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第三章 才能無しの魔法使い
28 過去の栄光
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教会で行われている話し合い?らしきものはまだ終わりそうになかった。教会の外にいる僕達には中で何を話しているかなど全く聞こえないので、段々と退屈になってきた。途中、ルル姉が喋っている人物の口の動きで、何を話しているか判断する、読唇術という荒技をやりだした。
まぁ結果はあまり芳しいものではなかったのだけれど。
いつまでも教会の窓にルル姉をおんぶをしているとなると、相当の危険人物にしか見えない。ルルを地面に降ろして、僕達はマジナルの街を見てまわる事にした。
「あ、ちょっと待って。ここに寄ってもいいかな?」
街を歩き出して暫くした頃、僕はある店に目が止まった。掛けられた看板には剣と盾のイラストが描かれており、『武具屋』と大きな文字が書かれていた。
「んぁ?何か欲しいもんでもあるのか?短剣ならオマエにそのままやるけど」
「短剣も悪くなかったんだけれど、使い慣れていると言ったらやっぱり片手剣なんだよね」
「タクトは片手剣を使えるんですか?」
「だいぶ昔に使い方を教えてもらったんだよ。あの時は、格好つける為だけに習ったんだけれど、まさか今になって役立つとは…」
僕が片手剣を習った動機は割りと不純だ。数年前にある人から教えてもらったんだ。その人は、いつの間にか村から旅立ってしまっていたのだけれど。
おそらくもう会うことはないのだろうけど、もし会えたのならお礼を言わなきゃ。そんな事を思いつつ、僕は武具屋の扉に手をかけた。
「いらっしゃい」
チリンチリンとベルの音と共に、店主の声が僕達を出迎えてくれた。そして僕達は思わず声を漏らす。
「凄い……」
店内には、見た事も無いような武器や防具がところ狭しと並べられていたのだ。僕達の村やスリプスの村には勿論武具屋など存在しなかった。護身用の武器なら村でも買えない事はなかったのだけれど、ここまでしっかりした武器は売っていない。
僕は真っ先に目についた片手剣に手を伸ばす。
茶色の鞘に主張の少ない緑色の柄だ。柄を握って刀身を鞘から抜き出す。シャァンと鞘と刀身が擦れる音がなる。さらけ出された白銀の刀身は、店内の魔力灯の光を浴びて輝きを増していた。
これが欲しい。僕は直ぐにそう思った。
片手剣自体の重さもそうなく、柄もしっかりと握る事が出来て、手汗などで滑らせる心配もなさそうだ。そして何より、無駄な装飾が無いところがまた良い。片手剣の性能だけを追求させた感じが良く伝わってくる。
僕はすぐさま店主にこの片手剣を持っていく。
「すいません、この片手剣欲しいんですけど」
「その剣を選ぶたぁお目が高い、お客人。ソイツは過度な装飾も無く、特別な性能も無く、ただただ普通という理由で売れ残っていた自慢の一品だ」
売れ残こりなのかよ。しかもこの片手剣を選んでしまう僕のお目が高いなんて明らかに嘘ではないか。だけど、使いやすさで言えば、この片手剣は多分他の剣に引けを取らないんじゃないだろうか。
「それで…いくらなんですか、この片手剣?」
「八千…と言いてぇ所だが、売れ残りを買ってくれたお客人に免じて三千ゴールドで売ろう」
「やっす!凄え安い!そんなんでこの店やっていけるんですか!?」
「安心しな。その片手剣以外はちゃんと定価で売ってある。そもそも八千ゴールドってのも値引きした後の値段なのさ」
この片手剣どんだけ人気ないんだ……。僕は手に収まる剣を半目で見つめた。まぁ安いし、使いやすいし、今の僕にピッタリなので購入を躊躇う理由はない。店主に代金を渡して、正式に片手剣は僕の物となる。
「そういえばこの剣、なんて名前なんですか?」
「ソイツか?ソイツは確か、鋼の剣だったな」
名前まで普通だった。
◆◆◆
