ゆうしゃのあゆみ

秋月 銀

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第二章 引きこもりの少女

15 使える物はマッチ一本

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 「前にも言っただろう。君には無限の可能性が広がっていると。君は、成ろうとさえ思えば何にだって成れる可能性を秘めているのだから」

 その言葉が僕の心を熱くする。勇者に選ばれたあの日、まさか勇者になれるだなんて思ってすらいなかった。他の皆もきっとそう思っているんだろうと決めつけていた。だが、実際はそうではなかった。

 僕が勇者となった事に誰も疑問は抱いていなかった。僕が勇者に選ばれたのは当たり前だとすら、母さんは言ってくれていた。でもどこかで、負い目を感じていたのだろう。本当にこんな僕が勇者に選ばれて良かったのか。

 結局、自分が勇者であることを疑っていたのは自分自身だったのだろう。

 でもその疑問は吹き飛んだ。神様の言葉が染み込むようだ。僕はちゃんと勇者なんだ。その確信を今はしっかり抱く事が出来ている。

 【可能性の勇者】であると胸を張って言える。

◆◆◆

 「━━━━これが君に与えた【ハイスキル】だ、【集中の勇者】」
 「………………なるほどな」

 その後、ルル姉にも与えられていた【ハイスキル】を神様から聞いた。それも勿論、ルル姉の称号である、集中に繋がるモノであった。ルル姉もなんだか嬉しそうにしている。珍しく頬を朱色で染め上げていた。確かにわくわくする気持ちは良くわかる。

 しかし、と神様が言葉を発した。

 「当たり前だがデメリットがある」

 その言葉に浮かれていた僕達はピシッと固まった。デメリットって当たり前に存在するものなのか。

 「君達に与えた【ハイスキル】、私が君達の為だけに作成した、いわば特徴のモノというのは理解出来るだろう」

 僕達は頷きを返す。

 「一応人類でも扱える様にと作成してはいるが、やはりどの【ハイスキル】も強力なもので、人類が保有する魔力量ではまず発動すら出来ない」
 「なっ……!」
 「それじゃあ、アタシ達は与えられてるだけで使用する事は出来ない、と?」
 「普通ならば。しかし今の君達にはソレがある」

 そう言って神様が指差すのは輝石。神様が言わんとする事を察して「あっ」と声が漏れる。

 「説明したな、と。【ハイスキル】の発動には私の魔力を使用する必要がある」
 「発動の問題はこれでクリアって訳か………」
 「じゃあデメリットというのは?」
 「輝石に組み込める魔力量にも限界がある。いくら神である私の魔力とは言え、輝石の魔力だけでは、一回の【ハイスキル】使用で全てを使い尽くしてしまうのだ」

 全てを使い尽くしてしまう。それはつまり━━━━

 「【ハイスキル】使用後の【スキル】の使用は不可能になるんですね…」

 【スキル】も僕達オリジナルだとは言っても、神様の魔力を使用しない事には発動出来ない。つまり、一回の使用で全ての魔力を使い尽くす【ハイスキル】と【スキル】の併用は出来ないのだ。

 「ああ。そしてその逆もしかり。【スキル】で少しでも私の魔力を消費してしまえば、【ハイスキル】に使用する魔力量より減ってしまう。輝石に組み込んである最大の魔力量がそのまま【ハイスキル】使用の魔力量だと考えてもらって構わない」
 「それは……また面倒な仕組みだな。せめて消費魔力量を減らすとか出来なかったのかよ」
 「人類が私と闘う為にはこれくらい強力なモノじゃないといけなくてね。これでもだいぶ燃費が良い方なのだが」

 燃費が良くても僕達人類には、到底発動出来ない魔力を消費するのか……。改めて神様の格の違いとやらを突きつけられる。

 だけど、こんな小さな輝石にそれ程の魔力が詰まっていると考えると不思議だ。掌ですくうように持ち上げた輝石は、一段と光輝いて見える。

 「それじゃあ【ハイスキル】を使った後はどうするんだよ。ホントに一回こっきりしか使えないって事はないんだろ?」 
 「勿論。時間経過で魔力は回復していく。それでも完全に戻るまで半日はかかるだろうがね」
 「半日………」

 それはとても長く感じられた。強力であるが故のデメリット。切り札でありつつ、諸刃の刃でもあるというのか。

 使いどころを間違えてはいけない、と心に刻んでおく。特に僕のは、使い勝手が良すぎるから、直ぐに頼ってしまいそうだ。

 「とまぁ、【ハイスキル】のデメリットについてはこんな感じだ。後、【ハイスキル】は唯一無二だが、【スキル】はそうではない。君達のオリジナルだからこそ、好きに創り出す事が出来る。どんな能力なのか、どれだけ創るのかも自由だ。全ては私の魔力の使い用ということだな」

 僕は殆ど無意識の内に【危機予知】を創っていたという訳か。確かにあの【スキル】がなければ、あの死に様は本当に起こっていたのかもしれない。

 だが、実際にはそうはならなかった。起こっていたかもしれない未来の可能性を見る事で現実での死を回避できた。とことん【スキル】というのがどれだけ凄いのかが理解できる。

 「夜ももう遅くなってきている。時間はまだ大丈夫なのか」

 神様にそう言われて、ふと教会の窓に視線を移すと、僕達がやってきた頃より確実に暗くなっていた。聞きたい事は聞けたし、それ以上の事も知れた。今日はこの辺で終わりにしよう。

 ルル姉をチラッと見ると、ちょうど視線が合った。同じ事を考えていたのか。ルル姉は頷く。

 「それじゃあ神様、今日はありがとうございました」
 「またなんかあったら呼ぶからな」
 「ああ……討神祭で私を倒して見せてくれ。の為に」
 「………………?」

 なんだか含みのある言い方だったのだけれど、これ以上神様の時間を取らせるのも悪いと思い、追求はしない。僕がペコリとお辞儀をして、顔を上げる頃には既に魔水晶から神様の姿は消えていた。

 神様と話す準備をしてくれた神父にお礼を言って、僕達は教会から出た。

◆◆◆

 デイブさんの家までの帰り道。道は覚えているけれど、辺りは既に黒一色だった。何も見えない。

 「ルル姉、何か灯りになるもの持ってないの?」
 「んぁ?何も持ってなかった気がするんだが………………おっ、あったぞ」
 「え?ホントに持ってたの?」

 教会まで僕達は手荷物を何も持ってない状態で来ていたので、特に期待をしていない質問だったのだけれど、ルル姉はどうやら灯りになるものを持っていたようだ。非常に助かる。

 ルル姉がポケットから取り出したのは一本のマッチ棒だった。

 「何故マッチ棒が……」
 「デイブさんと料理してる時、火起こしで使ったからな。そん時にでも入ったんだろ」

 僕は数歩先も見えない暗闇を見つめる。

 「マッチ一本で、家までもつかな」
 「無理だな」
 「そりゃそっか」

 僕達は大人しく教会に引き返して、ランタンを借りて帰った。
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