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第四章 仮面をつけた笑顔
37 近づく死
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それから一日中歩きっぱなしだった。
昨日草原地帯を抜けたと思ったら今度は森へと突入したのだ。他に道はないのかと思ったのだけれど、マーリ曰くバッカスまではこの道程が最短らしいので、素直に歩いていく。
ただ、森に入る前に一度その全貌を見上げる。広葉樹が生えそろった一般的な森だ。目の前に続く道はしっかりと舗装されており、この道の使用頻度が伺える。
スリプスの村へと向かう途中に入った森を思い出してしまった。
あの時、初めて死を実感した。実体験した。あんな感覚は慣れるものでは決してない。
死の牙は確かに討伐した。ルル姉とクレアと、そして僕の三人で討伐した。大猪が灰に変わる瞬間だってこの目で目撃したのだ。だからアイツはもういない。それはわかっているのだけれど。なぜだか足が竦んでいた。
本当になんでだろう。
死ぬ恐怖を味わったとは言え、あれは僕のスキル【危機予知】による、未来の可能性を見ただけの事。それに僕が怯えたのは大猪でも森でもなく死そのものだ。
ただただ動かない足に疑問を覚えつつ、他の皆に置いていかれない様に僕も森へと足を動かした。
◆◆◆
「気持ち良いな森ってもんは」
「そうですね。木が影になって日差しも遮ってくれますし。風も強くなくて丁度いいです」
「いつかは森の中で寝泊まりなんてしてみたいものだな」
僕の後方でガールズトークが繰り広げられている中、僕は無言で前を見て歩いていた。
「どうしたタクト?」
「いや…ちょっとね。なんだか心配なんだよ」
「ははぁん、わかりましたよタクト。あの死の牙がいた森とこの森の風景がダブって怯えているんですね」
「そう、なのかな」
「大丈夫ですよ。あの時だって勝てたんです。それに今はマーリもいます。今、あの大猪と同格の敵が出てきてもなんとか成りますよ」
そう言ってクレアがニコリと笑いかけてくれた。その笑顔に少し気が緩まる。確かに、少しばかり神経質になりすぎていたのかもしれない。もう少しこの森の風景でも楽しもう。
ぐるりと視界を巡らせてみる。なんの変哲も無い様な森に見えるけれどそうでもない。木が覆い茂っているいても、太陽の光はしっかりと足元まで照らしているおかげで視界は明るく確保できている。照らされている、と言っても木々に生えている葉や枝越しの光だ。直接僕達を照らすのではなく、葉や枝を介する事で暖かな日差しになり、暑さというものをあまり感じない。
上を見上げれば、鮮やかな緑で埋め尽くされていた。日陰でありつつ日差し届く。そんな不思議な光景の道を僕達は進む。
耳をすませば鳥達のさえずりなんかも聞こえてきた。心地よい鳴き声が僕の耳に届く。ここで昼寝なんかしても気持ち良さそうだ。
「暫くここで休んでいきたいなぁ」
「それも悪くないな」
僕の呟きにマーリがうんうんと賛同してくれる。だから僕達は少し休憩する為に足を止めた。
その時、頭にチリッとした痛みが走る。視界が白くボヤけ始めた。
「えっ…………?」
「なんだ、タクトどうした?」
「大……ぶ……すか?」
「お………い」
急に視界が白く染まりだし、立っていることもままならなくなってしまい、その場に膝から崩れ落ちた。ズキズキと痛み出す頭を抱えてうずくまる。
皆が何か言ってくれた様な気がしたが、今の僕には届いてなどいなかった。
◆◆◆
「おい!大丈夫か!」
「……………ん?」
急に視界がクリアになる。すると目の前にルル姉が焦った表情で映っていた。どうやら肩を掴まれているらしく、ユサユサと前後に揺らされていた。
僕の頭を苛んでいた痛みももう無い。だけどあまり身体を揺らされては気分が悪くなるので早めに返事をする。
「あーうん大丈夫大丈夫。特に異常はないよ」
「本当ですか……?一応、私のスキルを使っておいた方が……」
「良いよ良いよ。別に怪我した訳じゃないし」
それにもうすぐ死ぬかもしれないから。
その言葉は胸の中で留めておいた。
この状況は覚えがある。頭に痛みが走り、視界が白くなる。以前、死の牙に遭遇した時にも同じ現象が起こった。つまりこれは僕のスキル、【危機予知】が発動したのだろう。
スキル【危機予知】はその名の通り、未来に起こるであろう危機の可能性を予知し、それを体験させる。前回発動した時は意味もわからず死んでしまったのだけれど。
でも、このスキルが発動する程の危機、そんなものは死しか思いつくものはない。