武具屋を出た僕達は再び教会へと戻る。因みに武具屋で買い物をしていたのは僕だけで、ルル姉とクレアは武器も防具も購入しなかった。
ルル姉は自分で持ってきている武器が沢山あるからいいんだけれど、クレアは何も装備するものがない。クレアのスキルが強力すぎるので絶対に必要とは言い切れないけれど。
そんなこんなで教会に到着する。
「もう終わってたみたいだな」
ルル姉の言う通り、教会からは大勢が出ていっていた。ちょうど話し合いが終わったタイミングに戻って来れたらしい。僕達は早速、目的の人物を探してキョロキョロと視線を動かす。
「いました」
クレアが人々の中からある一点を指差す。いや、人々の中では正しくない。何故なら彼女の周りにには壁があるかのように、人が寄り付いていないのだから。
モノクルをかけた少女はつまらなそうな顔を崩すことなく歩いてくる。僕達の方へと向かって歩いていたので、そのまま彼女が来るのを待った。
そして彼女が僕達の前へと到着した。最初は避けようとしていたのだが、俯かせた顔を上げるとその場でピタリと止まる。
「君達は…君達も勇者か……」
モノクルの少女がそう言った。身長は意外と高く、僕の目線と同じくらいだ。落ち着いた雰囲気の声音は彼女の人柄を表しているようでもある。
「お察しの通り、アタシ達は勇者だ。アタシ達と旅に出てもらうぞ」
ほぼ断定的な口調でルル姉が言い切る。こういう時のルル姉の頼もしさは異常。
ルル姉にそう言われたモノクルの少女は少し顔を俯かせた。
「確かに私も勇者だが……おそらく今の私では力になれそうにない」
「どういうこと………?」
「アンタは【天才】って呼ばれてたんだろ?」
「そんなものは過去の栄光さ」
寂しがる様な表情でモノクルの少女は言った。その言われた言葉を理解出来ずに僕達はそのまま立ち尽くしてしまった。それに見かねて少女は言葉を続ける。
「魔学についていくら極めても、それはただの知識だよ。私は生まれつき魔力量が少なくてね、生まれてこの方魔法を使えた事が一度もない」
「えっ……それって……?」
「才能無しの魔法使い、人はいつしか私をそう呼ぶようになってしまったよ」
そう言って笑った彼女は、とても悲しい顔をしていた。
まぁ結果はあまり芳しいものではなかったのだけれど。
いつまでも教会の窓にルル姉をおんぶをしているとなると、相当の危険人物にしか見えない。ルルを地面に降ろして、僕達はマジナルの街を見てまわる事にした。
「あ、ちょっと待って。ここに寄ってもいいかな?」
街を歩き出して暫くした頃、僕はある店に目が止まった。掛けられた看板には剣と盾のイラストが描かれており、『武具屋』と大きな文字が書かれていた。
「んぁ?何か欲しいもんでもあるのか?短剣ならオマエにそのままやるけど」
「短剣も悪くなかったんだけれど、使い慣れていると言ったらやっぱり片手剣なんだよね」
「タクトは片手剣を使えるんですか?」
「だいぶ昔に使い方を教えてもらったんだよ。あの時は、格好つける為だけに習ったんだけれど、まさか今になって役立つとは…」
僕が片手剣を習った動機は割りと不純だ。数年前にある人から教えてもらったんだ。その人は、いつの間にか村から旅立ってしまっていたのだけれど。
おそらくもう会うことはないのだろうけど、もし会えたのならお礼を言わなきゃ。そんな事を思いつつ、僕は武具屋の扉に手をかけた。
「いらっしゃい」
チリンチリンとベルの音と共に、店主の声が僕達を出迎えてくれた。そして僕達は思わず声を漏らす。
「凄い……」
店内には、見た事も無いような武器や防具がところ狭しと並べられていたのだ。僕達の村やスリプスの村には勿論武具屋など存在しなかった。護身用の武器なら村でも買えない事はなかったのだけれど、ここまでしっかりした武器は売っていない。
僕は真っ先に目についた片手剣に手を伸ばす。
茶色の鞘に主張の少ない緑色の柄だ。柄を握って刀身を鞘から抜き出す。シャァンと鞘と刀身が擦れる音がなる。さらけ出された白銀の刀身は、店内の魔力灯の光を浴びて輝きを増していた。
