ゆうしゃのあゆみ

秋月 銀

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第四章 仮面をつけた笑顔

34 野宿するしか

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 パチパチと燃える焚き火を四人で囲む僕達。日はとっくの昔に沈んでしまい、辺りはすっかり黒一色となってしまった。

 季節は春とは言え、夜になると未だに冷え込む。今はこの炎の暖かさが頼もしい。焚き火は囲む四人の表情をありありと照らし出していた。その表情は皆一様に虚ろである。

 何故こんな事になったのだろうか━━━━

 そう思う事を止められない。

 思い出すのは数時間前、新しくマーリを加えた僕達がマジナルの街を旅立ったときまでに遡る。

◆◆◆

 「この旅の最終的な目標とはなんなのだ?」

 テクテクと道を歩いていると、唐突にマーリがそのような事を聞いてきた。辺りは一面草原。さわさわと風が草を揺らして小気味よい音を奏でている。肌を抜ける風は少し冷たく、気持ちいい。

 そんな時に尋ねられた。

 この疑問に僕はうーん?と首を傾げる。この旅の最終目標?よくよく思えば、討神祭に向けて、という曖昧なものしか決めていない事に気がつく。

 僕が答えを考えている間にルル姉がさっと答えてくれた。

 「そりゃ決まってんだろ。勇者探しの為さ」
 「勇者探し、か。どうせ討神祭には余程の事がない限り強制参加なのだ。別に勇者を集めなくても良いだろう」
 「参加するだけならそれでも全然構わねぇと思う。でもアタシは勝ちたいんだ。せっかく勇者に選ばれたんだ。勝ち星飾らなくてどうするんだよ」
 「勇者を集める事が勝ちに繋がると?」
 「そうは言ってない。逆にそうじゃないとも言わない。勇者探しは勝つ為じゃなくて、勝つ確率を少しでも上げる為の旅さ」
 「ふむ……なるほどな」

 ルル姉の言葉を聞いたマーリは顎に手を当てて頷いた。確かに、討神祭直前に勇者が集結したところで、チームワークもままならないし、お互いの戦法ですら理解出来ない状態で闘うとなると結果は目に見えていると言える。

 討神祭までの一年という準備期間。この期間を勇者探しに当てて、お互いの事を知り、神様を倒す為の作戦を練った方が何倍も勝率は上がるはずだ。

 勿論、反りが合わない勇者も出てくるだろう。絶対に分かり合えない奴もいると思う。けどそれを克服して挑んだ方が、僕達は必ず強くなると思う。その苦楽を共にした経験は一生残る物でもあるしね。

 クレアはルル姉とマーリの会話中、終始首を捻って?と浮かべてばかりだった。ちょっとくらい伝わってくれ。

 そんなこんなでテクテクと歩き続ける僕達。たいした魔物も出現してこず、魔物が出現しても大体は低級魔物ばかりだった。そんな魔物は出現と同時にルル姉の弓矢の餌食となっていく。スライムが出現したら、僕達は優しく見送った。

 しかし、いくら歩いても風景が全然変わらないのだ。どこまで行っても草原草原また草原。変わらない景色を見ていると歩くのも辛くなり、魔物の出現が良い気分転換になるまであった。

 「ルル……一体次の目的地はどこなんですか?」

 ついにクレアが音を上げてルル姉にそう尋ねた。

 この旅の目的地を決めているのは殆どがルル姉だ。元々このメンバーの中で一番年上というのもあるし、人をまとめるのに長けているので、自然に進路決定はルル姉の役割となっていた。

 ルル姉が東と言えば東へ。左と言えば左へ進む。今回、ルル姉に言われたのは、マジナルの街から出て左へ一直線だ。その先に何があるのか僕は勿論、クレアだって知らない。唯一知ってそうなマーリもクレアの問いに、うんうんと頷いていたので予想出来ていないのだろう。

