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涙の再会2
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「リリアンナ様……」
「それを、殿下とお話ししなければなりません。騎士団長とも。お二人はどちらです?」
丁寧に訪ねると、青年はハッと気まずそうな顔になる。
「団長は作戦室にいらっしゃいます。殿下は……」
「……殿下は?」
――嫌な予感がする。
そう感じたが、リリアンナは努めて冷静に訪ねる。
「……負傷者として、ベッドにいます」
「――分かりました」
この一瞬で心にダメージを喰らう覚悟をしたリリアンナは、平坦な声で返事をした。
「回復室まで案内を頼めますか?」
「……はい」
青年は先に歩き出し、リリアンナはその後につく。
途中、美しいリリアンナを目にして、騎士や兵士たちが浮き足立ち、騒ぎ出す。
今までリリアンナは自分の外見や、女性としてのあり方に目を向けなかったが、こういう時こそ象徴的な存在は必要なのだと感じた。
愛嬌を振りまくのは得手ではないが、なるべく穏やかな笑みを浮かべて「もう大丈夫ですよ」と声をかけながら進む。
リリアンナに微笑みかけられ、ポンと肩を叩かれただけで「よっしゃ!」と声を上げる者も大勢いて、その効果は抜群だ。
(私は今まで、自分の役割を少し勘違いしていたかもしれないわ。女性として見られるのは嫌で、騎士として見て欲しいと思ってきた。それは今でも変わらない。……でも女性には、男性にはない魅力があるのも確かなんだわ)
恐らく、これが美しく爽やかなケインツだとしても、騎士たちの士気がこんなに上がることはないだろう。
そこにいるだけで場が華やぐという意味では、美しい女性という存在はとても重要である。
勿論リリアンナは、ただお飾りのためだけに来た訳ではないが。
「こちらです」
進めば進むほど、消毒薬の匂いやうめき声が近くなった。
青年が手で示した先、ドアが開いたままの救護室がある。中にはベッドがズラリと並び、救護班が忙しく歩き回っている。
更にその奥はカーテンで仕切られていて、重傷者が寝かされているようだった。
「ありがとうございます」
青年に礼を言い、リリアンナは近くにいた救護班に話しかける。
「任務中失礼します。殿下はここにいらっしゃいますか?」
「リ……ッ、リリアンナ様!?」
押し殺した声に、入り口近くにいる者たちは彼女の存在に気付いた。
痛みに耐えながら寝ていた顔に、サッと希望の色が差し込んだのを、リリアンナは見逃さない。
同時に自分や応援の力で、絶対にこの戦争を終わらせないといけないと思った。
「で、殿下はこちらです……」
ベッドの間を縫うようにして、彼は先に歩き出す。
時折、ウォーリナの治癒術士らしき人物とすれ違い、中には女性もいた。
案内されたのは、奥のカーテンに仕切られた場所だった。
「そこまで重傷なのですか?」
胸の奥に重たいものがのしかかり、リリアンナの胃がキリキリと痛む。
けれど「決して目を背けない」と思ったリリアンナは、唇を引き結び背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を向いていた。
「安静が必要なのと、殿下は少し特別扱いです。……これは、内緒で。殿下はご自身が精霊を行使できないのを気にされてか、人一倍働かれていました。ですから我々としましても、殿下にはゆっくり休んで頂きたいのです」
音量を抑えた声で救護班の者が言い、一人一人カーテンで仕切られた奥の一部屋を示した。
「……ありがとうございます」
静かに頭を下げ、リリアンナは少しそこに立っていた。
一年近くディアルトに会えていなかった。
彼が戦地からロキアを通じて、リリアンナにバラを送るよう手配しなければ、自分はまだ鬱々としたまま王宮にいたかもしれない。
「……私の心に火をつけたのは、殿下ですよ」
そう呟くと、リリアンナは静かにカーテンを開いた。
「あ……っ」
中には、女性がいた。
ウォーリナの治癒術士なのか、白い衣を纏っている髪の長い女性だ。ベッドで寝ているディアルトを、椅子に座ってずっと見つめていたようだ。
おまけに――。彼女はディアルトの手を握っていた。
「…………」
