ゆうしゃのあゆみ

秋月 銀

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第三章 才能無しの魔法使い

26 三人だから

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 僕達は新しくクレアを旅のメンバーに加えて、スリプスの村を出発した。クレアが旅に出ると決めて、村の出入り口へ行くと、村人がほとんど全員大集合。涙無しでは語れない旅立ちとなった。

 そんな訳で僕とルル姉に挟まれて歩くクレアはグスグスと鼻を鳴らしていた。さっきまで泣いてたせいで目元も赤いし、涙を拭った袖はまだ濡れたままだ。

 「………………クレア、さん?」
 「クレアで……いいです」
 「じゃあクレア」

 僕がそう声をかけると、正式に呼び捨ての許可を頂いた。なら遠慮なく呼ばせてもらおう。

 「本当に僕達と旅に出て良かったの?」

 僕はクレアにそう問うた。既に村から連れ出しておいて言うのも何だけど、そう聞かずにはいられなかった。

 僕は昨日の死闘を思い出す。死の牙デスファングとの、文字通り命を賭けた闘いを。快勝なんてものじゃなく辛勝だったけれど、それでも僕達はあの大猪を倒した。クレアの恐怖の源であった奴を倒したのはいいけれど、なんだか旅の参加を勢いで決めたように思えて仕方がない。

 だけど、討神祭を本気で勝ちにいくには、クレアの力が必要不可欠なんだ。心の中でモヤモヤとしたものが渦巻く。そんな気持ちの悪い感情を払拭する為に、僕は問うた。

 クレアは暫く俯いた後、パッと顔を上げる。

 「私にはやらなければならない事があります」
 「……?」

 何の事について言っているのかわからなかったのだけれど、あえて追求することはせず、黙って続きを促した。

 「いなくなったお母さんを探さなきゃいけないし、あの黒いローブの集団の正体をハッキリさせて一言物申さなきゃいけないし、ルルをしっかり見てなきゃいけないし、それに…」
 「アタシは別にガキじゃないんだが」

 見た目ガキのルル姉が反論する。僕の思考でも読んだのか、ルル姉が恐ろしい形相でこちらを睨んで来たので視線を逸らすのに精一杯だ。

 「それに、勇者としての使命を果たさなきゃいけません」

 凛とした表情で、彼女はそう言った。涙の跡が残る顔には、揺るぎない決意が浮かんでいる。僕はフッと笑った。

 こんな質問、問うまでもなかったな。

 再び前を向いて歩き出す。僕達は今、スリプスの村の神父から聞いた、ここから割りと近い、マジナルという街を目指して歩いている。そこに次なる勇者がいるのだ。ただこの勇者、勇者に選ばれたその日から、この街から離れた様子がない。

 次の勇者も引きこもりか……。そう思うと溜息が溢れた。それを見たクレアが歩きながら、僕の顔を下から覗き込むようにしてみる。

 「………そんな溜息ついてどうしたんですか」
 「いや、ただこの先が不安になってただけだよ」
 「大丈夫ですよ。きっとなんとかなります」
 「…クレアってそんな前向きだったっけ?」

 どういう意味ですか、とクレアはそのほっぺたをぷくぅと膨らませた。だが、すぐに空気を吐き出して、数歩僕達の先ヘ進んだ。

 そしてその場でクルリと回る。

 ふわりと舞う、銀髪に思わず目を奪われた。だがそれ以上に━━━━

 「私達は一人じゃありません。三人だから大丈夫です」

 そう言ってクレアはニコリと笑う。その笑顔が、とても魅力的に見える。柄にもなく顔が熱くなってしまう。だから僕はその熱さを誤魔化す為に、早足になって歩いた。
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