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第二章 引きこもりの少女
17 湖にまで行ってすること
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ルル姉から部屋に近づくなと言われたので、デイブさんにもその旨を告げ、僕は家を出た。今回は村の市場に行く訳ではない。けれど、市場の肉屋に寄って少しばかりのクズ肉を安くで売ってもらう。
今日の僕の目的は村の外に出て、神様から教えられた【スキル】を試す為だ。バックパックの他に、ルル姉から借りっぱなしの短剣もちゃんと持ってきている。
肉屋から村の市場を駆け足で走り抜け、スリプスの村の出入り口に辿り着いた。ここから北西の方……僕達の村の方を見てみると、視界には森が広がっていた。とは言ってもこの村から森まで軽く一キロは離れている。森までの間は全て平原なのだけれど、死の牙が森から出てきた時、この村は良い的になってしまうのでは?とスリプスの村人に尋ねた所、奴はあの森に完全に住み着いているので、一切出てこないらしい。森の中だけで食欲を満たす事が出来ているのだろう。そうでなければ今頃森から出てきているはずだ。
森を眺めていると昨日の死の牙に襲われた事を思い出す。初めて恐怖で体が動かなくなって、初めて死ぬ程痛いという感覚を理解した。………暫く森には近づきたくない。
結局はスキル【危機予知】のお陰で命拾いをした。したのか?僕としては死ぬ体験を無駄に経験させられただけにも思える。まぁそんな事にならない様に今日は森に立ち入るつもりはない。僕は森と反対方向を見る。
僕の立つ場所から百メートル程先。そこにはそれなりに大きな湖があった。
僕はその湖を目指して歩き始める。
◆◆◆
「凄い……!こんなに綺麗だったのか!」
数分もかからず到着した、湖のほとりに立って僕は声を漏らした。
水面には朝日が反射してキラキラと輝いている。湖の透明度は高く、底まで覗く事が出来た。湖の深さは大体五、六メートルといったところか。夏場で泳ぐにはちょうど良いだろう。
袖を捲くって腕を水に浸した。キリリとした冷たさを感じる。それもそうか。まだ春になったばかりなのだから。
僕はこの湖に遊びに来た訳ではない。バックパックから、安く買ったクズ肉を取り出す。一応袋に包んでもらったのだが、少しバックパックに臭いがついている感じがする。………まぁその内、気にしなくなるだろう。
取り出した肉を半分くらいに分ける。半分を水際に設置。もう半分はさらに崩して、撒き餌の如く湖へと撒いた。
勿論これは魚への餌ではない。湖や川など、水場に生息している肉食の魔物を誘き寄せる為だ。
するとバチャバチャと水面が激しく音を立て始める。そろそろ来るかな━━━━。魔物が姿を見せる前に、僕は短剣を抜いておいた。
注意深く、水際のクズ肉をと水面を見つめる。暫くすると水面の荒れが収まった。一瞬の静寂の後、それは勢い良く湖から飛び出した魔物によって破られた。
それは僕と同じくらいの大きさだった。巨大な魚のシルエットだが、その尾びれ付近には明らかに似つかわしくない人間の様な足が二本生えている。胸びれの代わりに生えているのも腕。指の先には立派な水掻きがついている。
その魔物はテシッと音を立てて器用に着地した。そして直ぐにクズ肉に食らいつく。食べる時は腕は使わず口だけで食べている。時折覗く口元にキラリと鋭い歯がその顔を覗かせていた。
鱗も腕も足も全体的に青い。水生の魔物だからなのだろうか。
そんな魚人型の魔物をこの世界では「サカナン」と呼んでいる。ネーミングセンスの欠片も存在しない名前だ。
食事を終えたサカナンはこちらにやっと気がつく。クルルクルルと不思議な鳴き声を鳴らす。
僕はサカナンに短剣を向けた。これから僕は一人でこの魔物と対峙する。今までの戦闘は全部ルル姉任せだったからこそ、これが僕にとっての初戦闘と言えるだろう。
自分が今から襲われると感づいたのか、サカナンはあからさまな敵意を僕にぶつけてくる。今までの僕なら、ビビっていたのかもしれないが今日の僕は一味違う。
キラリと太陽の光を浴びた輝石がその輝きを増した。
神様に与えられた【ハイスキル】……どんなものなのか試させてもらおう。
短く息を吸って、吐く。
それと同時に僕はサカナンへと斬りかかった━━━━!
