ゆうしゃのあゆみ

秋月 銀

文字の大きさ
上 下
3 / 37
第一章 はじまりは村から

3 ………そっと戻した

しおりを挟む
 「アタシも勇者だ」

 そう言い放ったルル姉を思わず凝視してしまう。
 ルル姉も………勇者だと……?
 さっきまであった秘密を打ち明ける際の高揚感は消えてしまい、残ったのは驚愕のみ。僕の視線に気づいたのか、ルル姉がジト目で睨み返してくる。

 「なんだ?まさか疑ってるって訳じゃないだろうな?」
 「……いや、僕が選ばれてる時点で他の全人類の誰が選ばれてもおかしくはないと思っていたんだけれど………」
 「だけど?」
 「それがまさかルル姉だとは思わないよ普通……」
 「まー話を聞かされたときは流石のアタシもビビったわな。でもこんな輝石とか渡されて『君は勇者だ』なんて神様本人から言われちゃ信じるしかないだろ」

 ほれ、と言ってルル姉も首にかけていた輝石を取り出す。
 僕の輝石は緑色だが、ルル姉の輝石は空を彷彿とさせる青色だった。輝石の内部には変哲文字、いや神聖文字ヒエログリフが刻まれている。僕のとは文字の形が少しばかり違っている。

 ルル姉もどうやら僕の輝石を見ていたらしく、はーんとかふーんとか言っている。

 「輝石ってのは似たようなもんなんだな」
 「そりゃ勇者の証明だからね。一人だけ豪華な輝石なんて渡してもらえないでしょ」
 「それもそうか。にしてもタクトも選ばれていたってのは素直に驚きだな。アタシが喧嘩で泣かしていた頃が懐かしいぜ」
 「そんな昔を思い出させないでよ。今思い出しても辛くなる」

 あの頃の思い出が笑い話に出来るまでにはもう少し時間がかかりそうだ。そもそも笑い話に出来る未来がくるかどうかも不確定なんだけれど。

 そこでふと、思いついた事をルル姉に尋ねた。

 「そういえばルル姉って何の勇者なの?」
 「んあ?確か……【集中の勇者】……だったかな」
 「………何その称号」
 「そんなのアタシが聞きてえよ」

 ルル姉はやれやれだと言わんばかりに肩をすくめる。【集中の勇者】と言う程だから、ルル姉は集中力が他の人よりも優れていたという事なのだろう。今までの付き合いで集中力を発揮した場面がないから納得はしづらいけれど。

 「タクト。おまえはどうだったんだ?」
 「僕は【可能性の勇者】だって」
 「可能性ぃ?えらく抽象的じゃねぇか」
 「それを言うならルル姉もそうなんだけれど。集中が神様との決闘で生かされる場面が想像出来ないよ」
 「おまえもな」

 僅かに睨み合った後、お互い噴き出して声を上げて笑う。

 勇者に選ばれた事は素直に嬉しかった。けどそれ以上に不安もあったんだと実感する。
 討神祭を見ず知らずの勇者達で闘っていくことに不安を感じない訳がない。いくら討神祭まで一年という準備期間があれど、初対面の時は嫌でも緊張してしまう事だっただろう。

 勇者に似つかわしくない僕が勇者である事に他の勇者達から嫌悪感を示されたら。神様が認めてくれた僕の【可能性】を馬鹿にされたら。そんなありもしない未来を考えて、一人で不安になっていた。でもその不安は全部吹っ飛んでしまった。

 ルル姉がいるから。彼女もまた勇者であったから。今はそのことが嬉しくてたまらない。

 一人では不安な事も、二人なら怖くない。
 多分、ルル姉も同じ事を考えていたのだと思う。

 僕らはしばらくの間、笑い続けていた。

◆◆◆

 「さて…ルル姉。この後時間あるかな?」
 「あるっちゃあるが、どうした」
 「神様に、討神祭とか勇者とかの詳しい説明は神父にでも聞けって言われたんだ。だから一緒に教会に行こうかと思って」
 「そういやアタシもろくに説明受けてなかったな………。よっしゃ、そんじゃ買い物終わったら教会に行くか」

 僕らは再び会う約束をして別れる。そしてやっとこさ本来の目的の為に八百屋を覗いた。

 大根、人参、玉ねぎ、キャベツ……とりあえずメモに書かれていたものは見つけた。それらをポイポイっと買い物かごに放り込んでいる途中で「うぎゃぁぁぁ!!」と小さくくぐもってはいたが、確かに叫び声が聞こえた。

 とっさに叫び声があった方を振り向くと、猿轡さるぐつわをされた植物がいた。必死とも言える形相で手足?をジタバタさせながら、「うぎゃぁぁぁ!!」と叫び続けている。

 その植物の下には『産地直送!新鮮!マンドラゴラ!』と書かれた貼り紙が。
 思わず手に取ってみる。葉っぱが生えた頭?をぶるんぶるん振って相変わらず「うぎゃぁぁぁ!!」と叫び続けている。

 僕はそっと商品棚に戻した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...