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1章 出会い
洸との出会い
しおりを挟む僕はふと目を覚ました。目を覚ましたが目の前は変わらず暗かった。
不思議に思い「あれっ…」と少し声を出したつもりだった。
その声は声にもならずに空気だけが僅かに動いた。
「目を覚ましたのか?」
大人の少し低い男の人の声がした。僕は少し顔を声のした方に向けるも、変わらず視界は真っ暗なままだ。
空気の動きから男の人が近付いてくると感じ、僕は思わず身体を守るようにベッドの上で身体を丸めた。
来ると思っていた痛みも衝撃もいつになってもやって来ない。不思議に思い少しだけ顔を上げた。
「殴らねぇよ。信じられないかもしれないが、俺は絶対にお前を殴らない。」
少し悔しそうな声に聞こえた。僕はそんな嘘はいくらでも聞いた。と思いながら動きにくい身体を何とか動かして身体を起こした。
手探りにベッドから降りようとすると今度は驚いた様に声を掛けられた。
「もしかして目が見えてないのか?」
普段だったら顔も名前も知らない人からの言葉に返事なんかしない。
でも僕はなぜかこの人の言葉に気付けば小さく頷いていた。
「そうか…。電気明るくしてもいいか?」
もしかしたら見えるかも、そう思って小さく頷いた。するとパッと周りが明るくなり少しボヤけているものの少しずつ周りが見えてきた。
「よかった。少しは見えてるみたいだな。俺は洸28歳。20歳からホストで働いて今は独立してオーナーになった。此処は俺の店。お前は?」
スラスラと自己紹介をする洸と名乗る人。名前くらいはと口を開くがやはり空気が僅かに動くだけだった。
「お前、声…。」
僕の様子に気付いた洸さんに、僕は『役立たず』と殴られると罵られると思い、再び身構えた。
「殴らねぇから。お前音出なくていいからいつも通り話してくれ。久々だけど読み取れるから。」
どういうことだろう。意味がよく分からなかったが、音の出ない口でいつも通り話してみることにした。
‘紫雨です。18歳になりました。'
「紫雨か。18?もっと小さいかと思ったな。そこまで、か…」
ほんとに洸さんは僕の言った事を聞き取ってくれた。カラクリは分からないけど…
「紫雨。目も声も直ぐにとは言えないが、元に戻る。それで、これからどうするつもりだ?」
これから…。こんな状態で生きていけるはずがない。やっぱり僕なんて死んでしまったらよかったのに。
「もしよければなんだが、回復したらうちで働くというのを条件にここで療養しないか?」
’ここで、?僕は仕事なんてしたことないです。’
誰からも必要とされなかった僕が誰かの役に立てる筈がない。僕は俯き申し訳なさからベッドから降りようとした。
「待て待て。大丈夫、ここには紫雨みたいに働いたこと無かった奴が何人かいるんだ。」
洸さんは僕に触れはしないものの、少しだけ僕に近寄った。
「まだフラフラだし目も完璧ではないのだろ?」
なんで、この人は優しくしてくるんだろう。なんで僕を殴らないのだろう。優しい人は怖い。きっと近くに居てはいけない。
「俺のこと信じれないのは分かる。俺は信じてくれるまで待つよ。ああ、そうだ。風呂は入れそうか?難しければお湯とタオルを持ってくる。」
僕はどうしていいか分からなかった。お風呂は僕を虐める場所でしょ?断ってもいいってこと?
’お風呂は苦しいところなのに、断れる、?’
つい僕は独り言のように口を動かしてしまっていた。
「ああ、悪い。そうか、配慮が足りなかった。お湯とタオル持ってくるよ。新しい着替えもな。逃げてもいいが俺は戻って来るからな?」
そう言って洸さんは部屋から出て行った。なぜ洸さんは謝ったのだろう。戻ってくるって言ってたし大人しく待ってるしかないかも。捕まったらきっとお風呂に連れて行かれるんだ。
「おお、待っててくれたのか?ありがとな。」
洸さんは戻ってくるとボヤけた僕の視界でも分かるほどにニコッと笑った。
「紫雨、自分で服脱げるか?力入らねぇなら申し訳ないけど、触れてもいいだろうか。」
洸さんの声は慎重に心配そうな声だった。僕は少しずつこの人に捨てられたら死んでもいいのではないかと思う様になっていた。
この優しそうな人に捨てられるなら拾われずに死んでいたのと大して変わらないと思ったからだ。だから僕は力が入らないこともあり、静かに頷いた。
「ありがとう。上の服から脱がせるよ。触るね」
洸さんは視界が未だにボヤけている僕が驚かないように自分が次にどんな行動を取るのか、また触ることもその都度僕に教えてくれた。スルスルと服が脱がされていくと洸さんの息を呑む音が聞こえた。
「脱がせてからですまないが救急箱を取りに行ってきてもいいだろうか。この部屋には誰も入らないようにしておく。直ぐに戻るから。」
また血が出ているのか。いつものことだけど、お洋服借りるから汚しちゃいけないよな。
’ごめんなさい’
僕はわざわざ洸さんの手を煩わせてしまったことを謝った。そして、行っていいよと頷いた。
洸さんは行ってくると部屋を出ると部屋の外を小走りに走る音が微かに聞こえた。そして、暫くするとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「紫雨、俺だ。入るぞ。」
洸さんはそう言って静かにドアを開けた。急いで来てくれたのだろう。少し息が切れていた。
「紫雨、待っててくれてありがとう。少し染みるかもしれないが、消毒しながら怪我の処置もしていくから。」
’ごめんなさい…’
既に全身痛くて感覚なんてほとんどないのになんでわざわざ怪我の処置?をしてくれるんだろう。
本当にこの人は分からない。なんで『ありがとう』って言ったのかも、こんな汚い僕に触れるのかも
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