ゆうしゃのあゆみ

秋月 銀

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第二章 引きこもりの少女

19 二人の会話

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 タクトと魚人型魔物の戦闘より時は数十分程前に遡る。

◆◆◆

 「それじゃあ、こっからは女同士で話といこうぜ」
 「え?ルル姉。じゃあ僕は?」
 「とりあえず部屋には近寄るな。デイブさんにもそう伝えてといてくれ」
 「何を勝手に決めているんですかー!」

 しかし、クレアの声が外に届く前にルルは部屋の扉を締めていた。

 ルルは部屋の中を改めて見回す。床に敷かれた絨毯じゅうたんは薄いピンク。中央には可愛らしい猫の絵が描かれている。部屋の隅にはタンスとクローゼットが並べて置かれており、タンスの上には女の子らしい小物が並べられていた。タンスやクローゼットとは反対側の部屋の隅には、クレアには少し大きいであろうベッドが設置されていた。枕元には猫や兎などの人形が沢山置かれていた。

 ルルは自身の部屋とのあまりの違いに鼻を鳴らした。

 「ハッ」
 「なんで今鼻で笑ったんですか!?」

 ルルは部屋に居ること自体が少なかった。暇があれば外に出てタクトや他の子供達と遊んでばかりいたのだ。勇者に選定される前日までその様な生活を続けていた。だからあまり部屋に執着がない。

 村の子供達の中ではルルが最年長であった。同年代と言えるのもタクトしかいなかった。だからルルにとって、同年代の女子の部屋に入る体験は今日が初めての事である。

 それにしても、自分の年頃の女子なら部屋をこんなに飾りつけるものなのか。自分の部屋にはベッドと衣類を入れるタンスくらいしか家具はない。子離れがいつまでも出来ない父親が何かと、家具を購入してきてくれるのだが、そこまで必要に感じなかったので母親にプレゼントした。

 村に同年代の女子がいないのはクレアも同じだったが、彼女の場合は外で遊ぶより、家で家事を手伝う事の方が好きな子供であった。その為か部屋の飾りつけはごく自然に行っていた。

 「…あまりジロジロと見ないで下さい」

 クレアがルルの視界を遮る様に立ち塞がった。頬がほんのりと赤い。多分、恥ずかしいのだろう。

 「いい趣味してんじゃねぇか」
 「それ褒めてるんですよね」

 ルルとしては素直に褒めたつもりだったのだが、皮肉として解釈された様だ。タクトだったら普通に伝わっていたのに、とルルは思う。

 女子にしては荒い言葉遣いだとは自分でも思っているのだが、今更そう簡単に治せないし、治すつもりも無かった。

 「まぁいいや。適当に座らせてもらうぞ」
 「………ご勝手にどうぞ」

 渋々といった風に了承してくれたので、ベッド脇に置いてあった椅子にストンと腰を下ろす。

 「早くアンタも座れよ」
 「ここ、私の部屋なんですけど……」

 それでもクレアはベッドに座った。意外と律儀である。お互い向き合って座るのではなく、視線はそれぞれ別の方を向いている。

 ルルは膝の上に肘を乗せて頬杖をつく。

 「なぁクレア」
 「え?あ、はい」

 名前を初めて呼んでもらえて、ちゃんと覚えてくれたのかとクレアは安堵の溜息をついた。だが、次のルルの言葉は予想していなかった。

 「アンタはマンドラゴラ好きか?」
 「は?マンドラゴラ……ですか?」
 「ああ、そうだ」
 「あのジタバタ暴れて、猿轡されていつも叫んでいる植物の事ですよね?」
 「その植物の事だ」

 何を狙った質問なのかがさっぱりわからない。マンドラゴラは知識としては知っている。今までに食べた事はないのだが。

 「私食べた事が無いんですよね」
 「なにっ!それは勿体ねぇ!」
 「勿体無い……ですか」

 正直グロテスクである。クレアは村の市場で初めてマンドラゴラを見た時の事を思い出していた。ジタバタと暴れて回って逃げ出そうとしている様に見える。一瞬合った視線には、殺意レベルの何かが宿っていた。

 別に食べなくても勿体無くは無い。クレアはルルにそう伝えると露骨にガッカリした顔をする。

 「なっ、なんでそんな顔をするんですか」
 「食わず嫌いとはまさにこの事だと痛感している最中だ」
 「……じゃあ逆に聞きますけど、本当に美味しいんですかアレ?」
 「ああ美味いな。揚げても焼いても美味いが、アタシとしてはやっぱり刺身をオススメするな」

 ルルがそう言うと、クレアは明らかに嫌そうな顔になる。

 「植物の刺身って何なんですか……」
 「アタシも最初はそう思ったんだがな。これが食ってみると美味い。そんな事は考えなくなる」
 「そんな怪しげな食べ物より、私のお父さんの料理の方が美味しいです」
 「そうかぁ…?まぁ確かに美味かったけどな」
 「そうでしょうそうでしょう」
 「じゃあクレアは一番何が好きなんだ?━━━━」

 いつしかは二人は時間を忘れて話こんでいた。

 村に同年代の女子がいなかったクレアにとっても、ルルと話すこの機会を楽しんでいたのだ。

 二人は世間話のようななんでも無い話をタクトが帰って来る時まで続けていた。
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