グラァッと胸の奥で黒い炎が燃え、醜い『嫉妬』という感情に振り回されたリリアンナは、一瞬知らない女性ごとディアルトを怒鳴りかけた。
「それを、殿下とお話ししなければなりません。騎士団長とも。お二人はどちらです?」
丁寧に訪ねると、青年はハッと気まずそうな顔になる。
「団長は作戦室にいらっしゃいます。殿下は……」
「……殿下は?」
――嫌な予感がする。
そう感じたが、リリアンナは努めて冷静に訪ねる。
「……負傷者として、ベッドにいます」
「――分かりました」
この一瞬で心にダメージを喰らう覚悟をしたリリアンナは、平坦な声で返事をした。
「回復室まで案内を頼めますか?」
「……はい」
青年は先に歩き出し、リリアンナはその後につく。
途中、美しいリリアンナを目にして、騎士や兵士たちが浮き足立ち、騒ぎ出す。
今までリリアンナは自分の外見や、女性としてのあり方に目を向けなかったが、こういう時こそ象徴的な存在は必要なのだと感じた。
愛嬌を振りまくのは得手ではないが、なるべく穏やかな笑みを浮かべて「もう大丈夫ですよ」と声をかけながら進む。
リリアンナに微笑みかけられ、ポンと肩を叩かれただけで「よっしゃ!」と声を上げる者も大勢いて、その効果は抜群だ。
(私は今まで、自分の役割を少し勘違いしていたかもしれないわ。女性として見られるのは嫌で、騎士として見て欲しいと思ってきた。それは今でも変わらない。……でも女性には、男性にはない魅力があるのも確かなんだわ)
恐らく、これが美しく爽やかなケインツだとしても、騎士たちの士気がこんなに上がることはないだろう。
そこにいるだけで場が華やぐという意味では、美しい女性という存在はとても重要である。
勿論リリアンナは、ただお飾りのためだけに来た訳ではないが。
「こちらです」
進めば進むほど、消毒薬の匂いやうめき声が近くなった。
青年が手で示した先、ドアが開いたままの救護室がある。中にはベッドがズラリと並び、救護班が忙しく歩き回っている。
更にその奥はカーテンで仕切られていて、重傷者が寝かされているようだった。
「ありがとうございます」
青年に礼を言い、リリアンナは近くにいた救護班に話しかける。
「任務中失礼します。殿下はここにいらっしゃいますか?」
「リ……ッ、リリアンナ様!?」
押し殺した声に、入り口近くにいる者たちは彼女の存在に気付いた。
痛みに耐えながら寝ていた顔に、サッと希望の色が差し込んだのを、リリアンナは見逃さない。
同時に自分や応援の力で、絶対にこの戦争を終わらせないといけないと思った。
「で、殿下はこちらです……」
ベッドの間を縫うようにして、彼は先に歩き出す。
時折、ウォーリナの治癒術士らしき人物とすれ違い、中には女性もいた。
案内されたのは、奥のカーテンに仕切られた場所だった。
「そこまで重傷なのですか?」
胸の奥に重たいものがのしかかり、リリアンナの胃がキリキリと痛む。
けれど「決して目を背けない」と思ったリリアンナは、唇を引き結び背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を向いていた。
「安静が必要なのと、殿下は少し特別扱いです。……これは、内緒で。殿下はご自身が精霊を行使できないのを気にされてか、人一倍働かれていました。ですから我々としましても、殿下にはゆっくり休んで頂きたいのです」
音量を抑えた声で救護班の者が言い、一人一人カーテンで仕切られた奥の一部屋を示した。
「……ありがとうございます」
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そう呟くと、リリアンナは静かにカーテンを開いた。
「あ……っ」
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ウォーリナの治癒術士なのか、白い衣を纏っている髪の長い女性だ。ベッドで寝ているディアルトを、椅子に座ってずっと見つめていたようだ。
おまけに――。彼女はディアルトの手を握っていた。
「…………」
グラァッと胸の奥で黒い炎が燃え、醜い『嫉妬』という感情に振り回されたリリアンナは、一瞬知らない女性ごとディアルトを怒鳴りかけた。
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