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学年トーナメント戦 本戦編
11話 いないいない
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医務室へと上梨を運び込んだ後、上梨の側から離れようとしない山田さんを残して俺はギャラリー席へと戻っていった。別れ際に見た山田さんの表情を俺は忘れる事が出来なかった。あの悲しそうな表情に、俺は何の気の利いた事も言えず、ただ黙ってその場を去る事しか出来なかった。
いや、そもそも山田さんが求めているのは俺の言葉ではない。彼女が一番耳にしたいのは、上梨西我ただ一人の声だけなのだから。
主人公とそのヒロインを傍から見るとこんな感じなのか、と感慨を抱きもしたが、俺自身が彼等の物語に必要ではないと突きつけられた気もしてショックだ。だからと言って、無理矢理俺の存在をねじ込むなんて無駄な努力もしたくないし、本戦は未だに終わっていない。俺は俺のやるべき事をするだけだ。
◆◆◆
場所を移してギャラリー席。
只今俺の視界はぶれっぶれに揺れていた。あうあうあう、と出すつもりもない声が出る。肩をガックンガックン揺らされるとこんな声が出んのか。勉強になったわ。
「なんで私を置いていったんですか!あまりの展開の速さについていけてなかったんですよ!春日原さんは怖くなるし、田中さんはさっさと行っちゃうし、綺麗な女の人が出てくるし、山田さんと二人で上梨さん運んで行っちゃうし!!残された私は何をすればよかったんですかぁー!」
「あうあうあーすまん星叶。すっかり忘れてたわ」
「すまんで済んだら警察はいりませんよ」
「警察沙汰にするつもりなのかよ」
うがぁー!と星叶は性懲りもなく俺の肩を揺さぶる。事実、俺は星叶を置いていったので特に反発もせずに受け入れている。いやホントに忘れてたわ。手すり付近まで連れてきたのは良いけど、そっから完全置いてけぼりだったわな。
暫く揺さぶって満足したのか、やっと俺の肩から手を離してくれた。だか少しふくれっ面だ。もしやまた揺する気ではなかろうな?警戒した俺は星叶との距離を取ったが、速攻で詰めてきたので諦める事にした。
「まぁこのくらいで許してあげますよ。今度はちゃんと私も関わらせて下さいね」
「わかったよ。次があるなら星叶も連れて行くさ」
「約束ですからね」
次の機会なんて来なければいいんだが、なんて言葉が出かかったが必死に飲み込む。星叶は自分が何も出来なかった事を真剣に悔やんでいたし、何よりその表情が何とも愛おしかったからだ。危ねえ。危うく星叶に攻略される所だったわ。
『試合開始の準備が整いましたので、本戦を再開死体と思います!!それでは第一回戦三組目の発表です!』
アナウンスがスタジアムに響いた。続けてフィールドに視線を向けると、そこには既に誰の姿も見えない。カズミネと会長はどこに行ったのだろう。でも学年戦を再開出来るという事は、一大事なんてのは起こってないみたいだ。
隣の星叶を見てみると、既に緊張なんて言葉は忘れているみたいだった。本戦出場者で試合を行っていないのは、星叶を含め残り4人。恐らく次くらいに、星叶の試合は来るだろう。
『それでは組み合わせを発表します!まずはDブロック優勝者、星叶美弥さん!!そしてCブロック優勝者、仁木峰子さん!!試合開始は10分後となりますので、お二方準備の方をよろしくお願いします!!』
やはりか。星叶もわかっていたのか、落ち着いた様子で席を立つ。そして俺にびしっと指をつきつけてくる。こら、人に指を指すんじゃありません。
「応援、よろしくお願いしますね」
「………ああ。任せとけよ」
