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学年トーナメント戦編
6話 不可視の神手
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難波地君、とか言ったっけな。
まぁ取り敢えず彼と試合を開始したんだけれど、僕はちょっと認識を改めなきゃいけないらしい。
「結構……やるねっ!」
「は?なめてんのお前?何、俺のコト下に見てるような発言しちゃってんの?」
まるで突進するような勢いで僕に向かってくる難波地君。能力も使ってない捻りも何も存在しない行動だったけれど、かなりの速さを伴っていた。
回避するのはそこまで難しくなかったので、ヒョイと横に跳ぶ。
「なんで避けるんだよぉ!」
避けなきゃ当たるじゃん、と当たり前の反論は飲み込んで距離を取ろうとする。その反応に腹でも立てたのか難波地君の額には微かに青筋が浮かんでいた。
「調子にのるんじゃねぇぞクソ!」
「乗る調子なんてそもそも持ち合わせてなんていないのだけれど。そろそろ僕からも反撃させてもらうよ」
今度は僕の方から難波地君へと突っ込んで行く。難波地君もこちらに向かってくる。ただ、彼の周りにはいつの間にか氷塊がいくらか浮かんでいた。
それを見て、僕の動きが僅かに鈍る。それを難波地君が見逃す筈もなく、速度を上げて僕に━━━━僕の防護陣に肩から突進してくる。突進自体は怖くない。身体強化されているのはお互い様なのだから。
防護陣による身体強化は、一人一人に一定の力を上乗せする形のものではない。ある一定の強さまで、全員の身体能力を引き上げていると言った方が正しい。簡単に言ってしまえば、僕の元々の身体能力を3として難波地君の身体能力を4とした場合、防護陣による強化は+5という一定の強化により僕の身体能力は8、難波地君は9になるといったものではない。
身体能力が3であれ4であれ、はたまた1であろうが9であろうが、防護陣は全員の身体能力を等しく10までに強化してくれている(らしい。あまり実感は湧いてないけど)。
まぁそんな訳で、試合を始めた僕らのスペック、パラーメータとかその他諸々は完全に五分と五分。難波地君も初心者ではないだろうし、慣れない速度に戸惑うなんて事はない筈だ。つまる所、肉弾戦ではほぼほぼ決着はつかないと考えてもいい。
あくまで肉弾戦では、だけど。
「おおっと!」
難波地君が接近してきて、危うく彼の周りに浮いている氷塊に防護陣をぶつけてしまう所だった。難波地君の突進をバックステップで回避した僕に、彼は更なる追撃を行った。
「オラ、さっさと当たって負けろよぉ!」
浮いていた数個の拳大の氷塊が直線的な動作で僕に向かってきた。何気に速度がある。一つガシャンと音を立てて防護陣に接触してしまった。後の氷塊は何とか避ける事が出来たんだけど。
やっぱり厄介だな、遠距離からの攻撃手段を持つ能力ってのは。
因みに僕は既に《完全遮断》を発動してしまった後だ。今と同じ手法でやられてしまった。
対して難波地君は未だに《完全遮断》を発動していない。僕が近づこうとする度に、威嚇のように氷塊を周りにいくつか生み出す。肉弾戦では基本決着が着く事は無い。身体能力は模擬戦の最中、双方全く同じレベルにまで強化されるからだ。
だから、能力で自身のパラメータを更に強化していかなければならないのだ。
その日の体調や相手の相性によっては、強化される値も変わるかもしれないが、何にせよ能力は模擬戦の勝敗を決める決定打となるのだ。
以前、シュウヤが星叶さんに能力使用無しで挑んで勝とうとしていたけど、あれは例外と言って良い。星叶さんが転入してきたばかりで、能力使用経験も殆ど無い状態での初めての模擬戦だからこそシュウヤもあんな発想が浮かんできたのだろう。そうじゃなきゃ僕の親友はどれだけ普段、相手を下に見ているんだと言う話になってしまう。僕はそんな事は無い。
