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一時帰還3

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「リオンは……」
 悔し紛れに弟の名を出しても、ディアルトの姿勢は変わらない。
「彼は安全を約束されているし、後方から攻撃のできる術士だ。君はどちらかと言えば、すぐ敵に接近するタイプだろう」
「……脳筋ですみません」
「はは、そんなこと言ってないよ。……そうじゃなくて。公爵家令嬢を大事にしなければいけない。あの大きな屋敷で一人当主の座を守っているライアン殿を、一人にしてはいけない。それだけなんだ」
 開かれた城門まで着くと、その奥にある騎士が生活するエリアへと、人がゾロゾロ向かっている。
 まだしゃがみ込んで動けない者もいて、時折うめき声も聞こえる。
 その姿が『現実』を伝えていた。
 彼らがいる向こう、城門の所にまとめられたリリアンナの荷物が見える。
「私にできることはありますか?」
 リリアンナの足が止まり、ディアルトの手を引く。
「じゃあ、俺が王都にいる間、いつものようにしていて。笑ってくれたらなお嬉しい」
「了解致しました。殿下がご不在の時の命令も、お願い致します」
 踵をつけ、直立不動になる。
 真剣な表情をするリリアンナの顔色は、やや青白い。目の下にはクマもある。
 そんな風に面差しを変えてしまった彼女を見るのは、ディアルトにとって辛いことだった。
 彼女が自分を好きなのは分かっているし、仕えて守るべき相手がいないとリリアンナが駄目になってしまうのも理解している。
 けれどリリアンナを戦場に連れて行くことはできない。
 だからディアルトは、王都で待機しているリリアンナに命令を出すのだ。
「今まで通り、ちゃんと三食とって適切な運動をし、よく眠ること。体重を以前ほどまで戻し、筋力を戻すこと。俺がいつ戻っても、すぐ護衛の仕事ができるように」
「はいっ!」
 グッと背筋を伸ばし、リリアンナは腹の底から声を出す。
 ――これが最後の命令になるかもしれない。
 そう思うと、今にも目から涙が零れそうだった。
 午前中の明るい空を背景に、髪を伸ばしやつれた姿のディアルトが微笑んでいる。
「……それでこそ、俺のリリィだ」
 誇らしげに笑い、ディアルトはリリアンナの背に手を添えた。
「行こう。王宮に戻って陛下に必要な物資を報告しなければならない。戦況や死傷者の数。騎士団からも報告はあるだろうが、俺が実際に行って見てきたことを説明しなければならない」
「はい、お供致します」
 門を通って真っ直ぐ歩いて行くディアルトの後を、荷物を持ったリリアンナが着いてゆく。
 怪我人たちの受け入れをしていたケインツは、久しぶりに見る二人の後ろ姿を見て微笑むのだった。
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