フンス、と鼻息を鳴らして星叶はフィールドへと降りて行った。本来なら俺一人で応援するはずなんかではなかったんだけどな。後一人、座っているべき空白の椅子に視線を向ける。当たり前だが、そこには誰もいない。
カズミネはいない。
◆◆◆
結果だけ述べれば、星叶の快勝だった。勿論、対戦相手も十分な強者であったのには変わりない。それでも星叶の方が更に強者であった。ただそれだけの事。
次の試合も、星叶と二人でなんとなくで応援していた。知らない奴達が一生懸命に闘っていた。俺はそれをどこか空虚な気持ちで見ていた。
そして二回戦が始まった。アナウンスで俺とカズミネの名前が呼ばれた。星叶から、フィールドに行く前に沢山の応援を貰って、苦笑して降りて行った。
試合開始の5分前。来ているのは俺だけ。
試合開始の3分前。来ているのは俺だけ。
試合開始の1分前。来ているのは俺だけ。
そして試合開始。来ているのは俺だけ。
カズミネは来なかった。
不戦勝で俺の決勝戦進出がアナウンスで告げられた。何も言わずに、俺はギャラリー席へと戻った。星叶は何か声をかけてくれていたが、あまり聞いていなかった。上の空だった。
そこからあっという間に試合は進んだ。次の決勝戦は星叶と試合する事になった。星叶相手には初めて俺の《混沌なる誇り》を使用した。発動には、左手を掲げての指パッチンが必要なのだが、星叶がなかなか発動させてくれなかった。《完全遮断》も発動してしまったが、試合中盤にやっと俺の能力を使う事が出来て、逆転勝利した。これで俺の学年戦優勝が決定した。
初めての優勝に嬉しさ半分、戸惑い半分と言った所だ。表彰式では緊張のあまり、歩く際に手と足を同時に出して、会場の笑いを誘った。表彰状を貰った後は、A組全員が大声で褒めてくれた。
いや、全員じゃない。カズミネが、いない。
一番に優勝を伝えたい奴はここにはいない。カズミネはあの試合から帰ってこなかった。A組の誰も、あれからカズミネを見かけた奴はいなかったらしい。
俺は星叶と、一瞬暗い表情を浮かべてしまったが、直ぐに笑みを浮かべる。今はそんな顔は相応しくない。せっかくの優勝だ。笑っていなくちゃ。でも、一緒に笑いたかったカズミネは、いない。
こうして、今月の学年戦は幕を下ろした。
いや、そもそも山田さんが求めているのは俺の言葉ではない。彼女が一番耳にしたいのは、上梨西我ただ一人の声だけなのだから。
主人公とそのヒロインを傍から見るとこんな感じなのか、と感慨を抱きもしたが、俺自身が彼等の物語に必要ではないと突きつけられた気もしてショックだ。だからと言って、無理矢理俺の存在をねじ込むなんて無駄な努力もしたくないし、本戦は未だに終わっていない。俺は俺のやるべき事をするだけだ。
◆◆◆
場所を移してギャラリー席。
只今俺の視界はぶれっぶれに揺れていた。あうあうあう、と出すつもりもない声が出る。肩をガックンガックン揺らされるとこんな声が出んのか。勉強になったわ。
「なんで私を置いていったんですか!あまりの展開の速さについていけてなかったんですよ!春日原さんは怖くなるし、田中さんはさっさと行っちゃうし、綺麗な女の人が出てくるし、山田さんと二人で上梨さん運んで行っちゃうし!!残された私は何をすればよかったんですかぁー!」
「あうあうあーすまん星叶。すっかり忘れてたわ」
「すまんで済んだら警察はいりませんよ」
「警察沙汰にするつもりなのかよ」
うがぁー!と星叶は性懲りもなく俺の肩を揺さぶる。事実、俺は星叶を置いていったので特に反発もせずに受け入れている。いやホントに忘れてたわ。手すり付近まで連れてきたのは良いけど、そっから完全置いてけぼりだったわな。
暫く揺さぶって満足したのか、やっと俺の肩から手を離してくれた。だか少しふくれっ面だ。もしやまた揺する気ではなかろうな?警戒した俺は星叶との距離を取ったが、速攻で詰めてきたので諦める事にした。
