ゆうしゃのあゆみ

秋月 銀

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第二章 引きこもりの少女

8 犠牲はスライム

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 ポヨンポヨン。プニュンプニュン。ボヨンボヨン。プニュプニュ。

 そんなヘンテコな音を鳴らす何かが、僕達の前を通り過ぎようとしていた。

 「タクト…アレって………」
 「スライム、だよね」

 スライム。

 この世界に存在する中で、最大の個体数を誇る魔物だ。見た目は丸いゼリー。カラーバリエーションは多種にわたる。大きさはまちまちで子供の頭程のモノもいれば、大人サイズのスライムも生息している。戦闘能力はほぼ皆無。冒険初心者に優しい魔物となっております。

 僕達の目の前にいたのは黄色のスライム。大きさは精々僕の腰あたり。ルル姉にしてみれば、胸元の少し下辺りまでの大きさしかない。

 ボールが跳ねる様に、全身を使ってスライムはポニョンポニョンと移動する。

 「倒すか?」
 「そうだね。魔物だしね。初陣にはふさわしいよ」

 僕達はスライムが視界に入った時には既に武器を装備していた。ルル姉は弓矢を、僕はルル姉から借りた短剣をそれぞれ装備している。

 割りと闘う気まんまんのこちらと比べてスライムはのんびりとしている。これから襲われるとは思っていないのだろうか。

 確かに、スライムは目や鼻といった目立った感覚器官は存在しない。そのため、見つかったのか見つかっていないのか判断に困る魔物だ。
 エサは植物、繁殖方法は分裂。なんだか害が無い魔物だ。

 しかし魔物は魔物なので、討伐させて頂こう。さらばスライム。僕の糧となれ。

 数メートルの距離を走って詰める。右手だけで握った短剣を上段に構え、振り下ろす。

 ぬぷ…とスライムの体内に僕の右手首ごとめり込んだ。

 「え、ええええええ!!」

 なんだなんだなんなんだこの状況!

 めり込んでる!僕の右手首めり込んでる!しかしスライムは気にした様子もなくポヨンポヨンと跳ねる。僕はそれに引っ張られてしまう。

 「何やってんださっさと引っこ抜け!」
 「そうだね……っと!」

 あっさり引っこ抜けた。僕の右手首から先は、得体の知れない粘液にまみれていた。なんだかショックだ。

 右手をブンブン振って粘液を落とす。ふとルル姉の方を見ると、片膝を着いて矢をつがえていた。なんだか様になっている。

 「ルル姉、スライムの倒し方わかるの?」

 思い切り打ち込んだ短剣も、威力を殺されて体内にめり込むだけなのだ。正直、弓矢だからといって倒せるとは思わない。

 しかしルル姉はフンっと鼻を鳴らしてドヤ顔になる。

 「村長が言ってただろ?全ての魔物には、魔力が集中している【核】があるんだと。どんな魔物でもコイツをやられりゃ一発らしい」
 「そうか……つまり弓矢でその核を撃ち抜くと」
 「そういうこったな」
 「でも核の場所はわかってるの?」
 「スライムの体内を良く見てみろ。中央に妙に黒い物体が浮いてるだろ?」

 そう言われてスライムを今一度じっくり観察する。………………確かに、半透明の体の中央にはゴツゴツした石の様なモノが浮いている。大きさは僕の握り拳くらいはある。

 しかし、スライムとルル姉の距離は十数メートルは離れてしまっている。この距離で、拳大の核を撃ち抜けるのか……?

 僕の疑問が顔に出ていたのか、一度こちらを見てきたルルはニヤリと笑った。

 「安心しろよ。アタシは【集中の勇者】だ。アタシと弓矢の組み合わせは━━━━すこぶる相性が良い」

 言い終わらない内に放たれた矢は、一直線に核めがけて飛んでいく。

 数秒もかからずに矢はスライムと接触した。勢い良くスライムの体内に入り込んでいく。だが、やはり矢は減速してしまう。

 それでも、矢は核を撃ち抜いた。

 パキッと乾いた音が響いた直後。断末魔すら発せないスライムは灰となって消えていった。

 「………………………」
 「………………………」

 初めての魔物討伐が終わっても、僕達は一言も発せないでいた。

 思い返されるのはポヨンポヨンと愛くるしい音で跳ねていたスライム。まん丸い形をして柔らかそうな体で、有り余る元気を見せつけるかのように跳ねていたスライム。それが次の瞬間、瞬きの暇もなく灰へと変わっていた。

 「スライムは次から倒さないようにしよう………………」
 「………そうだな」

 なんだか罪悪感が芽生えてしまっていた。
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