ゆうしゃのあゆみ

秋月 銀

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第二章 引きこもりの少女

7 二人なら

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 季節は春。本日は雲一つ無い快晴ナリ。
 肌を撫でて通り過ぎる風は心地良い。気分も次第に高まるというものだ。

 「やけにテンション高ぇなタクト。さっきの感動的な別れはどうしたよ」

 隣を歩いているルル姉は、ご機嫌斜めといった感じだ。それもそのはず、僕達は今まで過ごしてきた村を出て旅に出たんだ。もしかしたら途中で命を落とす、なんて事も不思議ではない旅。あの別れが最後の邂逅になってしまうのは、流石に僕も無念ではある。

 「まぁ…確かにあの村を出るのは嫌だったし悲しかったけどさ……。でも今はわくわくの方が大きいんだ」

 僕らを照らす太陽に向かって両手を広げる。太陽との間に障害物はない。全身、陽光に包まれて僕の体は温かい熱に包まれている様だ。

 「本当に、僕達は勇者になったんだよ」

 キラッと胸元で輝石が太陽の光を浴びて、輝きを増す。

 そんな僕とは正反対にルル姉は未だ暗い表情のままだ。

 「そりゃアタシも嬉しいさ。勇者なんて一生に一度、なれるかどうかすらもわからねぇ。こんな機会、二度とくるはずねぇ」
 「そうだね」
 「でも、オマエ程楽観的にはなれねぇな」

 ルル姉は前を見たまま歩いていく。僕も前を見て歩く。

 「旅なんてした事ねぇし、村の外を大人の付き添い無しで出た事もねぇ。ましてや闘うなんざ、その覚悟すら決めてた事ねぇよ」
 「そんな事なら大丈夫なんじゃない?」
 「そんな事って……オマエなぁ」
 「だって一人じゃないじゃない。ルル姉には僕がいるし、僕にはルル姉がいる」

 その言葉にルル姉が初めてこちらを向いた。今まで見えなかった表情には、やはりこれからの不安がありありと見て取れた。

 だから僕は出来るだけ強く言い切る。

 「僕達二人なら、何だってできるさ」

 ルル姉と出会ってもう十六年だ。僕が生まれた時から、ルル姉は一緒なんだ。

 二人で遊んだり、イタズラしたり、一緒に怒られたり、その事で喧嘩したり。僕の人生の半分は、確実にルル姉と過ごしてきた。

 今では、僕がルル姉の身長を追い越して、頭ニつ分程大きくなってしまってはいるけれど。それでも僕達は対等な関係で、お互いを半身だと言い合える関係だ。

 僕の顔を覗き込む様に見ていたルル姉は、クスッと笑う。あどけない表情。その笑顔だけを見るなら、誰も彼女を僕より年上だなんて思わない。そんな彼女が背負う負担なら、僕も一緒になって背負うつもりだ。

 「いっちょ前に格好つけやがって。年下の癖に生意気だなタクトは」
 「ルル姉も黙っていれば美人なんだけどなぁ」
 「うっせぇ!」

 ゴス!と思い切り肩を殴られた。

 ルル姉の表情からはもう不安の色は消えていた。その事に安堵する。ルル姉が不安だと僕まで不安になってくる。僕にとってルル姉は家族の次くらいに重要人物なのだ。

 肩に残る痛みは、ルル姉の決意の強さを表しているようだった。彼女はもう下を向いていない。顔を上げて前を見据えて未来を見つめて、一歩一歩を歩き出していた。

 ルル姉は体に不釣り合いな巨大なリュックをユッサユッサと揺らしながら歩く。

 「その中って一体何が入ってるの?」
 「んー?まぁ食料とか最低限の衣類とか金とか…後は弓矢だな」

 弓矢を構えたルル姉を想像する。なんだかしっくりきた。それに弓矢は【集中の勇者】であるルル姉にはピッタリの武器だろう。

 後衛から外れない弓矢を放つとなれば、敵にすれば脅威、味方にしてみればこれ以上なく心強い。

 僕も何か武器を持ってきた方が良かったのだろうか。僕のバックパックには食料と衣類とお金と家族から貰ったお守りしか入っていない。

 まぁ使える武器は片手剣くらいなので、どこでも調達しようと思えば出来るだろう。僕に片手剣での闘い方を教えてくれた人を思い返す。思い切り我流の闘い方だったけれど、強さは異常だった。習うのに一苦労だったのを良く覚えている。

 まさか以前習った片手剣が役に立つ日がくるとは………。

 格好をつける為だけに練習した片手剣だったが、人生とはわからないものである。

 「後ナイフと針と折り畳み式の槍も入ってるぞ」
 「ルル姉の方が僕より気合い入ってるんじゃない?」
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