今能力を使っていないのは、少し状況が悪いからなのだから。
僕の能力━━━━見る事の出来ない第三の手。
手、とは言ってもそれはあくまでそう形容した方が能力を使用しやすいだけで、本当の所はどんな物質かは僕も分からない。なにせ形や質量まで自由自在に変化させる事が出来てしまう。その手に明確な色は無い。僕もなんとなく存在を感じて、なんとなく見えるという曖昧なものなのだ。
この能力をシュウヤは《不可視の神手》とか何とか名づけていたけど、そんな名前じゃなかった。正式名称は一度会長から聞いただけだ。この手は僕自身の能力ではない。生徒会庶務という役職に任命された時に与えられたものだ。
とある事情で、僕はこっちの能力しか使ってない。それは僕から僕への誓いのようなものなのだが、そんな事はどうだっていいだろう。
まぁ見えないという最大のリーチがあるこの能力も少し欠点というか弱点のようなものも存在する。
能力の使用可能範囲だ。
そもそもこの手は僕の周りにふわふわ漂っている訳ではなくて、僕の胸の中心と繋がるようにして存在している。それを切り離して使用する事は出来ない。伸ばす事も出来なくはないんだけど、最大で5メートル程が限度なのだ。だからこの能力を使用する際には接近戦に持ち込む必要がある。
さっき難波地君が突進してきた時。あの時も僕はこの能力を使用して攻撃を仕掛けようとしたのだが、何分僕の胸から出現しているので横や背後に周られると対応するまで大幅に時間が掛かってしまう。おそらくこの能力は前方にいる存在への干渉を前提としていたのだろう。なんて使い勝手の悪い事か。
「…………それも十分なハンデになるけどね」
「あぁ!?てめぇハンデとか何言ってんの?負け惜しみとか今はやめてくんね」
独り言のつもりだったのか、難波地君はだいぶ地獄耳らしい。彼は口調も態度もかなり悪いが、能力に関してはそこそこ良い。それは僕も認める。
でも、それだけだ。
だからもう飽きた。
飽きたから、
「ここからは僕の反撃だ」
そう言って笑ってやった。
まぁ取り敢えず彼と試合を開始したんだけれど、僕はちょっと認識を改めなきゃいけないらしい。
「結構……やるねっ!」
「は?なめてんのお前?何、俺のコト下に見てるような発言しちゃってんの?」
まるで突進するような勢いで僕に向かってくる難波地君。能力も使ってない捻りも何も存在しない行動だったけれど、かなりの速さを伴っていた。
回避するのはそこまで難しくなかったので、ヒョイと横に跳ぶ。
「なんで避けるんだよぉ!」
避けなきゃ当たるじゃん、と当たり前の反論は飲み込んで距離を取ろうとする。その反応に腹でも立てたのか難波地君の額には微かに青筋が浮かんでいた。
「調子にのるんじゃねぇぞクソ!」
「乗る調子なんてそもそも持ち合わせてなんていないのだけれど。そろそろ僕からも反撃させてもらうよ」
今度は僕の方から難波地君へと突っ込んで行く。難波地君もこちらに向かってくる。ただ、彼の周りにはいつの間にか氷塊がいくらか浮かんでいた。
それを見て、僕の動きが僅かに鈍る。それを難波地君が見逃す筈もなく、速度を上げて僕に━━━━僕の防護陣に肩から突進してくる。突進自体は怖くない。身体強化されているのはお互い様なのだから。
防護陣による身体強化は、一人一人に一定の力を上乗せする形のものではない。ある一定の強さまで、全員の身体能力を引き上げていると言った方が正しい。簡単に言ってしまえば、僕の元々の身体能力を3として難波地君の身体能力を4とした場合、防護陣による強化は+5という一定の強化により僕の身体能力は8、難波地君は9になるといったものではない。
身体能力が3であれ4であれ、はたまた1であろうが9であろうが、防護陣は全員の身体能力を等しく10までに強化してくれている(らしい。あまり実感は湧いてないけど)。