妙に落ち着いた頭でそんな事を考えている僕の背後で、ジャリ…と土を踏む誰かの足音が聞こえた。
昨日草原地帯を抜けたと思ったら今度は森へと突入したのだ。他に道はないのかと思ったのだけれど、マーリ曰くバッカスまではこの道程が最短らしいので、素直に歩いていく。
ただ、森に入る前に一度その全貌を見上げる。広葉樹が生えそろった一般的な森だ。目の前に続く道はしっかりと舗装されており、この道の使用頻度が伺える。
スリプスの村へと向かう途中に入った森を思い出してしまった。
あの時、初めて死を実感した。実体験した。あんな感覚は慣れるものでは決してない。
死の牙は確かに討伐した。ルル姉とクレアと、そして僕の三人で討伐した。大猪が灰に変わる瞬間だってこの目で目撃したのだ。だからアイツはもういない。それはわかっているのだけれど。なぜだか足が竦んでいた。
本当になんでだろう。
死ぬ恐怖を味わったとは言え、あれは僕のスキル【危機予知】による、未来の可能性を見ただけの事。それに僕が怯えたのは大猪でも森でもなく死そのものだ。
ただただ動かない足に疑問を覚えつつ、他の皆に置いていかれない様に僕も森へと足を動かした。
◆◆◆
「気持ち良いな森ってもんは」
「そうですね。木が影になって日差しも遮ってくれますし。風も強くなくて丁度いいです」
「いつかは森の中で寝泊まりなんてしてみたいものだな」
僕の後方でガールズトークが繰り広げられている中、僕は無言で前を見て歩いていた。
「どうしたタクト?」
「いや…ちょっとね。なんだか心配なんだよ」
「ははぁん、わかりましたよタクト。あの死の牙がいた森とこの森の風景がダブって怯えているんですね」
「そう、なのかな」
「大丈夫ですよ。あの時だって勝てたんです。それに今はマーリもいます。今、あの大猪と同格の敵が出てきてもなんとか成りますよ」
そう言ってクレアがニコリと笑いかけてくれた。その笑顔に少し気が緩まる。確かに、少しばかり神経質になりすぎていたのかもしれない。もう少しこの森の風景でも楽しもう。
ぐるりと視界を巡らせてみる。なんの変哲も無い様な森に見えるけれどそうでもない。木が覆い茂っているいても、太陽の光はしっかりと足元まで照らしているおかげで視界は明るく確保できている。照らされている、と言っても木々に生えている葉や枝越しの光だ。直接僕達を照らすのではなく、葉や枝を介する事で暖かな日差しになり、暑さというものをあまり感じない。
上を見上げれば、鮮やかな緑で埋め尽くされていた。日陰でありつつ日差し届く。そんな不思議な光景の道を僕達は進む。
耳をすませば鳥達のさえずりなんかも聞こえてきた。心地よい鳴き声が僕の耳に届く。ここで昼寝なんかしても気持ち良さそうだ。
「暫くここで休んでいきたいなぁ」
「それも悪くないな」
僕の呟きにマーリがうんうんと賛同してくれる。だから僕達は少し休憩する為に足を止めた。
その時、頭にチリッとした痛みが走る。視界が白くボヤけ始めた。
「えっ…………?」
「なんだ、タクトどうした?」
「大……ぶ……すか?」
「お………い」
急に視界が白く染まりだし、立っていることもままならなくなってしまい、その場に膝から崩れ落ちた。ズキズキと痛み出す頭を抱えてうずくまる。
皆が何か言ってくれた様な気がしたが、今の僕には届いてなどいなかった。
◆◆◆
「おい!大丈夫か!」
「……………ん?」
急に視界がクリアになる。すると目の前にルル姉が焦った表情で映っていた。どうやら肩を掴まれているらしく、ユサユサと前後に揺らされていた。
僕の頭を苛んでいた痛みももう無い。だけどあまり身体を揺らされては気分が悪くなるので早めに返事をする。
「あーうん大丈夫大丈夫。特に異常はないよ」
「本当ですか……?一応、私のスキルを使っておいた方が……」
「良いよ良いよ。別に怪我した訳じゃないし」
それにもうすぐ死ぬかもしれないから。
その言葉は胸の中で留めておいた。
この状況は覚えがある。頭に痛みが走り、視界が白くなる。以前、死の牙に遭遇した時にも同じ現象が起こった。つまりこれは僕のスキル、【危機予知】が発動したのだろう。
スキル【危機予知】はその名の通り、未来に起こるであろう危機の可能性を予知し、それを体験させる。前回発動した時は意味もわからず死んでしまったのだけれど。
でも、このスキルが発動する程の危機、そんなものは死しか思いつくものはない。
妙に落ち着いた頭でそんな事を考えている僕の背後で、ジャリ…と土を踏む誰かの足音が聞こえた。
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