今日の僕の目的は村の外に出て、神様から教えられた【スキル】を試す為だ。バックパックの他に、ルル姉から借りっぱなしの短剣もちゃんと持ってきている。
肉屋から村の市場を駆け足で走り抜け、スリプスの村の出入り口に辿り着いた。ここから北西の方……僕達の村の方を見てみると、視界には森が広がっていた。とは言ってもこの村から森まで軽く一キロは離れている。森までの間は全て平原なのだけれど、死の牙が森から出てきた時、この村は良い的になってしまうのでは?とスリプスの村人に尋ねた所、奴はあの森に完全に住み着いているので、一切出てこないらしい。森の中だけで食欲を満たす事が出来ているのだろう。そうでなければ今頃森から出てきているはずだ。
森を眺めていると昨日の死の牙に襲われた事を思い出す。初めて恐怖で体が動かなくなって、初めて死ぬ程痛いという感覚を理解した。………暫く森には近づきたくない。
結局はスキル【危機予知】のお陰で命拾いをした。したのか?僕としては死ぬ体験を無駄に経験させられただけにも思える。まぁそんな事にならない様に今日は森に立ち入るつもりはない。僕は森と反対方向を見る。
僕の立つ場所から百メートル程先。そこにはそれなりに大きな湖があった。
僕はその湖を目指して歩き始める。
◆◆◆
「凄い……!こんなに綺麗だったのか!」
数分もかからず到着した、湖のほとりに立って僕は声を漏らした。
水面には朝日が反射してキラキラと輝いている。湖の透明度は高く、底まで覗く事が出来た。湖の深さは大体五、六メートルといったところか。夏場で泳ぐにはちょうど良いだろう。
袖を捲くって腕を水に浸した。キリリとした冷たさを感じる。それもそうか。まだ春になったばかりなのだから。
僕はこの湖に遊びに来た訳ではない。バックパックから、安く買ったクズ肉を取り出す。一応袋に包んでもらったのだが、少しバックパックに臭いがついている感じがする。………まぁその内、気にしなくなるだろう。
取り出した肉を半分くらいに分ける。半分を水際に設置。もう半分はさらに崩して、撒き餌の如く湖へと撒いた。
勿論これは魚への餌ではない。湖や川など、水場に生息している肉食の魔物を誘き寄せる為だ。
するとバチャバチャと水面が激しく音を立て始める。そろそろ来るかな━━━━。魔物が姿を見せる前に、僕は短剣を抜いておいた。
注意深く、水際のクズ肉をと水面を見つめる。暫くすると水面の荒れが収まった。一瞬の静寂の後、それは勢い良く湖から飛び出した魔物によって破られた。
それは僕と同じくらいの大きさだった。巨大な魚のシルエットだが、その尾びれ付近には明らかに似つかわしくない人間の様な足が二本生えている。胸びれの代わりに生えているのも腕。指の先には立派な水掻きがついている。
その魔物はテシッと音を立てて器用に着地した。そして直ぐにクズ肉に食らいつく。食べる時は腕は使わず口だけで食べている。時折覗く口元にキラリと鋭い歯がその顔を覗かせていた。
鱗も腕も足も全体的に青い。水生の魔物だからなのだろうか。
そんな魚人型の魔物をこの世界では「サカナン」と呼んでいる。ネーミングセンスの欠片も存在しない名前だ。
食事を終えたサカナンはこちらにやっと気がつく。クルルクルルと不思議な鳴き声を鳴らす。
僕はサカナンに短剣を向けた。これから僕は一人でこの魔物と対峙する。今までの戦闘は全部ルル姉任せだったからこそ、これが僕にとっての初戦闘と言えるだろう。
自分が今から襲われると感づいたのか、サカナンはあからさまな敵意を僕にぶつけてくる。今までの僕なら、ビビっていたのかもしれないが今日の僕は一味違う。
キラリと太陽の光を浴びた輝石がその輝きを増した。
神様に与えられた【ハイスキル】……どんなものなのか試させてもらおう。
短く息を吸って、吐く。
それと同時に僕はサカナンへと斬りかかった━━━━!
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