まぁそんな訳で、試合を始めた僕らのスペック、パラーメータとかその他諸々は完全に五分と五分。難波地君も初心者ではないだろうし、慣れない速度に戸惑うなんて事はない筈だ。つまる所、肉弾戦ではほぼほぼ決着はつかないと考えてもいい。
あくまで肉弾戦では、だけど。
「おおっと!」
難波地君が接近してきて、危うく彼の周りに浮いている氷塊に防護陣をぶつけてしまう所だった。難波地君の突進をバックステップで回避した僕に、彼は更なる追撃を行った。
「オラ、さっさと当たって負けろよぉ!」
浮いていた数個の拳大の氷塊が直線的な動作で僕に向かってきた。何気に速度がある。一つガシャンと音を立てて防護陣に接触してしまった。後の氷塊は何とか避ける事が出来たんだけど。
やっぱり厄介だな、遠距離からの攻撃手段を持つ能力ってのは。
因みに僕は既に《完全遮断》を発動してしまった後だ。今と同じ手法でやられてしまった。
対して難波地君は未だに《完全遮断》を発動していない。僕が近づこうとする度に、威嚇のように氷塊を周りにいくつか生み出す。肉弾戦では基本決着が着く事は無い。身体能力は模擬戦の最中、双方全く同じレベルにまで強化されるからだ。
だから、能力で自身のパラメータを更に強化していかなければならないのだ。
その日の体調や相手の相性によっては、強化される値も変わるかもしれないが、何にせよ能力は模擬戦の勝敗を決める決定打となるのだ。
以前、シュウヤが星叶さんに能力使用無しで挑んで勝とうとしていたけど、あれは例外と言って良い。星叶さんが転入してきたばかりで、能力使用経験も殆ど無い状態での初めての模擬戦だからこそシュウヤもあんな発想が浮かんできたのだろう。そうじゃなきゃ僕の親友はどれだけ普段、相手を下に見ているんだと言う話になってしまう。僕はそんな事は無い。
今能力を使っていないのは、少し状況が悪いからなのだから。
僕の能力━━━━見る事の出来ない第三の手。
手、とは言ってもそれはあくまでそう形容した方が能力を使用しやすいだけで、本当の所はどんな物質かは僕も分からない。なにせ形や質量まで自由自在に変化させる事が出来てしまう。その手に明確な色は無い。僕もなんとなく存在を感じて、なんとなく見えるという曖昧なものなのだ。
この能力をシュウヤは《不可視の神手》とか何とか名づけていたけど、そんな名前じゃなかった。正式名称は一度会長から聞いただけだ。この手は僕自身の能力ではない。生徒会庶務という役職に任命された時に与えられたものだ。
とある事情で、僕はこっちの能力しか使ってない。それは僕から僕への誓いのようなものなのだが、そんな事はどうだっていいだろう。
まぁ見えないという最大のリーチがあるこの能力も少し欠点というか弱点のようなものも存在する。
能力の使用可能範囲だ。
そもそもこの手は僕の周りにふわふわ漂っている訳ではなくて、僕の胸の中心と繋がるようにして存在している。それを切り離して使用する事は出来ない。伸ばす事も出来なくはないんだけど、最大で5メートル程が限度なのだ。だからこの能力を使用する際には接近戦に持ち込む必要がある。
さっき難波地君が突進してきた時。あの時も僕はこの能力を使用して攻撃を仕掛けようとしたのだが、何分僕の胸から出現しているので横や背後に周られると対応するまで大幅に時間が掛かってしまう。おそらくこの能力は前方にいる存在への干渉を前提としていたのだろう。なんて使い勝手の悪い事か。
「…………それも十分なハンデになるけどね」
「あぁ!?てめぇハンデとか何言ってんの?負け惜しみとか今はやめてくんね」
独り言のつもりだったのか、難波地君はだいぶ地獄耳らしい。彼は口調も態度もかなり悪いが、能力に関してはそこそこ良い。それは僕も認める。
でも、それだけだ。
だからもう飽きた。
飽きたから、
「ここからは僕の反撃だ」
そう言って笑ってやった。
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