 もう歩き始めて半日だ。一向に変化がないと少しばかりの不安は抱くだろう。クレアの疑問ももっともだ。

 「確かにそれは僕も気になってた。神父に聞いたんでしょ?次の勇者の所在地は」
 「ああ聞いた。でもわからなかった」
 「それはどういうことなのだ?」
 「簡単な事さ。聞いた時点での場所はわかったが、現在地はわからねぇんだ」
 「ああ、つまりそれって僕達と同じく、旅をしているって事なんだね」

 僕の答えにルル姉はニッコリと満面の笑みで頷く。まぁ、勇者に選ばれて自分の村から出ないなんて言うのは少数派なんだろうな。ちらりとクレアを見ると「どうかしました?」と言われたので、何でもないと返しておく。

 「私達とは違う勇者は、共に行動していたのか?」
 「いいや?全員が全員バラバラだ。多分あんだけ距離が離れてりゃアタシ達と会う前に他の勇者に会う確率は恐ろしく低いぞ」

 どんだけ別行動をとっているのだろう。これならクレアの様に自宅に引きこもっていた方がまだ遭遇しやすいのに。ちらりとクレアを見ると「どうかしたんですか?」と言われたので、何でもないと返しておく。

 「じゃあ私達は今、勇者がいたであろう街まで行って情報収集をするつもりなんですね」

 なるほど。クレアの考えはしっくりときた。いくら好き勝手に移動していようが、街や村に寄らないことには安全な寝床や食料も保証されない。だから勇者は必ずどこかの街や村に寄るはずなのだ。最後に寄った街や村に行って、その勇者の足取りを人に聞く。素晴らしい考えだ。

 でもルル姉がこんな事を考えるのだろうか。ルル姉ならもっと大きな事を考えていそうなのだが。

 「情報収集ってのは合ってる。でも目的地は違うな」
 「違うって……じゃあ他に目指す場所なんてあるの?」
 「あるさ。じゃあ逆に聞くがタクト、情報の集まりやすい場所ってどこだと思う?」
 「情報の、集まりやすい場所?」

 うーんと首を捻って考える。そしてパッと思いついた場所を挙げてみた。

 「酒場?」
 「正解」

 ルルは満足そうに頷いた。……いや、こっちは全然満足出来ないんですけど。

 「だからアタシ達が目指すのは、目指すのは酒場の街、バッカスだ。あそこには世界で一番情報が集まっているって言っても過言じゃねえ。ちまちま勇者を探して街を巡るより、バッカスの方が確実だ」

 そんな事を言ってルルはドヤァと無い胸を張る。というよりバッカスってどこにあるのだろう。僕と同じく、勇者に選ばれるまでろくに村から出た事がなかったルル姉が、色んな街を言っていることに少し寂しく感じる。

 しかしそう思っているのは僕だけの様で、クレアとマーリの二人は不自然に動きを止めていた。

 「え?一体どうしたのさ二人とも。目的地がわかって良かったじゃない」
 「良かった……?良かっただと?」

 マーリが低い声で応えてくれる。いや怖いから。

 「バッカスはマジナルの街から
 「……………マジで?」
 「マジです」

 僕の疑問には、クレアが力強く頷いてくれた。

 「それにマジナルからバッカスまでは中継地点となる街や村が存在していない。野宿はまず確定だろうな」
 「マジで?」

 今度はルル姉が聞く番だった。いや、なんで驚いちゃってるの。行き先決めたのなら知っておいてよ。

 僕は今まで通ってきた道を振り返る。そこに広がるのは草原ばかりで、当然マジナルの街はもう視界には映ってはいなかった。

 「それじゃあ今日はもう……」
 「野宿だな」
 「野宿ですね」

 その答えを聞いたルル姉がガックリと肩を落とす。ルル姉お風呂好きだもんな。多分二日風呂に入らなかったら、段々おかしくなってくるレベル。

 流石にこんな草原にお風呂など存在している訳もなく。僕達は至って普通の野宿をする羽目になった。

 
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