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第一章 はじまりは村から
3 ………そっと戻した
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「アタシも勇者だ」
そう言い放ったルル姉を思わず凝視してしまう。
ルル姉も………勇者だと……?
さっきまであった秘密を打ち明ける際の高揚感は消えてしまい、残ったのは驚愕のみ。僕の視線に気づいたのか、ルル姉がジト目で睨み返してくる。
「なんだ?まさか疑ってるって訳じゃないだろうな?」
「……いや、僕が選ばれてる時点で他の全人類の誰が選ばれてもおかしくはないと思っていたんだけれど………」
「だけど?」
「それがまさかルル姉だとは思わないよ普通……」
「まー話を聞かされたときは流石のアタシもビビったわな。でもこんな輝石とか渡されて『君は勇者だ』なんて神様本人から言われちゃ信じるしかないだろ」
ほれ、と言ってルル姉も首にかけていた輝石を取り出す。
僕の輝石は緑色だが、ルル姉の輝石は空を彷彿とさせる青色だった。輝石の内部には変哲文字、いや神聖文字が刻まれている。僕のとは文字の形が少しばかり違っている。
ルル姉もどうやら僕の輝石を見ていたらしく、はーんとかふーんとか言っている。
「輝石ってのは似たようなもんなんだな」
「そりゃ勇者の証明だからね。一人だけ豪華な輝石なんて渡してもらえないでしょ」
「それもそうか。にしてもタクトも選ばれていたってのは素直に驚きだな。アタシが喧嘩で泣かしていた頃が懐かしいぜ」
「そんな昔を思い出させないでよ。今思い出しても辛くなる」
あの頃の思い出が笑い話に出来るまでにはもう少し時間がかかりそうだ。そもそも笑い話に出来る未来がくるかどうかも不確定なんだけれど。
そこでふと、思いついた事をルル姉に尋ねた。
「そういえばルル姉って何の勇者なの?」
「んあ?確か……【集中の勇者】……だったかな」
「………何その称号」
「そんなのアタシが聞きてえよ」
ルル姉はやれやれだと言わんばかりに肩をすくめる。【集中の勇者】と言う程だから、ルル姉は集中力が他の人よりも優れていたという事なのだろう。今までの付き合いで集中力を発揮した場面がないから納得はしづらいけれど。
「タクト。おまえはどうだったんだ?」
「僕は【可能性の勇者】だって」
「可能性ぃ?えらく抽象的じゃねぇか」
「それを言うならルル姉もそうなんだけれど。集中が神様との決闘で生かされる場面が想像出来ないよ」
「おまえもな」
僅かに睨み合った後、お互い噴き出して声を上げて笑う。
勇者に選ばれた事は素直に嬉しかった。けどそれ以上に不安もあったんだと実感する。
討神祭を見ず知らずの勇者達で闘っていくことに不安を感じない訳がない。いくら討神祭まで一年という準備期間があれど、初対面の時は嫌でも緊張してしまう事だっただろう。
勇者に似つかわしくない僕が勇者である事に他の勇者達から嫌悪感を示されたら。神様が認めてくれた僕の【可能性】を馬鹿にされたら。そんなありもしない未来を考えて、一人で不安になっていた。でもその不安は全部吹っ飛んでしまった。
ルル姉がいるから。彼女もまた勇者であったから。今はそのことが嬉しくてたまらない。
一人では不安な事も、二人なら怖くない。
多分、ルル姉も同じ事を考えていたのだと思う。
僕らはしばらくの間、笑い続けていた。
◆◆◆
「さて…ルル姉。この後時間あるかな?」
「あるっちゃあるが、どうした」
「神様に、討神祭とか勇者とかの詳しい説明は神父にでも聞けって言われたんだ。だから一緒に教会に行こうかと思って」
「そういやアタシもろくに説明受けてなかったな………。よっしゃ、そんじゃ買い物終わったら教会に行くか」
僕らは再び会う約束をして別れる。そしてやっとこさ本来の目的の為に八百屋を覗いた。
大根、人参、玉ねぎ、キャベツ……とりあえずメモに書かれていたものは見つけた。それらをポイポイっと買い物かごに放り込んでいる途中で「うぎゃぁぁぁ!!」と小さくくぐもってはいたが、確かに叫び声が聞こえた。
とっさに叫び声があった方を振り向くと、猿轡をされた植物がいた。必死とも言える形相で手足?をジタバタさせながら、「うぎゃぁぁぁ!!」と叫び続けている。
その植物の下には『産地直送!新鮮!マンドラゴラ!』と書かれた貼り紙が。
思わず手に取ってみる。葉っぱが生えた頭?をぶるんぶるん振って相変わらず「うぎゃぁぁぁ!!」と叫び続けている。
僕はそっと商品棚に戻した。
そう言い放ったルル姉を思わず凝視してしまう。
ルル姉も………勇者だと……?