「まぁこのくらいで許してあげますよ。今度はちゃんと私も関わらせて下さいね」
「わかったよ。次があるなら星叶も連れて行くさ」
「約束ですからね」
次の機会なんて来なければいいんだが、なんて言葉が出かかったが必死に飲み込む。星叶は自分が何も出来なかった事を真剣に悔やんでいたし、何よりその表情が何とも愛おしかったからだ。危ねえ。危うく星叶に攻略される所だったわ。
『試合開始の準備が整いましたので、本戦を再開死体と思います!!それでは第一回戦三組目の発表です!』
アナウンスがスタジアムに響いた。続けてフィールドに視線を向けると、そこには既に誰の姿も見えない。カズミネと会長はどこに行ったのだろう。でも学年戦を再開出来るという事は、一大事なんてのは起こってないみたいだ。
隣の星叶を見てみると、既に緊張なんて言葉は忘れているみたいだった。本戦出場者で試合を行っていないのは、星叶を含め残り4人。恐らく次くらいに、星叶の試合は来るだろう。
『それでは組み合わせを発表します!まずはDブロック優勝者、星叶美弥さん!!そしてCブロック優勝者、仁木峰子さん!!試合開始は10分後となりますので、お二方準備の方をよろしくお願いします!!』
やはりか。星叶もわかっていたのか、落ち着いた様子で席を立つ。そして俺にびしっと指をつきつけてくる。こら、人に指を指すんじゃありません。
「応援、よろしくお願いしますね」
「………ああ。任せとけよ」
フンス、と鼻息を鳴らして星叶はフィールドへと降りて行った。本来なら俺一人で応援するはずなんかではなかったんだけどな。後一人、座っているべき空白の椅子に視線を向ける。当たり前だが、そこには誰もいない。
カズミネはいない。
◆◆◆
結果だけ述べれば、星叶の快勝だった。勿論、対戦相手も十分な強者であったのには変わりない。それでも星叶の方が更に強者であった。ただそれだけの事。
次の試合も、星叶と二人でなんとなくで応援していた。知らない奴達が一生懸命に闘っていた。俺はそれをどこか空虚な気持ちで見ていた。
そして二回戦が始まった。アナウンスで俺とカズミネの名前が呼ばれた。星叶から、フィールドに行く前に沢山の応援を貰って、苦笑して降りて行った。
試合開始の5分前。来ているのは俺だけ。
試合開始の3分前。来ているのは俺だけ。
試合開始の1分前。来ているのは俺だけ。
そして試合開始。来ているのは俺だけ。
カズミネは来なかった。
不戦勝で俺の決勝戦進出がアナウンスで告げられた。何も言わずに、俺はギャラリー席へと戻った。星叶は何か声をかけてくれていたが、あまり聞いていなかった。上の空だった。
そこからあっという間に試合は進んだ。次の決勝戦は星叶と試合する事になった。星叶相手には初めて俺の《混沌なる誇り》を使用した。発動には、左手を掲げての指パッチンが必要なのだが、星叶がなかなか発動させてくれなかった。《完全遮断》も発動してしまったが、試合中盤にやっと俺の能力を使う事が出来て、逆転勝利した。これで俺の学年戦優勝が決定した。
初めての優勝に嬉しさ半分、戸惑い半分と言った所だ。表彰式では緊張のあまり、歩く際に手と足を同時に出して、会場の笑いを誘った。表彰状を貰った後は、A組全員が大声で褒めてくれた。
いや、全員じゃない。カズミネが、いない。
一番に優勝を伝えたい奴はここにはいない。カズミネはあの試合から帰ってこなかった。A組の誰も、あれからカズミネを見かけた奴はいなかったらしい。
俺は星叶と、一瞬暗い表情を浮かべてしまったが、直ぐに笑みを浮かべる。今はそんな顔は相応しくない。せっかくの優勝だ。笑っていなくちゃ。でも、一緒に笑いたかったカズミネは、いない。
こうして、今月の学年戦は幕を下ろした。
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