ゆうしゃのあゆみ

秋月 銀

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第二章 引きこもりの少女

14 僕という勇者の可能性

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 「それじゃあ、神父の代わりに私から説明しよう。【スキル】とは何たるかをね」

 こうして神様によるスキル講義が始まった。

 「まず第一に【スキル】とは、私が君達人間に与えた能力や技能の事を総称してそう呼ぶんだ。ただ先程も言った通り、スキルは誰にでも与えられる訳ではなく、私が選定した勇者のみに与えている」
 「じゃあどのタイミングで与えたんだよ。全く気が付かなかったぞ」

 ルル姉が横から疑問を挟む。神様相手にくらい敬語を遣ってほしいものだが、ルル姉にとっては今更な話だろう。

 ルル姉の言葉を聞いた神様はスッと僕達を指差す。いや、正しくは僕達の顔の少し下辺り。輝石を指している。

 「その輝石を渡した時さ。その輝石には神聖文字ヒエログリフが刻まれている事は既に知っているだろう。それには私の魔力が組み込まれている」
 「するとつまり?」
 「【スキル】そのものを直接与えた訳ではないよ。【スキル】とは、君達自身の魔力と私の魔力とが混ざり合って発動する、魔法の一種と捉えてもらっても構わない」

 スキル発動には神様の魔力を使用する。という事は………………

 「スキル、というのは神様の能力の一部なんですか?」
 「それは違うな。私は魔力を君達に与えただけで、発動するスキル自体は君達自身のものである。つまりは、オリジナルだ」
 「輝石の神聖文字ヒエログリフに魔力を組み込んでるって事は、輝石さえ持ってりゃスキルを使えるんだろ?じゃあアタシとタクトで輝石を交換した場合、アタシ達は変わらずにスキルってヤツを使えるのか?それともアタシがタクトのスキルを、タクトがアタシのスキルを使えるようにはなったりしないのか?」

 ルル姉のその疑問は僕も知りたかった所だ。もし、別の勇者の輝石を持ったのならば、その勇者のスキルが使えるようになるのだろうか。もしそうならば、一人が七人分の輝石を持った方が確実に強いはずだ。

 しかしこの問には、神様は首を横に振って応える。

 「もし君達が輝石を交換した場合【スキル】は発動しない。知っているかもしれないが、君達に渡した輝石の内部の神聖文字ヒエログリフはそれぞれ違う文字を刻み込んである。これは正しい輝石の所有者しか、私の魔力を起こせない様な仕掛けを施してある為だ。神聖文字ヒエログリフに組み込んだ魔力自体は同一のモノだがね」

 なんとなくだがわかってきた。【スキル】とは神様と僕達の魔力で発動する魔法の様なモノであり、輝石を渡された本人しか神様の魔力を起こす事は出来ない。勇者間で輝石の譲渡や交換は全く意味を成さないって訳か………。

 ふと頭にクレアの事がよぎる。これで彼女を確実に連れ出さなければならなくなった。彼女に与えられた【スキル】は彼女にしか使えないのだから。

 「じゃあ昼間にタクトが見た現象みたいなのもその【スキル】の一つってことだな」
 「ああ、その通りだ。君のその【スキル】は【危機予知】とでも名付けておけばいい」

 【危機予知】、か。確かにアレは命の危機ではあった。しかし随分と使い勝手の悪い【スキル】のように思える。名前からして危機しかわからないみたいじゃないか。

 「神様は、僕のその……【危機予知】?の発動のタイミングとか詳しい内容とかは、わかるんですか?」
 「済まないが、私の魔力と君達の魔力で発動する【スキル】は完全オリジナルだ。私にもそれはわからないよ。使用を重ねて、少しずつでも理解をしていってくれ」

 僕はガックリと肩を落とした。じゃあ結局、あの現象━━━もとい【危機予知】についてはいまいちよくわからかが結論という事か。まぁそれが【スキル】なんだとわかっただけでも収穫はあったか。