これが欲しい。僕は直ぐにそう思った。
片手剣自体の重さもそうなく、柄もしっかりと握る事が出来て、手汗などで滑らせる心配もなさそうだ。そして何より、無駄な装飾が無いところがまた良い。片手剣の性能だけを追求させた感じが良く伝わってくる。
僕はすぐさま店主にこの片手剣を持っていく。
「すいません、この片手剣欲しいんですけど」
「その剣を選ぶたぁお目が高い、お客人。ソイツは過度な装飾も無く、特別な性能も無く、ただただ普通という理由で売れ残っていた自慢の一品だ」
売れ残こりなのかよ。しかもこの片手剣を選んでしまう僕のお目が高いなんて明らかに嘘ではないか。だけど、使いやすさで言えば、この片手剣は多分他の剣に引けを取らないんじゃないだろうか。
「それで…いくらなんですか、この片手剣?」
「八千…と言いてぇ所だが、売れ残りを買ってくれたお客人に免じて三千ゴールドで売ろう」
「やっす!凄え安い!そんなんでこの店やっていけるんですか!?」
「安心しな。その片手剣以外はちゃんと定価で売ってある。そもそも八千ゴールドってのも値引きした後の値段なのさ」
この片手剣どんだけ人気ないんだ……。僕は手に収まる剣を半目で見つめた。まぁ安いし、使いやすいし、今の僕にピッタリなので購入を躊躇う理由はない。店主に代金を渡して、正式に片手剣は僕の物となる。
「そういえばこの剣、なんて名前なんですか?」
「ソイツか?ソイツは確か、鋼の剣だったな」
名前まで普通だった。
◆◆◆
武具屋を出た僕達は再び教会へと戻る。因みに武具屋で買い物をしていたのは僕だけで、ルル姉とクレアは武器も防具も購入しなかった。
ルル姉は自分で持ってきている武器が沢山あるからいいんだけれど、クレアは何も装備するものがない。クレアのスキルが強力すぎるので絶対に必要とは言い切れないけれど。
そんなこんなで教会に到着する。
「もう終わってたみたいだな」
ルル姉の言う通り、教会からは大勢が出ていっていた。ちょうど話し合いが終わったタイミングに戻って来れたらしい。僕達は早速、目的の人物を探してキョロキョロと視線を動かす。
「いました」
クレアが人々の中からある一点を指差す。いや、人々の中では正しくない。何故なら彼女の周りにには壁があるかのように、人が寄り付いていないのだから。
モノクルをかけた少女はつまらなそうな顔を崩すことなく歩いてくる。僕達の方へと向かって歩いていたので、そのまま彼女が来るのを待った。
そして彼女が僕達の前へと到着した。最初は避けようとしていたのだが、俯かせた顔を上げるとその場でピタリと止まる。
「君達は…君達も勇者か……」
モノクルの少女がそう言った。身長は意外と高く、僕の目線と同じくらいだ。落ち着いた雰囲気の声音は彼女の人柄を表しているようでもある。
「お察しの通り、アタシ達は勇者だ。アタシ達と旅に出てもらうぞ」
ほぼ断定的な口調でルル姉が言い切る。こういう時のルル姉の頼もしさは異常。
ルル姉にそう言われたモノクルの少女は少し顔を俯かせた。
「確かに私も勇者だが……おそらく今の私では力になれそうにない」
「どういうこと………?」
「アンタは【天才】って呼ばれてたんだろ?」
「そんなものは過去の栄光さ」
寂しがる様な表情でモノクルの少女は言った。その言われた言葉を理解出来ずに僕達はそのまま立ち尽くしてしまった。それに見かねて少女は言葉を続ける。
「魔学についていくら極めても、それはただの知識だよ。私は生まれつき魔力量が少なくてね、生まれてこの方魔法を使えた事が一度もない」
「えっ……それって……?」
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そう言って笑った彼女は、とても悲しい顔をしていた。
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