上 下
29 / 38

29.ストライク

しおりを挟む
木々の間を駆けながらも、僕は試しに翼を創リ出す。
暫しの休息の効果だろうか。魔力の羽は1枚1枚形を成すと、半透明の黒い翼を形成する。
僕は木々の隙間の距離を測るように背の翼を広げると、勢いを助走に変えて風を捕まえる。体を少しだけ地面から浮き上がらせると、木々の間を縫うように翔んだ。近景がブォンブォンと絶え間なく僕の翼を掠めていく。通り道は嵐が通り過ぎたかのように騒めく。
翼は僕を兎達の前へとあっという間に連れていった。

狼に跨がり槍を持った兎達の集団。狼達は地面の匂いを嗅ぎ回っていた。
僕は黒い翼を横にして風を受け、1度フワリと体を舞い上がらせるとスタンと地面へと降りる。そして翼を仕舞った。

兎と狼達は僕の方から突然に姿を現したことに、ひどく狼狽する。

「ノコノコと現れ…。」
僕は兎が喋り終わる前に、鎧の上から腹に一撃を喰らわす。
バギッと豪快な音とともに鎧に亀裂が奔り、狼の上から吹き飛ばされた兎は、まるでボーリングの玉のように後ろの木々を薙ぎ倒していく。

そこまでするつもりはなかった。
やはり力の加減が難しい。
派手に木々が倒れる音を聞きつけて、狼の大群が地面を蹴る地響きと、それに跨る兎達の鎧が擦れる音がビシビシと近づいてくる。

周りの兎達は狼に跨ったまま、槍を構えて僕へと襲いかかる。
僕は力の調整の鍛錬を兼ね、襲い来る兎と狼を今度は優しく丁寧に、1匹1匹を気絶させていく。狼達の野生的な動きは、兎よりは僕を退屈させない。

周りに60~70匹ほどの兎と狼が積み上がった時だった。

「キャッ!!」
後方で悲鳴が聞こえる。ミレだ。僕は瞬間、あと僅かとなった兎と狼達を置き去りにして地面を蹴る。

そこには赤い鎧の兎に首を押さえられ、顔に剣を突き付けられたミレの姿があった。
しおりを挟む

処理中です...