 「ちょっと待ってくれ神様」

 ルル姉が声を上げた。

 「どうかしたのか少女よ」
 「さっきのアンタの言い方じゃ、まるで【スキル】には種類があるみたいじゃねぇか」

 何を言っているのかと思ってルル姉を見てみると、ルル姉の表情は真剣そのものだった。
 ルル姉の発言に、先程の神様の言葉を思い返す。

 『済まないが、完全オリジナルだ。私にもそれはわからないよ。使用を重ねて、少しずつでも理解をしていってくれ』

 確かに、神様の魔力と僕達の魔力で発動しない【スキル】があるかの様な言い方だ。

 僕はバッと視線を神様に移した。すると神様はそれこそが本題だと言わんばかり笑みを深める。

 「よく気がついた【集中の勇者】。いや、君だからこそ気がつけたのかな」
 「そんなん注意してれば誰でも気がつくだろ」

 なぁ?とルル姉がこちらを見てきたので、もちろんさぁ!と頷いておく。本当は気がついていなかったのだけれど。

 「アタシが気がつかなかければ、最後まで黙っておくつもりだったんじゃねぇのかよ」
 「しかし君は気がついたじゃないか【集中の勇者】」

 いけしゃあしゃあと言ってのける神様。ルル姉の言葉を否定しなかったって事は、気がつかなければ本当に黙っておくつもりだったのだろう。

 「君の言う通り、【スキル】には私と君達の魔力で発動するオリジナルのモノともう一つ存在する」
 「そのもう一つってのは?」
 「それは━━━━私が君達の為だけに新たに作成した【スキル】の事だ」
 「僕達の為だけに……?」

 ああ、と神様は大きく頷く。

 「そしてその【スキル】こそが、君達の勇者の称号に繋がる所以ゆえんでもある」

 神様のその言葉は衝撃だった。確かに【危機予知】を使えるから【可能性の勇者】というのはおかしいと思っていた。僕は神様から「無限の可能性が広がっている」と言われていたのだから。

 「私が君達をその称号の勇者として選んだのは、勿論君達がその分野において他の人類より優れていたからだ。だが、他の人類より優れているだけではわたしには到底敵う事はない」
 「それは……」

 否定は出来ない。そもそも討神祭でさえ神様のでしかないのだ。神様が僕達人類と闘うのは、あくまでただの暇潰し。神様と人類には埋める事の出来ない大きな溝が広がっているのだから。

 神様は続ける。

 「だからこそ、私は君達勇者に【スキル】を与える。他の人類より優れている人類から、私に至らんとする人類にまで昇華させる為に。私はそのスキルを通常のモノと区別する為に【ハイスキル】と呼んでいる」

 ドクン…と鼓動が体を打つ。熱を持った血液が体を巡るのが感覚で理解できた。気持ちが昂ぶってくる。この感覚は、勇者になったあの日を思い出させた。

 【ハイスキル】とは神様へ至る為の人類の手段でもあるのか。

 「【可能性の勇者】タクト」
 「……はっはい!」

 初めて神様に名前を呼ばれた。そのせいか、反応が少し遅れる。

 「私が君に与えた【ハイスキル】。それは君の無限に広がる可能性を実現させる為に作成した━━━━その名を【勇者招来】という」
 「勇者…招来…」

 僕に与えられた【ハイスキル】。その名前を反復する。

 「【勇者招来】は君という勇者にというものだ」

 驚きで声が出ない。神様の言っている事はつまり、僕は。そう言っているのだ。

 鳥肌が立つ。武者震いが起こる。自分の意志とは無関係に口角はつり上がる。

 つまり僕が、【可能性の勇者】と呼ばれるに至った所以とは━━━━!

 「前にも言っただろう。君には無限の可能性が広がっていると。君は、成ろうとさえ思えば何にだって成れる可能性を秘めているのだから」

 そう言った神様も僕を見つめて微笑んでくれていた。
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