さっきまであった秘密を打ち明ける際の高揚感は消えてしまい、残ったのは驚愕のみ。僕の視線に気づいたのか、ルル姉がジト目で睨み返してくる。
「なんだ?まさか疑ってるって訳じゃないだろうな?」
「……いや、僕が選ばれてる時点で他の全人類の誰が選ばれてもおかしくはないと思っていたんだけれど………」
「だけど?」
「それがまさかルル姉だとは思わないよ普通……」
「まー話を聞かされたときは流石のアタシもビビったわな。でもこんな輝石とか渡されて『君は勇者だ』なんて神様本人から言われちゃ信じるしかないだろ」
ほれ、と言ってルル姉も首にかけていた輝石を取り出す。
僕の輝石は緑色だが、ルル姉の輝石は空を彷彿とさせる青色だった。輝石の内部には変哲文字、いや神聖文字が刻まれている。僕のとは文字の形が少しばかり違っている。
ルル姉もどうやら僕の輝石を見ていたらしく、はーんとかふーんとか言っている。
「輝石ってのは似たようなもんなんだな」
「そりゃ勇者の証明だからね。一人だけ豪華な輝石なんて渡してもらえないでしょ」
「それもそうか。にしてもタクトも選ばれていたってのは素直に驚きだな。アタシが喧嘩で泣かしていた頃が懐かしいぜ」
「そんな昔を思い出させないでよ。今思い出しても辛くなる」
あの頃の思い出が笑い話に出来るまでにはもう少し時間がかかりそうだ。そもそも笑い話に出来る未来がくるかどうかも不確定なんだけれど。
そこでふと、思いついた事をルル姉に尋ねた。
「そういえばルル姉って何の勇者なの?」
「んあ?確か……【集中の勇者】……だったかな」
「………何その称号」
「そんなのアタシが聞きてえよ」
ルル姉はやれやれだと言わんばかりに肩をすくめる。【集中の勇者】と言う程だから、ルル姉は集中力が他の人よりも優れていたという事なのだろう。今までの付き合いで集中力を発揮した場面がないから納得はしづらいけれど。
「タクト。おまえはどうだったんだ?」
「僕は【可能性の勇者】だって」
「可能性ぃ?えらく抽象的じゃねぇか」
「それを言うならルル姉もそうなんだけれど。集中が神様との決闘で生かされる場面が想像出来ないよ」
「おまえもな」
僅かに睨み合った後、お互い噴き出して声を上げて笑う。
勇者に選ばれた事は素直に嬉しかった。けどそれ以上に不安もあったんだと実感する。
討神祭を見ず知らずの勇者達で闘っていくことに不安を感じない訳がない。いくら討神祭まで一年という準備期間があれど、初対面の時は嫌でも緊張してしまう事だっただろう。
勇者に似つかわしくない僕が勇者である事に他の勇者達から嫌悪感を示されたら。神様が認めてくれた僕の【可能性】を馬鹿にされたら。そんなありもしない未来を考えて、一人で不安になっていた。でもその不安は全部吹っ飛んでしまった。
ルル姉がいるから。彼女もまた勇者であったから。今はそのことが嬉しくてたまらない。
一人では不安な事も、二人なら怖くない。
多分、ルル姉も同じ事を考えていたのだと思う。
僕らはしばらくの間、笑い続けていた。
◆◆◆
「さて…ルル姉。この後時間あるかな?」
「あるっちゃあるが、どうした」
「神様に、討神祭とか勇者とかの詳しい説明は神父にでも聞けって言われたんだ。だから一緒に教会に行こうかと思って」
「そういやアタシもろくに説明受けてなかったな………。よっしゃ、そんじゃ買い物終わったら教会に行くか」
僕らは再び会う約束をして別れる。そしてやっとこさ本来の目的の為に八百屋を覗いた。
大根、人参、玉ねぎ、キャベツ……とりあえずメモに書かれていたものは見つけた。それらをポイポイっと買い物かごに放り込んでいる途中で「うぎゃぁぁぁ!!」と小さくくぐもってはいたが、確かに叫び声が聞こえた。
とっさに叫び声があった方を振り向くと、猿轡をされた植物がいた。必死とも言える形相で手足?をジタバタさせながら、「うぎゃぁぁぁ!!」と叫び続けている。
その植物の下には『産地直送!新鮮!マンドラゴラ!』と書かれた貼り紙が。
思わず手に取ってみる。葉っぱが生えた頭?をぶるんぶるん振って相変わらず「うぎゃぁぁぁ!!」と叫び続けている。
僕はそっと商品棚に戻した。
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