だ。アメとハルが文芸部に来なくなって、俺とフユカはその寂しさを紛らわすかのように七不思議と向き合っていた。真面目というか真剣というか、それしかやることがなくなったというか。

 アハハとアメが苦笑した。

 「もしかして僕達がいない方が七不思議解明は捗るのかな?」
 「そうじゃない。ただ、あの時は余裕がなかっただけってことさ」

 心の余裕。それが今はある。

 少し前までは、それが全くといっていいほどに存在していなかった。やりたいことが、やらなければならないことになってしまったかのような感覚だった。俺達の勝手で始めたことなのに、それに苦痛を感じてしまっていた。結果として効率は上がっていたのだが。

 「焦って次の不思議にどんどんと挑むよりは、こうやって私達のペースで進んで行く方が断然気持ちが楽ですからね」
 「そうだねー」

 フユカの言葉に全員が頷いた。

 恋人は確かに欲しいが、それは決して急ぐものなんかじゃないと気づかされた。大切なのは、今このなんでもないような時間なのだ。皆で過ごせる、この時間なのだから。

 「それじゃあ、作戦会議を再開するよー」

 ナツキがそう言って仕切り直した。

 「じゃあもう一回確認するけど、既に五つ目の不思議は解明したのよね」
 「そうだな。『図書館に閉じ籠もる悪魔』だったが………まあ悪魔だったな」
 「悪魔でしたね」
 「悪魔だったねー」
 「情報が一切伝わってこないんだけど……」

 悪魔は悪魔だったのだ。それを話し始めると長くなるのでまたの機会に、ということでアメとハルには納得してもらった。
 とりあえず今は、それぞれの不思議に隠されている文字のことだけ伝えることにした。

 「ひらがなの『だ』、か……。これでもう五文字集まったわけだけど、軽く推測くらいならできるんじゃないかな?」

 アメの意見に反対意見は出るはずもなく、ナツキがホワイトボードに今までに集まった文字をどんどん記入していった。

 読みやすい字で書かれた五つの文字。
 『あ』『き』『の』『か』『だ』

 この文字を見て、皆一様に首を傾げた。

 「あきのかだ……?秋に生息している蚊のことなんでしょうか」
 「そりゃ確かに『秋の蚊だ』ではあるが、今の段階がそのまま答えってわけでもないだろ」
 「そうよね。もしかしたらこの文字を並び替える必要もあるかもしれないし」
 「珍しくハルが冴えてるな」
 「久しぶりにビンタいっとく?」

 勢いよく首を振ってハルから距離をとる。

 いっとかない。普通にいっとかない。仲直りしたその日に何が悲しくてビンタをされなければならないのだろうか。ハルは俺に対して躊躇いというものが存在していないので、余計にお断りしたい。
 後、ビンタされるのが日常だったみたいな言い方をしているが決してそんなことはない。ビンタされていたのはせいぜい月にニ、三発程度だろう。意外とビンタされてるな俺。

 恐怖に震え上がる俺を笑いながらアメが言った。

 「とりあえずは次の不思議も解明して、文字を見つけなきゃ始まらないってことだね」

 アメの言葉に、ナツキが頷く。

 「そういうことー。それで六つ目の不思議を解明するために何をするのかーってことなんだけどー」
 「いつも通りに現地に向かうしかないだろうな」
 「そうだよねー」

 ホワイトボードに『現地に向かう』と記入された。
 毎回同じ作戦しか立てていないので第三者から見れば、やってる意味があるのだろうかと思われるだろう。しかし、これは俺達にとって割と重要な活動なのである。こういう時間こそ、楽しいのだから。

 今回の作戦会議はこうして終わった。

 後何回こういうことができるのだろうと、ふと考えて。また考えてしまわないように、頭の隅に追いやった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いていく詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

泥々の川

フロイライン
恋愛
昭和四十九年大阪 中学三年の友谷袮留は、劣悪な家庭環境の中にありながら前向きに生きていた。 しかし、ろくでなしの父親誠の犠牲となり、ささやかな幸せさえも奪われてしまう。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

処理中です...